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第60話 春子と『駄目人間』の関係

「そんな客の物をしゃぶって……それで裏オプションの本番まで……あの頃はクリスマスが来ると憂鬱になったわ。確かにお手当は出るし、指名が入ることもあったんだけど……実は、小夏を産んでからは新さんにあの時期は指名をお願いしてもらってたのよ」

 春子が『新さん』と呼ぶ『駄目人間』嵯峨の趣味は風俗店巡りだった。春子を違法風俗から合法の店に移らせたのも嵯峨の助言のおかげだったと春子は以前言っていた。

「当時から隊長はお金持ってなかったんでしょ?弁護士なのに御金に拘らない仕事ばかり受けてていつも金欠だって春子さんが言ってたじゃないですか」

 誠は春子の嬉しそうな顔を見てそう言ってしまっていた。

「実は、その頃はもうあの男とも新さんのおかげでおさらばしてたからお金は有ったの。新さんにはそれなりの有名店に紹介してもらたから稼ぎもよかったし。それでそのお金を新さんにあげて指名してもらってたのよ。それこそ一晩中。その店は本番禁止の結構厳しい店だったけど、新さんになら……」

 春子はそう言って戸惑う誠に向けて色気のある笑みを浮かべて見せた。

「春子さん……叔父貴の事、好きなの?」

 ここで突然かなめがとんでもないことを言い出した。慌ててビールをこぼしかける春子に誠はかなめが真意を得ていたことを感じ取った。

「所詮叶わぬ恋よ。あの人は殿上貴族。私は夜の女。身分が違いすぎるわ。それにね、あなた達にはまだ分からないかもしれないけど、大人になると色々と複雑な事情と言うものがあるのよ。それにある日突然、新さんから連絡が来なくなったの。後で聞いたんですけど、あの人は遼南内戦に出かけて行ったらしいわ。あの人にとっては女より戦場の方が魅力的なのよね。ここにいるみんなも私も知らないけど、戦場に居る新さんが本当の新さん。それ以外のみんなが『駄目人間』と呼んでいるのはかりそめの姿に過ぎないのよ」

 春子は言い聞かせるように知ってかなめに向ってそう言った。

「すみませんね。つまらない話をして。かなめちゃんもつまらないこと言って反省しなさいよ」

 アメリアはかつての春子の境遇を聞いているだけに本心からそう言っているように誠には見えた。

「別にアタシは気にしないけどな。アタシ自身がかつて任務とは言え、夜の女をしていた訳だし。それに叔父貴ならそんなことを気にするような人間じゃありませんよ。しかも今は四大公家の当主を外れて貴族院の許可なく自由に結婚できる身分になった。狙うんなら今じゃないですか?確かに、小遣い月三万円で、部屋代二万の合計五万の金しかどうにかできない男だけど」

 かなめには春子の心を揺らした反省の色はまるでなかった。

「私達の話は大人の話。西園寺さんに干渉してほしくは無いわ。まあ、話題は元に戻して、みんなで楽しく過ごすのは良いんじゃないかしら?私もそう言う経験はないけど、楽しんできなさいよ」

 春子はそう言って落ち込んだアメリアを励ました。

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