バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

2-18:地竜、襲来


「ち、地竜だぁッ!!」

「馬車を守れ!」

「こっちに向かってくるぞ!!」


 護衛の騎士たちが大騒ぎをしている。
 聞けば相手は地竜らしい。


 地竜は四足歩行の大きなトカゲのような感じで、背中に翼はない。
 代わりに岩のようなごつごつした鱗があって、上からの攻撃はこの岩のような鱗によってほぼはじかれてしまう。

 唯一弱点と言われる喉元も、そこへ到達する前に爪や牙、尻尾にドラゴンブレスで先ににやられてしまう。

 そう書物には書かれていた。


 その昔、ブルーゲイル近郊に地竜が現れ街の脅威になったが、「鋼鉄の鎧騎士」が数体出動して何とか追い払ったと聞く。
 となると、個体差は有れどそのくらいの強さは確実に有ると言う事だ。

 私たちは馬車の窓からマリーたちを見守ると同時に現れた地竜も見る。
 それはかなりの大きさで、ゾウより大きく、キリンより背が高かった。

「これが地竜なんだ」

「お、おいアルム!」

 始めてみる地竜にちょっと感動しているも、エイジは私を引っ張って窓から遠ざけようとする。 



「こんな所で地竜がいるとは! 牽制します!!」

「地竜ニャ! 硬いやつニャ!」

「ほう、竜族でも下級の地竜ですか? しかしこの大きさ、成竜の中でもなかなかの大きさですね?」

「なんですぅ? 若い竜じゃないですぅ! このおじさん竜、自我を失っているですぅっ! 目が逝っちゃってるですぅっ!!」


 飛び出したマリーやカルミナさん、そしてアビスにイータルモアは現れた地竜に飛び掛かる。


「はぁっ! 操魔剣なぎなた奥義、疾風!!」

 マリーはなぎなたを構えて技を繰り出す。
 しかし、それが脅威と分かっているのか、地竜はすぐに背を向け硬いうろこでそれを迎撃する。


 がっき~んッ!


「くっ、固い!」

 マリーは弾かれながらも体制を整えて地面に着地する。
 それと入れ替わるようにカルミナさんが喉元を狙うも、襲い来る尻尾や爪でなかなか近づけない。

 
「竜如きが!」


 カルミナさんがいったん距離をとったその瞬間、アビスが指を鳴らし黒い雷を発生させ地竜を襲わせる。
 が、地竜が咆哮を上げるとすぐに地竜の周りに土の槍が伸びだし、避雷針となりその雷を防ぐ。


「ちっ、地竜だから雷を地絡させたか!」

 それはアビスでも意外だったらしく、驚きの声を上げる。

「みんな下がるですぅ! このおじさん魔法も使えるですぅ!! 自我を失っているけど、戦い慣れているですぅ!!」

 イータルモアはそう叫びながら大きく息を吸って牽制のドラゴンブレスを吐く。
 するとさすがにそのブレスは危険だと感づいた地竜は咆哮を上げながら地面を壁のように隆起させてイータルモアのドラゴンブレスを防いだ。


 うーん、これってかなり手練れなんじゃないかな?
 イータルモアの話だと自我を失っているけど、戦い方は忘れてないってことだよね?
 
 でもそうすると疑問がわいてくる。

 なんでそんな強力な地竜が自我を失っているのか?
 そしてこのタイミングで私たちの前に現れるのか??


「アマディアス兄さん。これやっぱり僕も手伝いますね」

「アルム? ちょっと待て、外はまだ危険だぞ!?」

「どちらにせよマリーたちだけでは手に負えなければこの馬車だっていつ攻撃を喰らうか分からないよ、だったら手伝ってきますね!」


 私はそう言ってアマディアス兄さんの制止を無視して馬車から出る。

 それと同時に馬車の周りに【絶対防壁】をかけて結界のようにする。
 あ、勿論護衛の人たちにも。


「アルムっ!!」


 エイジが叫んでいるけど、私の張った【絶対防壁】の中に居れば安全だ。
 私は親指を立ててからマリーたちの方を見る。



「とりあえず、こうだね! 【絶対防壁】!!」


 私は魔力を高め、一瞬に大量に流し込み【絶対防壁】を地竜の周りに張る。
 本来は自分たちを守るために展開するのだけど、今回は何枚もの【絶対防壁】をどんどん地竜の周りに張る。

 それは盾が何枚も出現するような感じで、どんどん地竜を囲んで行く。

 ここでの注意が、魔力を高め一瞬で防壁を展開したらすぐに魔力を切ると言う事をする。
 するとしばらくは【絶対防壁】がその場に固定されて、それ以上の事にはならない様になる。
 「操魔剣」を見て魔法も何時もみたいに魔力を垂れ流しにしないで切ると言う事を試してみたら、魔力を込めた以上の効果は出ないで済んだようだ。

 つまり、魔法の制御が出来始めたと言う事だ!
 

「これは…… アルム様!?」

「にゃんニャ!? 地竜が防壁に囲まれていくにゃ!!」

「我が主よ、地竜を取り押さえるつもりですか!」

「ほえぇ~、凄いですぅ! おじさんが暴れてもこの防壁びくともしないですぅ!!」


 私の援護にマリーたちも気付いたようだ。

 なので私はどんどんと防壁を張り巡らし、いつしかドーム状の防壁だらけの状態にして地竜をその中に閉じ込める。
 地竜もこの異常な状態に慌てているけど、物理攻撃も魔法攻撃も効かない【絶対防壁】の中に閉じ込められれば通常の方法ではどうしようもなくなる。
 

「よっし、こんなモノかな? これで地竜は身動きできなくなったよね? ねぇ、イータルモア、この地竜て自我を失っているって言ったよね? どうしたら正気に戻せるの??」

「へっ? あ、い、いや、それは分からないですぅ。このおじさん、自我を失っているのは分かるですぅが、なんでこうなったかが分からないと正気に戻す方法も分からないですぅ」

 うーん使えんやつだ。
 私は【絶対防壁】の中に閉じ込められた地竜を見る。
 抗って防壁を破壊しようとするも、全く効果はない。


「我が主よ、この獣を始末いたしますか?」

「いや、それより正気に戻していろいろ聞き出したい。竜族って自我に目覚めれば会話できるんでしょ?」

「まぁ、獣風情ではありますが会話は出来ますな」

 アビスは私の隣に来てそんな話をするけど、殺す必要はない。
 私は手を地竜に向けて同じく一瞬だけ大量の魔力を込めて【状態回復魔法】を放つ。

 すると【絶対防壁】の中で暴れていた地竜が動きを止める。


「ねぇ、そこの地竜、僕の言葉が分かる?」

 私がコモン語でそう語りかえると、地竜は私に振り向く。


『貴様が我を正気に戻したのか?』


 地竜は少々聞きにくいけど、コモン語でそう答えて来た。


「へっ? おじさんが正気に戻ったですぅ!?」

 驚くイータルモアを無視して私は地竜に話かける。

 
「そうだよ! それよりもう僕たちを襲わないよね?」

『我を正気に戻し者よ、我は貴様と敵対するつもりはない』


 私はそれを聞いて頷いてから絶対防壁を解除する。
 するとすぐにマリーとアビスが私の前に立ちふさがる。


「アルム様! お気を付けください!!」

「我が主よ、この獣いつまた牙を受けるやもしれません」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。もう地竜は僕たちを襲わないよ。自我のあってこれだけの事が出来る地竜だ、話し合いが出来るなら戦う必要はないでしょ?」


 私がそう言うと、地竜は頷きその場にしゃがんだ。
 それは正しくおじさんがえらい目になって疲れたわぁ~と言いそうな感じだった。


「さてと、話が出来るなら何があったかくらい教えてよ?」

『ふむ、貴様には借りが出来た。良いだろう、聞きたい事を話してやろう』



 そう言って地竜は頭を地面につけるのだった。

しおり