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やっぱり、私は

 あれから、二日が経った。今日は金曜日だ。葵とはまだ話していない。話しかけようと思ったこともあったが、さりげなく避けられている気がする。男子の輪の中にいても前は近づけば葵の方から会いにきてくれたのに。私たちが
別れたという話は、教室で話していたのもあって既にクラスに知れ渡っていた。

「結月。移動教室だよ」

 机に突っ伏している私を小夜香が呼ぶ。

「うーん」

 動きたくても全然体が動かない。

「もう……!」

 小夜香が手を引っ張る。そこで私はようやく立ち上がることができた。



「ねぇ、結月さんさ。なんで別れたの? めっちゃ仲良かったくない?」

 班活動中、前の席の女子が唐突に聞いてきた。

「ちょっと、」

 小夜香が止めに入ろうとする。

「え? でも、結月が振ったんでしょ? なんか嫌なことされたん?」

 好奇心半分、心配半分という感じだ。小夜香もそうなんだけどそうじゃないみたいな複雑な顔をしていた。

「嫌なことをされたわけじゃないよ。ただ、なんていうか、一緒に居て辛いこと、辛いっていうか苦しいっていうか。そういうことがあって、私が怒っちゃって勢いのまま」

 あれから少し時間が経って落ち着いて自分のことは少し分かってきた。

「あぁ~、そうなんだ。じゃあ、喧嘩って感じ? あるよねぇ。え、まだ好きなの?」

 すごいな、この子どんどん聞いてくる。でも、そんなに嫌な感じはしなかった。小夜香はそっとしておいてくれてるけど、本当は私も話したかったのかもしれない。

「……好きだよ」

 わかっていたけど、口に出すとちょっと違うな。

 好きだって気持ちが溢れてくる。嫌だなぁ、こうやって離れていくのは。


side 柊 小夜香


「……好きだよ」

 そう答えた結月の少し悲しげな顔を見て、このままじゃいけないと思った。

「あの」

「あ、私? どしたの?」

「結月に、話を聞いてくれてありがと」

「え、いや、気になったから聞いただけだけど……」

「それでも、ありがと。私じゃ、多分聞けなかったから」

「そう? なんかよく分かんないけど。結月さん悲しそうだったね」

「うん」


 できることが一つ思いついた。


「柏くん、ちょっといい?」

 休み時間、男子が集まっているところに顔を出し、柏 伊織(かしわ いおり)くんを呼ぶ。柏くんは私の知っている限り柳くんと一番仲の良い男子だ。中学が同じことまでは知っているけど、幼馴染とかなのだろうか。

「柊さんじゃん、良いよ。ちょっとと言わずいくらでも」

 声をかけると柏くんはすぐに振り向いた。明るく社交的でクラスの中心になるような人だ。元はと言えば結月と柳くんを引き合わせたのも柏くんと言える。

「いえ、ちょっとでいいわ」

 ただ、個人的には軽薄そうで苦手だ。

「どうしたの? 俺に告白?」

 こういうところだ……。

「そんなわけないでしょ。結月と柳くんのことよ」

「あー、そういうこと。あいつ結構ガチで落ち込んでるっぽいけど」

「結月も落ち込んでるのよ」

「ふーん」

 興味なさそうに相槌を打つ。いつも、馬鹿みたいに愛想良く振る舞っている印象があったから、少しその感じは意外だった。少し間をおいて柏くんが口を開く。

「俺は何があったか良く知らないんだけどさ。俺に何の用?」

「私が結月を連れて遊びに行くから。柏くんは柳くんを連れて遊びにきてくれない?」

「…………それでも良いのかな。うん、良いよ。楽しそう」

 少し、柏くんは考えてそれから、頷いた。

「そう、ありがとう」

「うんうん、楽しそうだわ。任せてよ」

 いつもの、人当たりの良い笑顔を浮かべながら柏くんは戻って行った。


 土曜日。
 私は結月を誘い、ショッピングモールに来ていた。そして、偶然を装い柏くんたちと会った。

「あれ、柊さんと、橘さんじゃん」

「ちょ、伊織っ」

 私たちを見つけてよってくる柏くん、柳くんは柏くんを止めようとしたが、その前に柏くんが駆け寄ってきた。

「あ、葵」

 結月も驚いて体を半分私の後ろに隠す。

「奇遇ね。柏くんたちも買い物?」

「そうそうそんな感じ。そうだ、せっかくだから四人でまわらない?」

「え?」

 結月が声を上げる。

「おい、伊織」

 少し苛立たしげな声で柳くんが柏くんを呼ぶ。

「良いだろ、葵。な? 頼むよ」

「……だったら俺は……」

「それはない」

 何か言おうとした柳くんの言葉を柏くんが遮る。二人はしばらく睨み合っていたが、

「わかったよ……」

 柳くんが先に折れる。

「じゃあ、行こっか」

 柏くんが言った。私は結月の方を見る。結月は柳くんを見ていた。

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