第74話 偶然の産物
「楽しそうな部隊だな。ここは。うちの部隊は隊長の私が居るとみんな気を使って静かにしているらしいんだ。いつもはこんな感じでの飲んでいるのかなと思うと少し心苦しい」
半分以上は呆れていると言う顔のエルマに合わせてカウラは無理のある笑みを浮かべる。
「エルマさん。あんた、何か言いたいことがあってこいつに声をかけたんじゃねえのか?アンタ等社会に見慣れなラスト・バタリオンがいきなり飲みに行きたいなんてアタシ等を誘う訳がねえ。言ってみな、何かあったんだろ?」
タコの酢の物に手を伸ばしたかなめの言葉にエルマは表情を切り替えた。
「ああ、そうだ。今夜は例の『武悪』が司法局実働部隊に搬入されるらしいな。整備班の班長が不在なのもそれが理由なんだろ?」
エルマの言葉に場が一瞬で凍り付いた。
「どこでその情報を?」
カウラの問いにエルマは首を振った。
「機動隊の方と言うことは警備任務があったんじゃないですか?」
誠が適当に言った言葉に頷き、エルマはそのまま腕の端末に手を回した。
「神前曹長はなかなか鋭いな。私は新港での『武悪』の荷揚げ作業の警備担当だった」
エルマはこれまでの笑顔を神妙なものに変えてそう言った。
「だけどそれだけで私に声をかけたわけじゃないんだろ?何かあったんだな」
カウラの言葉を聞きながらエルマは端末の上に浮かぶ画面を検索していた。
「警備の最中に何も無ければ……確かにな。貴様のことなど忘れていたかもしれない」
そう言って笑みを浮かべるエルマが端末の上に画像を表示させた。
闇の中に浮かぶ高級乗用車。見たところ東和では珍しいアメリカ製の黒塗りの電気自動車である。そこには少年が一人、窓の外に顔を出した運転手のサングラスの男の顔も見えた。
「外ナンバーか……新港。地球勢力に監視している連中がいたところで不思議は無いな。アレの輸送に関してはかなりの水漏れは上層部も計算済みだったはずだ。あんな規格外の物を移送する計画が外部に漏れないはずが無い」
カウラはそう言って自分の端末にその写真をコピーした。それをわざわざ立ち上がって覗き込むかなめ。しかし、それを見たかなめの表情が急に変わった。
「おい、叔父貴じゃねえの?この餓鬼。いつの間にか小さくなっちゃって……誰かみたいに」
誠もカウラもしばらくはかなめの言葉の意味が分からずに呆然としていた。しかし、ランの眼光はすぐさま光を帯びてかなめに向かった。