第59話 風俗嬢のクリスマス
「私ねえ」
かなめの言葉にうつむいて空になったグラスに少しばかりほほを朱に染めながら春子は自分でビールを注ぐ。そのままグラスのふちを撫でながら思いにふけるようにうつむいている。
「あんまり良い思い出は無いかな……特に最初のお店に勤めていた時は……高級店なら別かもしれないけど、格安風俗店だもの。しかも違法オプションが売りなんて言う店の嬢のクリスマスなんて全くみんなの参考にならないわよ」
そう言ってすぐに春子は誠に目を向けた。東都の盛り場で育ったと言う彼女の話を人づてに聞いていた誠はしまったと思いながら頭をかいた。
そんな誠を見ると春子は雰囲気をリセットするような笑みを浮かべた。
「あの男と流れで同棲するようになって、すぐに小夏が出来て……その頃は最悪だった。クリスマスにはあまりいい思い出は無いのよ。ただ、嫌なことが思い出されるだけ」
春子はそう言ってビールを煽った。
「あの男は稼ぎが少ないと毎日殴る蹴る。そして私が稼いだ金を持っていつでもどっかに消えて私がいない間はどこかで別の女と遊んでる。そんな男と一緒に居たクリスマス。楽しいわけが無いじゃないの」
春子の言葉に誠はただ言葉に詰まっていた。
「それにね、このモテない宇宙人の星遼州ではクリスマスってことでちょっとは思い出を作ろうと、いつもはそう言う店に来ないようなタイプの客が沢山来るのよ。それも風呂にいつ入ったか聞きたくなるようなにおいの客が……その相手をするのよ。耐えきれる?」
誠は思わず自分の身体の匂いを嗅いだ。とりあえず自分を刺している事ではないことに安心して春子の話の続きを聞くことにした。