星に導かれしもの
黒豹族の青年、ガンデは話した。
自分はアラハスの外れのオアシスで、母と妹、それに拾ってきた妹二人の五人で暮らしていたことを。
「母は若い時に全身に負った火傷の影響で、気温の低い夜間にしか外に出られませんでした。なので私たちはもっぱら盗賊まがいのことをして生きていたのです」
「なるほど……お前たちが生きていくには、それしかなかったわけだ」
ええ。とガンデは小さな被りを振った。
「それが自分たちの普通なのだ」と生きてきた毎日。だがとあるキャラバンとの邂逅によって、自分の全てが変わった、あの日のこと。
「このエズモールへ向かうキャラバンの中に、あなたと同じサイ族の方がいたのです」
名前はワグネル。そしてラウリスタの称号を持つ世界で唯一の「星を鍛える刀工」
「一晩休ませてくれって、私たちに言ったんです……でもおかしいじゃないですか。こんな場所にいる事自体不自然な私たちに命を預けるだなんて……そうです。寝込みを襲って金目のものを奪おうって思っていたのに」
キャラバンのリーダーの名は、エルゼール。シャウズの生まれのトカゲ族だと話していた。
「隻腕の竜騎兵か……なるほど。久しぶりにその名を聞いたなと思ったら、そんなとこで働いていたとはな」
「隻腕……そうです。以前戦争で左腕を失ったって話してました」
「ああ。以前会ったことがあるさ。それにあいつは人の心を読むのが得意でな」
「ええ、全てお見通しだ……って」
その晩。キャラバンの皆が寝静まった頃。ガンデとジャノは計画を実行しようとした、が……
「積み荷には金になるモノは一才ないぞ。と声がして私たちは……」
「捕まえられた、というわけか。エルゼールに」
「いえ、今の師匠であるワグネルです」ガンデは続けた。
「積荷の中には石ばかり。けどそれらひとつひとつ、空に向けると……キラキラと輝いたんです。けど師匠は言いました。俺たちはこの石を本当の星にするために旅をしているんだ。って」
大きなため息を鼻から漏らし、ナウヴェルは天井を見上げた。
「そう……それが我々、サイ族の、ラウリスタの使命なのだ」
「ええ、そして向かう先のエズモールに、自分の腰を下ろす場所を見つけたと。その言葉に私は惹かれてしまったんです」
外の世界を見たかったことを。
人こそ殺めはしないものの、こんな盗賊まがいの生き方に閉塞感を感じていたことに。
「そんな時見たあの星が……私の心を掴んで離さなかったんです。だから私はエルゼールさんに、ワグネル師に弟子入りさせてくれと頼みました」
「だが、ラウリスタは……」ナウヴェルは言い澱んだ。そもそもラウリスタの称号は自分らサイ族だけにしか認められていないものだ。
それも、神代の時代からの。
いくら頑張って最高の武器を創ったところて、彼はラウリスタにはなれないことを。
「分かっています。けどその時、私はこの時こそが星の導きだと思ったのです」
これもまた運命か。とナウヴェルは深い皺に埋もれた目の奥で悟った。
そしてワグネルもここにいることが分かった。
だが……そうだ、なぜこの青年が今のラウリスタとの袂を分かちたいのか。それが知りたかった。
「ワグネル師は……オルザンに魂を売ったのです」