絶対に勝てない相手
「特に仕事もないのにさ、なんでチビほったらかしにして出ちゃうワケ?」
「そうだよ兄貴、出かける時はなんかひとこと言えって」
「つまりは、育児放棄……ということか、ラッシュ」
あーもう、袋叩きじゃねーか! なんでこんな目に遭わなきゃならねーんだよ! と俺は一生懸命この女たちに説明したんだが、一向に信じてもらえないし。
つまりはこうだ、イーグ経由であいつの家にチビを預けたのはいいんだが、チビのやつすぐに寂しくて家を出てしまったらしい。
でもって俺の家はもぬけの殻。トガリもここしばらくの間ルースと城で仕事しているそうだから、ほとんど帰ってきてないし。
ドアの前でひとり泣きじゃくっているのを発見したのは、誰でもない、この石頭のマティエだった。
てな訳で、すぐさまジールを呼んで俺を追跡してきたということだ。
「事情を説明してもらおうかラッシュ。内容次第によってはこのまま家に強制帰還だからな」
おい……いつからこの女はここまで権力持つようになったんだ?
「忘れたのか? 私はリオネング第一騎士団長だということを」
そんなのいま初めて聞いたぞ。つーか一番偉いのってラザトじゃねえのか?
当のチビはといえば、マティエに抱かれてすうすう寝息を立てているし。全くいい気なもんだ。
「仕方ねえ、ラッシュ……全部話そうぜ」
隣で観念した顔のイーグが、俺に代わって全てを話してくれた。
そう、つまり……ナウヴェルとエッザールを追って、最終的にワグネル・ラウリスタを見つけるということをだ。
おおかたの目星もついている。ここからちょっと離れた場所にある鍛冶屋やら職人が集まっている街のことも。
「ナウヴェルか……彼も素性がいまいち見えてこない男だったからな。ある意味それで分かるのならよしか」
マティエのやつも事情が飲み込めてきたみたいだ。以前ならここで取っ組み合いの喧嘩もあり得そうだったしな。
「だからってあたしたちをほったらかしにするのはルール違反でしょーが」
ジールはそんな事言ってるんだが、ルールなんてあったのか?
「あそこ行くんだったらさ、あたしもナイフとか新調してもらいたいんだよね。最近切れ味落ちてきちゃったし」
「俺もー! なんか武器欲しい!」
「と言うことだラッシュ、それにイーグ。このまま帰るか、もしくは私たちを連れてナウヴェル達の後を追うか。いますぐ決めろ」
「いや決めるって、答えは一つしかねえだろーが」
「決まりだな。ここにいる全員で向かうことにする」
後ろでやったー! とジャノが飛び上がって喜んでるし。つーかお前ロレンタのとこで泊まり込みで勉強してるんじゃなかったのか?
「ロレンタのとこ? ずーっと本ばっか読んでて退屈だし飽きた」
ダメだこりゃ。