第62話 イベントに命を懸ける女
「クリスマスを愉しく過ごす100ヶ条。お前、本当にイベントごとを仕切るのが好きだな」
呆れたようにカウラは烏龍茶を口に運ぶ。かなめもカウラの言葉でアメリアの行動に興味を失って静かに空のグラスにラム酒を注ごうとした。
「あれ?空かよ。春子さん」
「今日はラムは無いわよ。先月頂いたジンなら。西園寺さんご指定の『タンカレー』が一ケース封も切らずに置いてあるけど」
「じゃあ、それで」
かなめの言葉に厨房の入り口に立っていた小夏が呆れたような顔をした後中に消えていった。
「でも、愉しそうよね。できれば写真とか撮って送ってね」
春子はそう言うとさわやかに笑いながら立ち上がり奥へと消えていった。その様を見送っていた誠の目を見てかなめは複雑な表情を浮かべた。
誠が厨房を見つめているのを幸いに懐からウィスキーの小瓶を取り出したかなめは蓋を取って誠の飲みかけのビールのジョッキに素早く中身を注ぎこんだ。
「素敵ですよね、春子さん」
うれしそうに言う誠にかなめは伏せ目がちに視線を送った。アメリアはかなめの行動を見ていたが誠がジョッキに口をつけるのを止めることはしない。
「じゃあ、クリスマスの準備はそんな感じで……」
誠はそのまま何も知らずにビールの入ったジョッキを傾けた。
「神前、ためらうんじゃねえぞ。ぐっとやれ、ぐっと」
かなめは自分の仕掛けに見事に引っかかっている誠をいつもの残忍な目で見つめていた。
誠は味に違和感を感じたものの、ビールに酔ったせいだろうと思ってそのままトリ皮に手を伸ばした。
「神前、なんともないのか?」
カウラはかなめの仕掛けを誠に教えなかったことを後悔しながらそうつぶやいた。誠は不思議に思いながら一気にジョッキを空にした。
「あれ?なんだろう……目が回るんですけど……西園寺さん。また何かやりましたね……」
「やったよ?ウィスキーでおいしいビールをさらにおいしくしてやった。感謝しろよ、バーカ」
かなめのあざけるような言葉を聞きながらそう言った言葉を残して誠は腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。そしてそのまま誠の意識は混濁した闇の中に消えた。