第48話 遼帝国の国内事情
『南都軍閥出身の遼帝国宰相、アンリ・ブルゴーニュは米軍とは懇(ねんご)ろだからな。彼の地元の南都軍港で何度か法術師専用のシュツルム・パンツァーの起動実験が行われていたと言う情報が俺の耳に入ってね。俺もねえ……あれだけあからさまにやられると裏を取る必要が無いくらいだよ。遼州は地球圏とは距離を取る。その同盟設立の原則を有力加盟国の宰相が反故にしてみせる。そんなこと許しておくわけにはいかないじゃないの』
遼帝国とアメリカが関係改善に向けて動き出していることは誠も知っていた。それがシュツルム・パンツァーの起動実験を行うまでの関係とはさすがに知らなかった。
「実働部隊は蚊帳の外……いや、アメリアが知ってるってことは、ランも知ってただろ!あのチビ!アタシ等に隠してやがったな!それに新型のシュツルム・パンツァーをアメリカが遼帝国でやろうって言うんだ。法術師は確保してあるはずだ。米帝め、また要らんことを遼州でやろうって腹か?」
そう言うとかなめは半分のみかんを口に放り込んで噛み始めた。明らかにポーカーフェイスで報告書を受け取るランの顔を想像して怒りをこらえていた。そんなかなめの口の端からみかんの果汁が飛び散り、それの直撃を受けたカウラがかなめをにらみつけるがかなめはまるで気にしないというようにみかんを噛み締めた。
『ああ、お前等には教えるなって俺が釘刺しておいたからな。なあ、クラウゼ』
目の前のアメリアが愛想笑いを浮かべている。カウラもかなめも恨みがましい視線を彼女に向けた。
「しょうがないじゃないの!隊長命令よ!それに貴方達は他にすることはいくらでもあるんだから」
「駐車禁止の取り締まり、速度超過のネズミ捕り……ああ、先月は国道の土砂崩れの時の復旧作業の仕事もあったなあ」
嫌味を言っているのだが、誠から見るとタレ目の印象のおかげでかなめの言葉にはトゲが無いように見えた。
『喧嘩は止めろよ。それにだ……後ろ見てみ』
「?」
突然言葉を飲み込んだ嵯峨にかなめは首をかしげた。彼女の背中を指差すカウラ。誠とかなめは同時に振り向いた。