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2-29:お祭りとオリジナルの鋼鉄の鎧騎士


 イザンカ王国の第二都市であるレッドゲイルは、首都ブルーゲイルに何か有っても王家の血筋を絶やさないために作られた都市と言われている。
 もう何千年前かは定かでないけど、これがこの歴史あるイザンカ王国を支えていたと同時に、しょっちゅう内戦が起こってきた理由とも言われている。

 と言うのも、レッドゲイルの方が作物が良く出来る土地柄、備蓄が多い。
 いくら首都がブルーゲイルでも内戦が起これば首都の方が不利になるし、クーデターが起こるのもいっつも首都であるブルーゲイルが多い。
 なのでレッドゲイルはどちらかと言うとほんとうに王家のバックアップで、したたかにその力を溜めている。
 ついこの間行われた「鋼鉄の鎧騎士祭」なんかもこっちのレッドゲイルにオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」があるからだ。

 まぁ、伝承によるとオリジナルは女神様から与えられたとされるもので、作ったのは魔王だけどそれを清め世界の守り手としてこのイザンカに与えられたとか。

 ちなみに、十二体あると言われているオリジナルは現在確認されているのがうちのイザンカ王国を含めて三体。
 一つはうちで、もう一つはガレント王国の宝物庫にしまわれていると言う。
 そして最強の紅のオリジナルの中でも破格の力を持っていると言う「鋼鉄の鎧騎士」はティナの国に封印されていると言う。
 伝説のティアナ姫のお墓と一緒に。


「アルム、見て見ろよ! 藁人形だぞ!!」

 収穫祭は古い女神様、大地の女神様からの恩恵を祀って藁人形を作ると言われている。
 そしてそれには数々の物語が含まれ、藁人形も「鋼鉄の鎧騎士」を模したり、「解放の姫」を模していたりといろいろだ。
 藁で作った大きな人形をおみこしをかかげるように街中を練り歩く。
 それを見学したり、出店を回ったりしている。
 ユエバの町のように魔物食は流石に無いけど、何故かこっちのレッドゲイルにはイタリア料理っぽいものがある。
 ピザの切り売りとかしていて、食べてみると見事にピザだった。


「これ美味しいね!」

「ああ、なんでもエルフの郷土料理らしいぞ? その昔ここで働いていたエルフの双子の姉妹が広めていったらしい。その頃の店はもうないけど、今じゃレッドゲイルの名物料理だよ」


 そう言ってエイジもピザをかじり、にゅ~っとチーズを伸ばす。

 うーん、エルフって南のサージム大陸の「迷いの森」にいる種族で、前世のゲームなんかで見た事があるやつのはずだけど、確か食文化は酷いもので昆虫食もするとか本に書いてあったような……


「一体その双子のエルフって何者なんだろうね?」


「アルム様、このスパゲティと言う食べ物もおいしいですね」

「私はこのラザニアってのが気に入ったわ!」

「私はやはりこのピザですね、直接手で持って食べるのはお行儀が悪いですけど」

「わたしもすばげてぃがすき~」

「知らなかったニャ、世の中にこんなにも美味しいものがあったにゃんてニャ!」


 一緒に来ていたマリーやエシュリナーゼ姉さん、アプリリア姉さんにエナリアもイタリア料理に舌鼓している。
 カルミナさんなんか両手にピザ持ってるし。

 と言うか、料理名がまんまあっちの世界と同じ?
 名詞の発音はブロック構造の文体では変わる事はない。
 つまりあっちの世界の食べ物をその双子のエルフってのがこっちの世界に教えていたって事?

 カリナさんあたりがいたら知っていそうだけど、気にはなるなぁ。
 イータルモアがタルメシアナさんにもらったと言う秘伝の薄い本だってどう見てもあっちの世界のモノらしいし……

 意外とあっちの世界とこっちの世界って関係があるのかしら?


 そんな事を思いながらお祭りを楽しんでいる。
 
 町の広場には遊戯の出店も出ている。
 輪投げのお店や、ピン倒し、ボーリングみたいなのもあるし、積み上げた木製のブロックを玉で台の上から全部崩すようなゲームもある。


「おいアルムあれやってみようぜ!」

「えっと、マリーお金ある?」

「はいどうぞ」

 エイジに引っ張られてボーリングみたいなゲームをする事となった。
 銅貨五枚、前世の感覚だとざっくり五百円くらい。
 まぁ、ちょっと割高だけど、お祭りだからね。


「よっし、行くぞぉ~」

 そう言いながらエイジは球を転がす。
 そして立てられた棒を倒してゆく。

「お、あと三つだ! 全部倒せば景品がもらえるぞ!」

「じゃあ頑張って、エイジ!」

「おう任せとけ!」

 一ゲーム三回ボールが転がせる。
 ルールは転がして棒を倒す事だから正しくボーリングみたいな感じだ。
 ただ転がす球は三つなので三つ以内で全部倒さなければいけない。

 二投目、一本は倒せた。
 しかし残り二つか。
 しかも距離があるからこれは両方倒すのは難しいな……


「このっ!」


 しかしエイジは果敢に球を転がす。
 と同時に真剣なまなざしで球を凝視すると、ころころ転がった球が一本目の棒に当たって、変な方向へはじかれて残り一本も倒した!?


「おおぉ、坊ちゃん運がいいね! はいこれ景品だよ!」

「やった、ありがとなおっちゃん!」


 エイジのやつ、やりやがった。
 あれは無詠唱魔法の【念動魔法】を使っていた。
 でなければあの玉があんな変な方向へと行くはずがない。 


「エイジ~」

「ん? どうしたアルム??」

「最後のあれ、無詠唱で【念動魔法】使ったでしょ?」

「そ、そうかなぁ~? いや集中してたからわからないなぁ~」

 エイジはそう言って景品の果物を飴でコーティングしたりんご飴のようなものを食べ始める。


「アルムお兄ちゃん~、わたしもあれ食べたい~」

「ん? エナリアもあれ欲しいの? じゃお兄ちゃんが取ってやるね」

 妹にそう言われるとやはり兄としてはやるしかない。

「なになに? アルムがこれやるの?」

「アルム君、頑張って!!」

 ちょっと外野の姉たちがうるさいけど。
 私は銅貨を払って球を受け取る。
 そして「操魔剣」の原理を利用して……

「よっ」

 球を転がす瞬間回転を加えて転がす。
 それも「操魔剣」の瞬間的な力を加えて。


 ぎゅるるるるるるるぅぅぅぅ~

 どっが~んッ!!


 回転が加わった球はカーブをしながら先頭の棒に当たると、その棒が勢いよくはじかれた。

 
「なっ!?」

「アルム様、それは!」


 みんなが驚く中、マリーだけは気付いたようだ。
 私が転がした第一投は見事にすべての棒をなぎ倒した。


「凄いな坊ちゃん! 一発で全部倒す奴は久しぶりだよ!! はいこれ景品ね」

 それでも店のおじさんは笑って景品をくれる。
 まぁ、この景品だって銅貨一枚の価値だってないだろうからね。

 私は受け取ったそれをエナリアに手渡す。


「アルムお兄ちゃんありがとぉ~、だ~いスキ♡」

「はいはい、食べながら歩くと危ないから気を付けてね」


 エナリアは「はーい」と可愛らしく手をあげて返事をしながらその辺に座って早速飴を舐め始める。


「アルム様、先ほどのは『操魔剣』ですよね?」

「あ、うん、やっぱり、マリーには分かっちゃったか」

「アルム! あれどうやんだよ!! 『操魔剣』なんていつ習ったんだよ!?」

 マリーとエイジがやって来て私に問い詰めて来る。
 まぁ、魔力操作の一環であるから、コツさえ分かれば出来るんじゃないかとぶっつけ本番でやったのだけどね。

「エイジも分かるでしょ、魔力操作が『操魔剣』の秘密だって。僕たちは魔法を使う時に集中するけど、それは魔力をそこへ集中するのと同じ。『操魔剣』はその瞬間瞬間に魔力を強化したい場所へ流し込んで爆発的な力に変える。そう言う技だよねマリー?」

「流石です、アルム様。それは口で言っても理解できる者はほとんどいなく、実感できるまで鍛錬を積み、初めて理解できるのですが…… 私も十二歳になるまで実感すらできなかったと言うのに」

「魔力集中してその場所で爆発させる? う~ん、分からねぇや~。駄目だ俺パス!」

 まぁ、無詠唱魔法が出来るから分かった事なんだけどね。
 魔法はイメージだ。
 そのイメージが強く出来るかどうかで具現化できるかできないかになる。
 なので魔力の使い方はそのイメージが強く出来ればおのずと結果が出て来る。

 想定はしてたけど、こうも上手く行くとは思わなかった。
 でもこれで私も鍛錬無しでマリーと同じく身体強化が出来る。
 つまり超人的な身体能力を手に入れたのだ!


「くっくっくっくっくっくっ、流石我が主。そのお力、我ら悪魔も同じなのですぞ。我らのこの世界での破格な力は皆魔力を具現化しているに過ぎないのです」

「いやアビス、それ言っちゃっていいの? 君たち悪魔の弱点さらけ出したも同然だよ?」

「我が主の前に私など矮小に過ぎませぬ。いや、我ら悪魔族で我が主にかなうものなどおりますまい」

 そう言ってアビスは深々と一礼をする。

 まぁ、異世界の住人であるアビスたちがこちらで受肉するには膨大な魔力を使って存在するか、何かに憑依して消費する魔力を最小限にしてこちらに存在するかの二つに一つだしね。
 
 そんなやり取りをしていたらエナリアが飴を食べ終わった。
 次は何を見ようか迷っていたらエイジが私の手を引っ張る。


「祭りはまだまだやってるから、一旦神殿に行こうぜ! アルムの見たがっていたオリジナルは神殿にしまわれてるんだぜ!」

「オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』! うん、見たい!!」


 国境の砦で「鋼鉄の鎧騎士」は見たけど、オリジナルは初めて見る事になる。
 エマニエルさんからうんちくをたっぷりと聞かされた所によると、ティアナ姫の特別の「鋼鉄の鎧騎士」以外は皆同じ形で、ミスリルの外装を持っているらしい。
 銀色に輝くそれは色あせる事無く輝いているとか。



 私はウキウキしながらエイジについて行くのだった。

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