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2-17:帰路


 私たちは途中野宿を一泊して国境の砦についていた。



「おかえりなさいませアマディアス殿下」

「うむ、また厄介になる」


 国境の砦のアンマンさんはそう言って私たちを出迎えてくれる。


「ほえぇ~あれが『鋼鉄の鎧騎士』ですぅ~? ちゃんとしたのは初めて見たですぅ~」

 出迎えで出て来た「鋼鉄の鎧騎士」をイータルモアは珍しそうに見ていた。


「イータルモア殿は『鋼鉄の鎧騎士』は初めて見るのですか?」

「いいえですぅ。村には外装の無い『鋼鉄の鎧騎士』があったですぅ。でもちゃんとしたのは初めて見たですぅ」 

 そう言ってぐるぐると「鋼鉄の鎧騎士」の周りをまわる。


「あの、アマディアス殿下。彼女は?」

「まだ正式には発表していないが婚約者となる。黒龍の孫にあたる」


「はいッ!?」


 あ~。
 アンマンさんが面白い顔になっている。
 まぁ、理解はする。
 連続でとんでもない単語が飛び出したのだから。


「正式発表があるまでは内密に頼む」

「は、はぁ……」


 苦虫をかみつぶしたようなアマディアス兄さんのその言葉にアンマンさんは間の抜けた返事をする。


「これ、フレームが軽く、外装もかなり軽くしてるですぅ。スピードはあるみたいですが、パワーは無いですぅ!」

 イータルモアは「鋼鉄の鎧騎士」から戻って来るとアマディアス兄さんにそうニコニコしながら言う。
 それにアマディアス兄さんは驚きの表情をする。


「イータルモア殿、見ただけでわかるのですか?」


「うちの村にあったのはオリジナルの一番機って言ってたですぅ。先生が乗るともの凄く強く成るですぅ。あ、でも奥さんのシャルさんがいっつも汚すから怒っているですぅ」

 なんか訳の分からない事言い出すイータルモア。
 しかし彼女のいた村とかにはそのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」があるらしい。
 しかし外装が無いってどう言う事?


「イータルモア殿、どうかこの事は内密に願いたい。イザンカ王国は正直『鋼鉄の鎧騎士』開発に遅れてしまい、中古の『鋼鉄の鎧騎士』を参考に独自で開発をしたものの、出力不足は否めない。故に一撃離脱の戦法で何とか他国の『鋼鉄の鎧騎士』に対抗をして来た。この事実は他の国に知られるのはまずいのです」

「ああ、それなら後でお母様にお願いして動力源となる連結型魔晶石核を分けてもらうですぅ。そうすれば破格の出力が出せるですぅ! あ、でもオリジナルには及ばないのは仕方ないですぅけど……」

 いやいやいや、私も少しは聞いたけど、その動力源とかは国家機密扱いだったはず。
 その高出力の動力源をこんなにあっさり分けてもらえるって、タルメシアナさんあなた一体何者?


「そ、それはとても魅力的なお話しですね。是非ともお願いしたい」

「分かったですぅ! お母様に後で伝えておくですぅ!!」


 そう言ってイータルモアはアマディアス兄さんの腕に抱き着く。
 兄さんは苦笑しながらもうちの「鋼鉄の鎧騎士」を見上げている。

 あの顔はきっと国防の強化が出来るんで嬉しいんだ……
 アマディアス兄さんって、そういう所真面目だからなぁ。

 そんな話を隣で聞いていたアンマンさんは更に目を見開いて言葉を失っている。
 私はそんなアンマンさんに言う。


「これでこの砦の防御力も格段に上がりますね」

「は、はい、そうなんですが……」


 それ以上何も言えなくなるアンマンさんだったのだ。



 * * * * *


 翌日朝早く私たちはユエバの町に向かって出発した。


 昨晩は何だかんだ言ってマリーに捕まって女湯にエイジと一緒に連れて行かれた。
 イータルモアとカルミナさんがアマディアス兄さんのお風呂に行こうとするのを何とか止めたまでは良いが、けっきょっく一緒に入る羽目になった。

 エイジは喜んでいたけど、イータルモアも結構大きい。
 こんな脂肪の塊が六個もぶら下がっていても私はちっとも嬉しくない。

 ぶら下がるならジャーマンソーセージとかの方がいいに決まっている。

 
「もうじきユエバの町が見えて来るな」

「うん、そうだね」

 エイジが外を見ながらそう言う。
 が、私はふと先日の事を思い出し、【探索魔法】を使ってみる。
 これは魔力の波をソナーのように周りに広げ、近くにいる魂の反応を見るもの。

 ある程度の大きさの魂にしか反応しないけど、魔獣とか危険なものは魂も比例して大きいからすぐに分かる。


 と、【探索魔法】に反応があった。


 なにこれ?
 この中ではイータルモアの魂が大きいけど、それに匹敵するほどの魂??


「アマディアス兄さん! 近くに何か大きな奴がいる! かなりの強さだよ!!」

「なにっ? 護衛隊長! 近くに何かいるらしい、気をつけろ!!」

 すぐさまアマディアス兄さんにそう告げると、アマディアス兄さんは外にいる護衛隊長を呼んでそう告げる。
 私たちの馬車はそれによって一旦進行を止め、周りの気配を探る。
 するとイータルモアとカルミナさんがいち早く反応する。


「何かデカいのがこっちへ向かってるニャ!」

「この感じ、竜族っぽいですぅ!」


 竜族?
 こんな場所で??

 そう思っていたら外から叫び声がする。
 何かと思って外を見ると、護衛の人たちが慌てていた。


「アルム様はここから動かないでください!」

「こいつはニャ!」

「ふむ、また竜ですか?」

「アマディアス様、この感じこいつは若い竜ですぅ! まだ自我を持っていないかもですぅ、ここは私がですぅ!!」


 そう言ってマリーやカルミナさん、アビスにイータルモアまでが馬車の外へ出る。
 私も外へ出ようとすると、アマディアス兄さんに止められる。


「待てアルム! お前はここで様子を見るんだ」

「なんで!?」

「イータルモア殿も行った。竜族の事はイータルモア殿の方が詳しい!」


 言いたい事は分かる。
 しかし、もしもの時は私も援護しないと。



 そう私が思った瞬間、外から護衛たちの悲鳴が上がるのだった。

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