世界の終わりに向けて
窓を開け放ち、ルースは大きく深呼吸をひとつついた。
「なるほど。つまりネネル姫……いや、マシャンヴァルの真意はそこにあったというわけか」
「ああ、妾が話したことに嘘偽りはない……だが」
「君の姉上の考え、その限りではないということだね」
安心したのか、ネネルはベッドにごろりと、その小さな身体を預けた。
「ヴェール・デュノ……お主の弟はゼルネーと共にその計画を成し遂げる気じゃ」
こくり、とルースは無言でうなずいた。
わかる。弟ヴェールは幼い時から野心を抱いていたことを。だからこそ血族を難なくその手にかけたのだから。
「おそらくヴェールはその膨大なる知識を駆使し、大量の心無き兵を生み出しているじゃろう。それこそ何万もの数をな」
「うん、いつかこちらから攻めて行かなければね」
「じゃが、幸いにもゼルネーの計画の妨げとなる切り札は全てこちらが持っている。あとは……」
同様にベッドで横になっていたズパが、今度はルースの足元へと泳ぐようにやってきた。
「ダジュレイの奴はハナっから人間側につく気はなかったしね。可能な限りボクも努力するよ、侍者はまだ、えーと……」
「現時点で召喚可能な侍者は二名じゃ。あとは書物が焼け焦げてしまったしな」
ネネルは読み飽きたかのように、一冊の分厚い書物をベッドに投げ出した。あちこちが黒く焦げており、おそらく判読するのもやっとだろう。
「え……そ、その本は!?」
覚えていた、リオネング城の書庫に保管してあったその書物。
自分らがパデイラに赴く際に使い、そして南の島で焦がしてしまったそれを。
「ようやくわかったか愚か者。これは侍者召喚の書。マシャンヴァルにとって必要不可欠な侍者たちを別の次元から呼び寄せるために作られたのじゃ。それをお前たちは……」
「なるほど、本来なら君たちが使っていたのか……」
「しかし妾にもせいぜい数体しか無理じゃ。亡き父上なら全て網羅したであろうがな」
「でもある意味幸運かもよ。だってこんなヤバい書が無傷でマシャンヴァルの手に渡ったりでもしてご覧よ。世界はあっという間に支配されちゃうだろうしね」
「そう、ズパの言う通りじゃ。ある意味では世界の終わりを未然に防ぐことができた……かもな」
「は、はあ……」
もはや次元の違いすぎる会話に、ルースも乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
「して、ルースよ。ラッシュは最近どうしておる?」
……………………
………………
…………
「ぶへっくしょ!」
「うわ汚ねえなラッシュ、横向いてくしゃみしろ」
「ンなこと言ってもなあ。ここすげえ寒くねえか?」
「別に寒くはないが?」
「そうだよねー、ラッシュ兄貴まだ万全じゃないのかも」
「やめてよねラッシュ、病気うつすのだけは」
「おとうたん、まだへんなの?」
「ぶひゃーっくしょい!」
「だからこっち向くなってんだろ! ブッ飛ばすぞチクショー!」
ラッシュの旅路にはなぜか仲間が増えていた。
チビにマティエにジール、そしてジャノと。