第171話 法術師規制の始まり
「法術適正者の封印技術の発表?スポーツ新聞の記者が同盟の極秘事項をすっぱ抜いたんですね。大手新聞が結んでいる報道協定とか無視ってさすがスポーツ新聞。でもなんです?『封印技術』って」
誠はしばらくこれが何を意味するか分からずにいた。自然に視線が向いた先のアメリアが紺色の長い髪をかき上げている。
「病人を刺激するのはそれくらいにしておいてくれ。あとはあれだ。脱水症状に注意しながら安静にしてれば何とかなる。まあベルガーはもう動いても大丈夫だぞ。ラスト・バタリオンの回復力は遼州人の一般的なそれと比べてかなり早い。もう大丈夫なはずだ」
軍医の言葉にカーテンがひらかれる。上着をつっかけた姿のカウラがのろのろと起きだしてきた。明らかに顔色が悪いのは仕方が無いことだと誠は笑った。
「よう、飲みすぎ隊長殿。ご気分は?」
へらへらと笑いかけるかなめをカウラは黙ってにらみつけた。誠はひよこからもらったペットボトルに入った生理食塩水を飲み干すとそのままベッドに体を横たえた。
その姿を見てアメリアは納得したようにかなめ達に目配せする。かなめは珍しくじっと誠を見つめた後、布団を誠にかけてやっていた。
「ああ、法術封印技術のことね。これはすでに遼帝国ではあの国が鎖国をしていた時代からあったものなのよ。『パイロキネシスト』や『光の
アメリアは法術封印が何を意味するのか分かっていない誠にそう告げた。
「その針を体のどこかに打ち込むと力が使えなくなるんですか……便利なような、便利でないような……せっかく使える力ならちゃんと使った方が良いですよ。発火能力はライターを無くした時に使えますし、干渉空間は……あ、やっぱりあんまり使い道無いですね」
自分では力を有効に使っているつもりの誠にとってはあまり関係の無い事のように思えてきた。
「そりゃあ、東和共和国だけでも相当な数の法術師が居る。軍や警察に身を置いているならいざ知らず、民間人に『光の剣』など必要ないだろう。当然の対応と言える」
苦しそうな表情を浮かべながら記事の意味をいち早く理解したカウラが誠を説得するようにそう言った。
「確かに僕の力って普通に生きていくには特に役には立たないどころか危ないですからね……まあカウラさんの言う通り当然のことかもしれませんね」
誠はカウラの言葉で法術封印の意味をようやく理解した。
「でも、それには一々法術師を見つけ出して、法術封印を施さなきゃならねえわけだ……最近、ネットじゃ『法術は権利だ』とか抜かす輩も出てきてる。素直に封印させてくれると思うか?だから東和政府も遼州同盟も伏せてたんだ。これが表向きになったとなると……また色々面倒なことになりそうだ。まあうちとはあまり関係の無い話だがな。これはむしろ茜達法術特捜の守備範囲だ……でもそうなるとアタシ等アイツの助っ人を頼まれてるんだよな……結局処理するのはアタシ等か。面倒くさいな」
かなめは大事になる方が面白いと言う彼女特有の思考で事態が悪化するような話を平気でした。
「法術封印。それが対法術対策の切り札になるか……これで終わりか……本当に終わるのか?そんな一時的に法術を使えなくしたくらいで何が変わるんだ?」
彼らを見つめながらカウラがそうつぶやくのが誠の耳に届いたが、次第に睡魔に襲われていく彼にその言葉を意識する能力はすでに無かった。