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第35話 和装の金髪美女

「あら……お姉様方おそろいですのね」 

 今度は窓の外には和装の金髪の美女の姿がある。嵯峨の実娘の嵯峨茜だった。

 先月の同盟厚生局と東和軍の武断派によるクーデター未遂事件の解決でようやく来年度の正式発足が決まった『法術特捜』のでは豊川駐在主席捜査官への任官が決まった同盟司法局のエリート捜査官である。

「あと西園寺さんがタバコを吸って……」 

 また、かなめがサボっていると言われると思った誠は先に茜に向ってそう切り出した。

「おう、茜じゃねえか。今日は早く帰るんだな。それにしても最近、オメエは本局に呼び出されてばっかりで大変だな。どうせ会議だろ?退屈じゃねえのか?」 

 喫煙所から戻ってきたかなめが茜の高級セダンの横に立っていた。ちらちらとかなめはその車を眺めるが、かなめはどちらかと言うとこう言う高級品的な車が嫌いだと何度も言っていた。その目はいつものようにただの好奇心で鏡にでもできるのかと言うほどの艶を見せる塗装を見つめているだけだった。

「会議も大切なお仕事ですわよ。特にわたくし達は国家警察や同盟司法局捜査部、場合によっては軍部との協力が必要になるお仕事ですもの。面倒だと言っても事前の綿密な連携が必要になってくるのよ。それだと言うのにかなめお姉さまは本当に会議と聞くと何かと理由を付けて抜け出す口実を作ってばかり。本当に誠さんと言う後輩ができて、第二小隊と言う別組織が稼働を始めた時期ですもの。会議の大事さを身をもって知る必要があると思いますけどいかがかしら?」 

 かなめはいつもしっかり者の茜の小言には泣かされていた。そして今も自分のつまらない発言から茜の小言を食らうことになってかなめは泣きそうな表情を浮かべていた。

「聞こえない!何にも聞こえない!それに会議は小隊長の仕事だ!アタシみたいな平の隊員には関係ねえの!」 

 そのまま自分に対する説教になりかねないと思ったかなめは両耳を手で押さえて詰め所の入り口に向かっていった。

「本当にかなめお姉さまは自分の都合が悪くなると聞こえないふりをして。全く困ったものですわね。それに隊員だったら部隊の情報を共有しておくのは常識ですわよ。そのくらいのことは実戦経験のあるかなめお姉さまならご存じですよね?」

 茜もかなめの自分勝手ぶりには困り果てているようで呆れた顔でこたつに入ろうとするかなめを見つめていた。 

「茜ちゃんもそんなに説教ばかりしても無駄なんじゃないの?元々、かなめちゃんにそう言うこと期待する方が間違っているのよ。とりあえず敵を撃つことだけが仕事だとかなめちゃんは信じてるから」 

 アメリアの言葉に茜は大きくため息をついた。

 会議をサボる、会議では寝る、会議から逃げるの三拍子で上層部の不興を買うことを楽しんでいると言う噂の嵯峨は茜の父である。さらに先月から無類の女好きであっちこっちの部隊で同性にちやほやされることが趣味だと言ってはばからない義妹かえでが第二小隊の小隊長として配属になったことがとどめを刺した。

 もしかすると茜はこの二人を東都のはずれ豊川の部隊に残して都心に去ることに不安を感じてこの基地に残ることを決めたのではないかと誠は疑っていた。

「カウラさん!小隊長としてしっかりかなめお姉さまの監視をよろしくお願いしますわ」 

「はい!」 

 かなめよりは一歳下。だがどうしてもその雰囲気と物腰は落ち着いていてカウラですら緊張するようなところがあった。そして若干14歳で東和弁護士試験を合格したと言う回転の速い頭脳はまさに天才のそれであった。あの嵯峨やかえですら御する腹の据わり具合も恐るべきものだった。誠も声をかけられたカウラに同情するしかなかった。

「しっかりかなめお姉さまのたずなを握っておいてくださいね。まったくこの部隊には自立した隊員と言うのはいないのかしら?社会人なら自分の判断で自分の最善と思ったことを自分からやるのは当然の話ですわよね。それが出来ない人ばっかり。困ったものだわ」 

 茜の小言はいつまで続くか分からない様相を見せてきた。聞いている誠もさすがにうんざりしてきて、かなめの嫌そうな表情を浮かべる気持ちも分かってきた。

「うるせー!余計なお世話だよ!アタシは自立してる!文句を言われる筋合いはねえ!」 

 上がりこんできたかなめがゲートのスイッチを押した。開くゲートを一瞥した後、茜は大きなため息をついてかなめを見上げた。

「なんだよ……」 

「何でもありませんわ」 

 そう言って茜は車に乗り込んだ。身を乗り出して駐車場に向かう茜の車を見送った後、かなめはずかずかと歩いてコタツのそれまで誠が入っていたところに足を突っ込んだ。

「何もねえって顔じゃねえよな!あれ。きっと車の中でも自分のマンションに着くまでアタシの悪口を言い続けるんだぜ。神前!オメエも他人事じゃねえからな!うちの部隊で一番自立してねえのはテメエだ!少しは成長しろ!」 

 かなめは怒りに任せてその矛先を誠に向けてきた。茜の自分達に対する横柄な態度に態度の大きさではかなめと負けていないアメリアですら大きなため息をついた。

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