第64話 責任の所在について
「きっついわ。マジで。どうするの?かえでちゃんは久しぶりにかなめちゃんとクリスマスが過ごせるってかなり気合入れてたみたいよ。かなめちゃん、責任取りなさいよ。かえでちゃんはかなめちゃんの言うことなら何でも聞くんでしょ?それなりに上手いこと言って誤魔化すとか出来るでしょうが」
アメリアはそう言うと呆然と勤務服姿で整備の邪魔になっていることにも気づかずにかなめの赤いシュツルム・パンツァーを見上げているかえでを指差した。
「知るかよ!アタシはまったく悪くない。アイツが勝手に開く夜会だ。先にアタシを招待してから夜会の予定を決めたんだったらアタシの責任だが、そうじゃねえだろ?むしろ『許婚』である神前が悪い。かえでと変態地獄の落ちるところまで一緒に落ちる覚悟を決めていない神前の優柔不断さが今回の事態を招いたんだ」
責任感を感じるどころかかなめはそう言って開き直った。
「僕のせいですか!なんでも人のせいにするのは西園寺さんの悪いところですよ!それに僕は変態にはなりたくないです!僕はノーマルに生きたいんです!」
不毛だとは分かっていてもかなめも誠もお互いにかえでの憂鬱の責任を取りたくは無かった。
「西園寺。日野少佐はお前の管轄だろ?『許婚』と言うのは親が勝手に決めたことで神前の責任ではない。だから全責任は西園寺、貴様にある。どうにかしろ。第一小隊小隊長としての命令だ」
カウラはそう言ってかなめを一睨みした。
さすがにかなめもかえでの気持ちを思い計ってか静かに階段を上った。
「ああ、お姉さま」
階段を登りきった。わざとらしくかなめに声をかける為に先回りしていたかえでを無視してかなめは更衣室を目指した。ガラス張りの管理部の部屋ではパートのおばちゃん達が囁きあいながら悩みにふけるかえでに同情の視線を送っているのが目に入った。
「触らぬ神に祟りなしよ。いくら相手が魅力的なかえでちゃんとはいえ、クリスマスだけは譲れないわ。他は出来る限りかえでちゃんの希望に沿う。その線で行きましょう。ああ、誠ちゃんの童貞を差し出すと言うのは無しね。私もそれには興味があるから」
アメリアはサラっととんでもない内容の入った言葉を言うと本気で廊下を走って運航部の自分の城へと向かって行った。要するに逃げたのである。
「こらこら、廊下は走っちゃだめだよー」
いつもの抜けた表情の嵯峨の言葉も無視してアメリアばかりに逃げられてはたまらないと誠達は更衣室めがけて駆けていった。
「失礼します!」
かなめ達にそう言って誠は男子更衣室に飛び込んだ。
「とりあえず、着替えるか」
そう言って誠はすぐに勤務服を取り出してジャンバーを脱いで着替えを済ませた。そこには誠を待つカウラの姿があった。