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第二十六話 勘違い

 脱衣所に入り、俺が腰布と下着を取り股間にぶら下がった物を露わにすると、ノゾミ君がモジモジとしだした。
 ちなみに俺のアレは人間時代と比べて長さが二倍ほどになり、表皮が一枚増えて二重になった。この新しく増えた一番外側の表皮は鱗のような硬さだ。つまり股間は弱点というわけでもない。

「ノゾミ君、ホント無理しなくていいから」

 と俺は言うも、ノゾミ君は首をブンブンと振る。

「大丈夫です!」

 リザードマンと入るのが嫌、というより、他人に裸を見せるのが嫌なのかな。
 この年頃なら別に珍しくもない。それに彼は分家とはいえ貴族の家系だ。他人と風呂に入ることに慣れていないだろう。

 彼はまず、上に着ていた白いコートと、シャツを脱いだ。汗ばんだ、血色のいい上半身が晒される。

……あれ? 

 気のせいか、彼の胸は――ちょっぴりふっくらとしている気がする。
 筋肉の付き方も変だ。妙にしなやかな感じがする。普通、もっとゴツゴツした感じじゃないのか。あれだけの動きをするのに腹筋も割れてなく、引き締まっているって感じだ。

 ノゾミ君はチラチラと俺を横目で見た後、勢いをつけてズボンを脱いだ。そして露わになる下着――もなんか、可愛らしいデザインだ。女性が穿くような、すべすべの生地のやつ。
 嫌な予感がする。

「ちょっと待ったノゾミ君――!」

 一歩遅かった。
 ノゾミ君はパンツを脱いだ。

――なかった。

 男にあるはずの一本刀が彼――否、()()にはなかった。

「さっ! 入りましょうダンザさん!!」

 開いた口が広がらない。頭に色んな罪状が浮かんでくる。
 俺はすぐに腰に布を巻きなおし、彼女に背を向けて正座する。

「? どうしましたダンザさん」
「ノゾミ君――いやノゾミちゃん。正直に話そう。俺はとんでもない勘違いをしていた」
「勘違い?」
「俺は……君を男だと思っていたんだ」
「へ? ――あ」

 ノゾミちゃんは一瞬で全てを理解したようだ。

「そ、そうなんですか……よく勘違いされますけど、あなたはてっきりユウキから聞いているものだと」
「……これも多分だけど、アイツも君のことを男だと思っている。俺はアイツから君を男だと聞いていたからね」
「えぇ!?」

 ノゾミちゃん的にはこっちの方が驚きだったようだ。

「…………そういうことか。だからアイツ、僕のこと……」
「ん? どうした?」
「いえ、昔から僕が可愛い服を着ると『意外ですね』とか『趣味趣向は個人の自由ですので、お気になさらず』とか、意味不明の同情の視線を向けられたので」

 その勘違いが二人の摩擦を生んだのだろうか。

「だ、ダンザさん……僕は別に構いませんよ」
「はい?」
「こ、このまま、一緒に入っても……全然……」
「ダメだ。絶対ダメだ! 38のオッサンが14歳の娘さんと同じ風呂に入るなんてアウト! 完全にアウト!! 勘弁してくださいお願いします!!!」
「え!? ダンザさん!?」

 俺はそそくさと逃げるように脱衣所を出た。

「うおおおおおおっっ!!」

 全速力で脱衣所から離れる俺。

「廊下を走らないでください」
「はいぃ!!」

 ユウキお嬢様の注意で足を止める。

「一体なにをやってるんですか」
「ご、ごめんなさい。なんでもないです」

 ここでユウキに出会うとは。
 ちょうどいい。聞いてみるか。

「なぁユウキ、お前……ノゾミの性別、男だと思ってるだろ」
「思ってると言うか、男じゃないですか」
「いや、あの子、女の子だぞ」
「え……?」

 ユウキが『なに言ってるんですか?』という顔をするので、

「本人に確認した。間違いなく女性だ」

 追い打ちをかける。
 ユウキは20秒ほど黙った。その間に、今までのノゾミちゃんの言動や行動を思い起こしたのだろう。そしてきっとノゾミちゃんが女性だと色々と合点がいく場面があったのだろう。顔を青ざめさせ、汗をダラダラと流した。

「もちろん、知ってましたよ?」
「嘘つけ」
「ゴホン。それはさておき」

 ユウキは強引に話を変える。

「例の宝器の解析が終わりましたよ」
「あのマントか」

 迷宮を攻略して手に入れたボロボロマント。
 実はあれ、万識の腕時計(ワイズウォッチ)にも反応せず、身に着けてもなにも起きなかったためユウキに渡して解析をお願いしていたのだ。

「中々面白い装備ですよ。私の部屋に来てください。使い方をお教えします」

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