第25話 門番を押し付けられて
ハンガーではすでに東和陸軍下志野基地で行われる基地祭会場に運ぶために、解体されてトレーラーに搭載された誠の05式をワイアーで固定する作業が続いていた。
「あれ?カウラさん達はこんなところに何の用で?」
目の下にクマを作って部下の作業をぼんやりと眺めている島田からの声にカウラは一気に不機嫌になった。
「門番の引継ぎだ!オメエ等の仲間が風邪で倒れたからその代役だ」
かなめが不死人だからと言う理由でもう一月も寝床に入れていないほど披露しきっている島田に向ってそう言い放った。
「ああ、さっきアメリアさんがスキップしていたのはそのせいですか。あの人も人に仕事を押し付けるだけ押し付けて自分は遊んでばっかり。西園寺さん、なんとかなりませんかねえ。あの人だれの言うことも聞かねえんですよ。西園寺さんが銃で脅せば言うこと聞いてくれるかもしれませんよ」
技術部員達は昼間はアメリアに逃げた運航部の女芸人達を追いかけることを押し付けられて腹を立てていた。
「あれがアタシがどうにかできる玉か?そんなのテメエで考えろ!」
困り果てている島田はかなめに一言で突き放されてハンガーの隅に置かれたトレーラーの予備タイヤの上に腰を下ろしてうなだれた。
「辛そうだな。さすがの不死の身体も一月酷使するとこうなるのか。参考になる」
カウラの言葉に顔を上げた島田が力ない笑いを浮かべていた。
「確かに……しばらく寝てないですからね、しばらく。ああ、今日は定時に帰りたかったなあ。オークションで落としたバイクの部品が溜まっちゃって。今日こそは取り付けようと思ってたのに。バイクをいじることだけだったら一月だろうが二月だろうが不眠不休でできるのに」
そう言いながら作業をしている部下達を眺める島田の疲れ果てた背中は哀愁を帯びていた。同情のまなざしを向けるカウラの肩をかなめが叩いた。
「無駄口叩いてねえでいくぞ!」
かなめは歩き始めた。技術部の整備班の面々は班長の島田の疲れを察してか、段取り良くシートをトレーラーに搭載された05式にかけていった。その脇をすり抜けてかなめは早足でグラウンドに出た。冬の風にあおられてそれに続いていた誠は勤務服の襟を立てた。
「オメエ等、たるんでるねえ。それほど寒くもねえじゃないか」
笑うかなめだが、誠には北の山脈から吹き降ろす冬の乾いた空気は寒さしか感じなかった。所詮、零下20度でも問題なく活動可能なサイボーグの身体を持つかなめにはこの寒さは理解できないのだろうと誠はかなめに同情を期待するのをあきらめた。振り向いたところに立っていたカウラも素振りこそ見せないが明らかに寒そうな表情を浮かべていた。
そのまま正門に向かうロータリーへ続く道に出るとぼんやりとたたずむ整備班員達が目に入った。
「ご苦労なことだ。仕事熱心で感心するよ」
明らかにかちんときたような表情を浮かべて、かなめは勤務服のスカートの裾をそろえていた。誠は愛想笑いを浮かべながら再び歩き始めたカウラについていった。