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さらなる危機に

別にチャチャとは何も話すこともなし。それにいつもの隠密行動みたいなもんだから俺たちは静かに、かつなるだけ音を立てずに、崩れた穴の中を進んでいった。

先導しているチャチャが、ナウヴェルが新調してくれた星鉱の長い爪で立ち塞がる岩を細かく切り裂き、俺くらいの体格でもなんとか通れるようにしてくれていた。

「感謝するんだヌ」あいつはいつもの、どこを見ているかわからない目で俺にそう言ってくれた。ああそうかい。猛り狂ったら敵より真っ先にお前をボコボコにしてやるからな。

しかしそうはいっても、奴らの足跡はただ一直線に、どこかで立ち止まるといった形跡すらない。
俺の頭の中に、少し不安がよぎった。
ーハメられてるのか、こっちがー
引き返そうか、と思ったその時だった。

「おとうたん!」いきなり俺の尻尾をぎゅっとつかむ影が。
「(チ、チビ!?)」そうだチビだ。留守番してろとあれほど言ってたのに!
俺はしーっと人差し指を口元にあて、とにかく喋るなとうながした。
「ジャノおねえたんずっと寝ちゃってるし、ジールおねえたんも全然遊んでくれないんだもん……」寂しそうな顔で言ってはいるが、正直そこは我慢してもらいたかった……くそっ、連れ帰るにもこんな状況じゃ。すまねえチャチャ。

ーミツケター

「え、なんか言ったんだヌ?」ふとチャチャの奴が穴を掘る手を止め、足元に耳を近づけた。
「なんか聞こえたのか?」
「ミツケタって声が下の方から聞こえたんだヌ」

俺の背筋に、ぞわりと冷たいものが走った。
そうだ、はじめてチビと出会った時、街外れで遊んでいたとき。
それに、タージアたちと採集のハイキングに出かけた時。
奴らの声だ。こいつを、チビを捕捉したんだ。
しかし、足元からっていったい……

「ちょっと調べてみるんだヌ」ざくざくとチャチャは臆することもなく長い爪で地面を掘りはじめた。
いや、真下から聞こえたって、それ……
突然、チャチャを中心に地面に亀裂が入った!
だから言わんこっちゃねえ!!! 逃げろ!

……と、叫ぼうとした瞬間、壁から、天井から。
ガラガラと地震のような響きと共に俺たちは……

落ちた。

……………………
………………
…………
「おい」頭に血は上ってない、逆さまにはなっていない。だが完全に真っ暗だ。暗闇に早く目が慣れるか、チャチャの持っているランプを見つけなければ。いやその前にこの状態から身体のチェックを。
指は動く、肘も肩も……どのくらいの高さから落ちたのかは分からないが、どうも尻から着地したみたいだ。とにかく尻尾の付け根が痛い。
足も捻ってないし折れてもいない。よっしゃ。頑強な身体を作ってくれた親方に感謝。
身体も埋まってないし空気も薄くない、急いで二人を見つけなければ。と左手に目を移したその場にチビはいた。どうやら俺の尻尾にしがみついていたからか、離れ離れにならずに済んだみたいだ。
「大丈夫か、チビ」身体を揺すって起こそうとしたが、気絶しているのだろうか、全然反応がない。
大急ぎで抱き上げると、まるで糸が切れたかのようにだらりと、力なく手足が下がる。
「お、おい……ウソだろ、なあ起きてくれよ……!」
目覚ましに頬を叩こうとすると、チビの顔に、頭にぬるっと感覚が。
地下水? いや違う。この鉄臭さは血だ、チビの血だ!
あいつの小さな頭からどくどくと血が流れている。
何度呼びかけてもチビは無反応だった。つまりは相当な傷……

そこへ畳み掛けるかのように、落ちた穴の四方から聞こえてくる声。
ーミツケター
ーコドモ ミツケター
数こそ多くはなかったが、出口すら見えないこの状況。
そういうことだ、普段ならこういう時には大抵俺の血が逆に騒ぐんだが、今は違う。
早くチャチャを見つけて……いやそれよりもチビを早く、じゃない出口を! 奴らを一匹残らず退治しないと!

右手には掘り出した大斧、そして左手には意識の戻らないチビ。
こんな心細い思いは生まれて初めてだ……誰か、気付いてくれ、と俺は胸の中で願った。
俺の命より、チビの方が先だ!

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