第71話 『特殊な部隊』おすすめの店
「ここのネギまはネギが良いんだ」
カウラの助言に頷くとエルマはネギまを手に取った。そしてそのまま口に運ぶと途端にうれしそうな顔になる。
「これは確かにいけますね。東都のネギはどれも乾燥していて……ああ、豊川が田舎だと言いたいわけでは無いですよ」
そう言ってエルマは心からの笑みを浮かべた。
「人間旨いものを食うと良い心持になるもんだ。アタシもここの焼鳥と酒が有れば他には何にもいらねえな」
かなめはそう言うと砂肝を口に持って行きながらジンの瓶をグラスに向けた。
「本当に?一番欲深いのがかなめちゃんのような気がするけど」
そう言ってアメリアはかなめのジンの瓶を奪い取ろうとする。かなめはそれを予想していたかのように見事にかわした。
一方、誠はエルマから見えないように春子から手招きされていた。同じように春子に呼ばれたパーラと一緒に立ち上がると階段に向かって静かに歩き始めた。
「私に気を使う必要は無いぞ。いつも通りやってくれていい」
呼ばれたからと言うことで誠を気遣うエルマの言葉だが、さすがにカウラ達は下の階の葬式のような雰囲気に付き合うつもりは無かった。
「気にするなって。個人的なことに顔を突っ込むほど野暮じゃねえから」
かなめの言葉にランはお猪口で日本酒を飲んでいた。それを心配そうにエルマが見つめていた。
「ああ、大丈夫ですよ。クバルカ中佐は二十歳過ぎていますから」
なだめるように言った誠をランがにらみつけた。
「悪かったな。なりが餓鬼にしか見えなくて」
ギロリとランが誠をにらんだ。確かにその落ち着いた表情を見ると彼女が小学一年生ではなく、司法執行機関の部隊長であることを思い知らされる。誠の額に脂汗がにじんだ。
「そんなこと無いですよ!どうしても警察官などと言う職業をしていると未成年飲酒の取り締まりなどもやらされていたものですからその癖が抜けなくて」
ランはふてくされたように目を反らした。その様子をいかにもうれしそうにアメリアが見つめていた。彼女にとって小さい身体で隊員たちを恫喝して見せる様子は萌えのポイントになっていると誠も聞いていた。このままでは間違いなくアメリアはランに抱きついて頬ずりをはじめるのが目に見えていた。
第72話 生まれた日の思い出
「それより、もしかしてエルマさんの誕生日も12月25日なんですか?」
焦って口に出した言葉に誠は後悔した。予想通りエルマは不思議な生き物でも見るような視線を誠に向けてきた。
「誕生日?それは何のことだ?」
エルマはそう言って首をひねった。どうやらエルマにも誕生日と言う概念は無いようだった。
「どうやら私達がロールアウトした日のことを指すらしいぞ。まあ、エルマのロールアウトは私よりも少し遅かったな」
カウラの言葉で意味を理解したエルマがビールに手を伸ばした。
「そうだな。私は一月四日にロールアウトしたと記録にはある。最終ロットの中では遅い方では無いんだがな」
エルマの言葉を聞きながら誠は彼女の胸を見ていた。確かにカウラと同じようにつるぺったんであることが同じ生産ラインで製造された人造人間であるということを証明しているように見えた。
「あれ?誠ちゃん……」
誠の胸の鼓動が早くなった。声の主、アメリアがにんまりと笑い誠の目の動きを理解したとでも言うようににじり寄ってきた。
「レディーの胸をまじまじと見るなんて……本当に下品なんだから」
「見てないです!人を何だと思ってるんですか!」
叫んでみる誠だが、アメリアだけでなくかなめやサラまでニヤニヤと笑いながら誠に目を向けてきた。
「こいつも男だから仕方がねえだろ?」
「そうよねえ。でもそんなに露骨に見てると嫌われるわよ。ねえ、カウラちゃん」
「ああ……」
突然サラに話題を振られてカウラは動揺しながら烏龍茶を飲んだ。
「こういう時に島田が居ると神前に鉄拳制裁を食らわせてすっきりするのにな。こういう時は『純情硬派』を売りにしているヤンキーは役に立つ」
かなめはいつも通り物騒な提案を誠にしてきた。
「そんな……もう根性焼きはこりごりですよ。あの人何かというと人を殴ったり、蹴ったり。本当にヤンキーは暴力でしか自分を表現できないんですから」
この場に居ないことを良いことに誠は島田についていつも思っていることを口にした。
「ああ、誠ちゃんは正人の事をそんな風に言うんだ。あとで正人に言っておこう。どうなっても知らないからね」
サラの告げ口宣言にパーラがそれを止すようにと手を振って止めにかかる。
いつもの月島屋の光景が今日も繰り広げられた。