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第一章: 学級委員決め

朝のホームルーム。ガラス越しに射し込む陽の光が教室を淡い金色に染め、教卓の前に立つ教師の声が静かに響いていた。
「さて、今日は学級委員を決めるぞ。男子校とはいえ、お前たちのリーダーシップが求められる機会は多いからな。」
一瞬、教室に緊張が走った。誰もが内心で「自分じゃないことを」と願う中、視線をそらしたり、机の端を指で弾いたりする仕草が目立った。静寂を切り裂くのは、後ろの席に座るノリトの明るい声だった。
「先生、こういうのは立候補じゃなくてくじ引きで決めるのがいいんじゃないっすか?」
ノリトの言葉に、一部の生徒たちはクスリと笑った。彼の提案は半分冗談だったが、心の底で共感する者もいたのだろう。だが、教師は眉間に皺を寄せて首を振った。
「責任感を持てる人間に任せたいんだ。ふざけるのはなしだぞ。」
ノリトは肩をすくめ、手を上げるポーズで降参の意思を示した。その様子を、近くの席に座る昂星が冷めた目で見ていた。
「学級委員なんて、ただの雑用係だろ。」昂星が小声で呟いた。だが、彼の隣に座る規は、それを聞き逃さなかった。
「お前がやればいいじゃん、手際いいんだしさ。」規は軽い調子で言ったが、昂星はそれに顔をしかめた。
「人の意見を聞かない俺が、委員なんか務まると思うか?」
規は肩をすくめ、ふざけたように笑った。だが、そのやり取りの間、前の方の席では一海が真剣な顔で何かを考えていた。一海は静かな場所を好み、人の輪の中心に立つのを嫌っていたが、内心では「意思を貫ける人間がやるべきだ」と思っていた。
「...もし誰も立候補しないなら、考えなくもない。」一海がぽつりと呟くと、教室内が少しざわついた。
「おいおい、マジかよ。」宇俊が苦笑しながら言った。「静かにしてたい奴が学級委員とか、どういうことだ?」
「意思を貫く力があるのは大事だろ。」一海は落ち着いた口調で返した。その言葉に、宇俊は軽く頷いた。
教室の後ろでは、誓が椅子に深く腰掛けたまま、小さく震える指先を隠すようにしていた。人前で話すのが苦手な彼にとって、学級委員など想像するだけで胃が痛くなる役職だった。
「誓、お前も何か言えよ。」隣の席の太起が声をかけたが、誓はかぶりを振っただけで、視線を机に落とした。
「いや、俺は無理だよ。そんな...目立つの、苦手だし。」
教室中の生徒たちが、それぞれの性格や思惑をにじませながら、委員を誰が務めるべきかについて考えを巡らせていた。その様子を、翔馬が一歩引いた目で見守っていた。彼の落ち着いた表情には、どこか達観したような余裕が漂っている。
「先生、一旦全員で投票してみるのはどうですか?」翔馬が提案した。その声は冷静で、自然と周囲の注目を集めた。
教師は腕を組んで考え込んだ後、頷いた。「そうだな、それが公平かもしれん。では、一人一票で誰が学級委員にふさわしいかを書いてくれ。」
教室に紙とペンの音だけが響く静寂が訪れた。そして、生徒たちの心の中ではそれぞれの葛藤が生まれ、物語の幕が静かに上がろうとしていた——。

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