4.剣と父とかつての記憶
結局、何度聞いても教えてくれなかったので、私は師匠《せんせい》の言葉の真意がわからないまま修練所を後にした。
「お父様の愛情ねぇ…いつかわかるときがくるって師匠は言っていたけど、わかる日なんて来るかなぁ」
独り言を漏らしながら、部屋へ戻るとすでにいくつかの荷物が部屋の隅に積まれていた。
「オーレリア様。奥様から新調された部屋着等と、必ず目を通すようにと、という伝言を預かっております」
「そうだったね。さっさと確認しておくか!」
気が進まなかったが気合を入れて、メアリーと共に箱に入った衣装や靴を一つ一つ目を通し始めた。
特に使い所がわからないものはなかったが、思ったより時間がかかり、気がつけば日が暮れていた。
「あ〜疲れた…。一気に新しくしすぎでしょ…お腹すいた〜」
私はソファに勢いよく倒れこんだ。
「メアリー、何か軽く食べられるものある?」
「もうじき夕食の時間になります。それまでお待ち下さい」
「…はーい」
寝転んだまま、私はメアリーに訊ねた。
「お父様って、メアリーから見てどんな人?」
急な質問だったが、メアリーは動じる様子はなかった。
「旦那様は尊敬すべき方だと思ってます。そしてとても愛情深い方だとも」
「愛情深い?」
「えぇ。旦那様はご家族のことはもちろん、領民のことも領主として愛しておられます。だからこそ、私は旦那様を尊敬しております」
「…ふぅん」
父が愛情深いと言われることに違和感があった。私の中の父は、いつも厳しい顔をして難しい話をするという印象だったからだ。
ふと壁にかけてあった剣に目を向けた。その剣は父が私の10歳の誕生日にくれたものだった。
「父親としては、娘にあげるものとしては無骨すぎて少し複雑な思いだが…誕生日おめでとう。オーレリア」
そうだ。そういえば、あの日の父は珍しく優しい笑顔だったなとふと思い出した。