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1-32:冒険者の町


 カリナさんの過去の経験から、私を襲ったあの刺客がドドス共和国の差し金の可能性が出て来た。



「とは言えあくまでも憶測ですので。殿下、一介の冒険者のたわごととしてお聞きください。私とて争いを好むわけではございませんので」

「いや、参考になった。感謝するカリナ殿」

 アマディアス兄さんはそう言ってから私たちを見る。


「状況はあまり良くは無いが、今晩はここで宿泊をして明日にはジマの国に向けて出発しよう。先方との約束もある故、訪問を中止するわけにもいかない。エディギルド長、すまないがこの後城への連絡が取りたい。『風のメッセンジャー』にてブルーゲイルの冒険者ギルドに連絡は出来るか?」

「ええ、出来ますとも。それではアマディアス殿下はこちらへ。他の皆様はギルドが用意いたしますお部屋へ案内させていただきます。カリナ、頼めるか?」

「いいけど、高級の宿屋じゃなくてギルドの宿泊施設で良いの?」

「ああ、今までの話を聞かされれば殿下たちをおいそれと下手な宿へ等案内できるものか。少々手狭だがギルドの宿泊施設を使っていただいた方がいい」

 エディギルド長はカリナさんにそう答えるとカリナさんは頷いて私たちに言う。


「このギルドの上階は宿泊施設があるわ。マリーは知っているでしょうからイザンカの方々を誘導して。私はギルドの連中に通達して部屋の準備をさせるから」

 そう言ってマリーにカリナさんは目配せをすると、マリーは軽くため息を吐いてから了承する。
 そしてアマディアス兄さんとギルド長、そしてカリナさんは一旦部屋を出て行った。


「マリー、マリーは昔ここで冒険者をやっていたの?」

「はい、アルム様。昔の話ですが」

 そう言ってマリーは私から視線を外す。
 あまり聞いてほしくないのかな?
 
 私がそう思っているとエイジが私のすそを引っ張って来る。


「なぁアルム、さっきの話だとお前を襲ったあれって、ドドスの差し金って事か?」

「まだ決まった訳じゃないけど、可能性は高いって事だよね? どうしたのエイジ??」

「いや、そうすると戦争になるかもしれないって事か……」


 エイジはそう言って少し沈んだ顔になる。
 まぁ、七歳とは言え戦争と言うモノを知らない訳ではない。
 周りの大人などにも戦争の悲惨さや重要性、王族としての気構えは教えられているだろう。
 私だってもし本当に戦争になったら、王族の一員として毅然たる態度を取らなければならない。

 もっとも、そうならない様にしてもらうのが一番だけどね。


「でもさ、まだ戦争になるって決まった訳じゃないし、僕たちが向かうジマの国とももっと仲良くなっておけばきっと悪い方向へは行かないよ」

「そう、だな。まぁ、アマディアス兄ちゃんやイザーガ兄ちゃんたちがいるもんな! きっと大丈夫だろう!!」


 エイジはそう言って年相応の笑顔を見せるのだった。



 * * * * *



 食事も終り、旅の汚れも奇麗さっぱりと落してから用意された部屋で寝る訳だけど……


「なんでマリーがいるの? しかもベッド一つだし」

「アルム様の身に何か有りましたら一大事です。私が全身全霊を持ちましてお守りいたします!」


 スケスケのネグリジェでベッドに座って私を手招きするマリーさん二十二歳。
 見た目はまだわずかに幼さが残る童顔気味だけど、カルミナさんに次ぐ立派なものをお持ちな女性だ。
 そう言えばエシュリナーゼ姉さんが一緒にお風呂に入るたびにマリーとカルミナさんの胸見てどうしたらそこまで大きくなるかアプリリア姉さんと一緒に聞いてたっけ。

 前世の私より数段大きなカップのこの人たちに、前世の私だったら同じく聞いていただろうけど、今の私には無意味だしね。


「マリー…… 頼むから寝ている時に抱き着かないでくれる? マリーのおっぱい大きすぎて抱き着かれると息苦しいんだよ」

「なっ!? アルム様はこれがお気に召しませんか!? 男性は大きいほど良いと聞いておりましたのに!!」


 まぁ、多分それはそうなんだろうけど。
 前世の私もそれは感じてる。
 なんだかんだ言って男って女性に合うとまず最初に胸に視線が行く。
 当然、大きな娘の方へは最優先で視線が行くのでこれはもう条件反射だろう。

 女性としては見られるのが嫌な人もいるだろうけど、アラフォーにもなればもう慣れっこで、むしろ私に気があるのならこっちから誘ったものだ。

 ……毎回うまくいかないけど。

 で、何を言おうとマリーが一緒に寝るのをあきらめないとなれば、大人しく一緒に寝るしかない。
 私はあきらめのため息を吐いてからベッドへ行く。

 と、ふと気になったのでマリーに聞いてみる。


「マリー、僕が大きくなったら流石に一緒には寝ないよね?」

「いえ、私はアルム様とずっと一緒です! もう、お風呂もトイレもベッドの中まで!!」

「いや、流石に大きくなったら嫌じゃない?」

「何を言いますか! このマリーの身も心もアルム様に捧げております。アルム様が大人になられましたらどうぞ私めを十分にお使いください!!」

 なんか興奮気味にそう言うマリー。
 一体何に使えと言うの!?
 私は女性には興味がないんだから!!

 というか、マリーさんそうなったらお巡りさん、このお姉さんです案件よ!?


 私は軽い頭痛を覚えながらも就寝するのだった。



 * * * * *


「なぁアルム。昨日はマリーが一緒だったのか?」

「ん? そうだけど、どうしたのエイジ?」

「いや、なんかうらやましいなと思って……」


 そう言って朝食の中、エイジはマリーとカルミナさんをチラ見する。
 その視線の先はマリーとカルミナさんの胸だったりするのは、今の私でもすぐに気づいた。
 
 エイジ、君もやっぱり男の子なんだね……


「さて、食事が終わったらユエバの町を出発する。ここから大体二日かからないで我が国の国境の砦につくだろう。その後は東に順路を取り二日としないでジマの国に入れるだろう」

 アマディアス兄さんは食事を終えてそう言う。
 マリーにお茶を入れてもらいながら私たちを見るけど、何か言いたさそうな雰囲気だった。

 私は首を傾げ、アマディアス兄さんに聞いてみる。


「何か有ったのですか、アマディアス兄さん?」

「いや、特に重大な事ではないのだがな…… アルムが城からいなくなってエシュリナーゼとアプリリア、エナリアの機嫌が悪くてシューバッドやイザーガが苦労しているらしい。全くうちの女どもは……」

 アマディアス兄さんはそう言ってお茶に口をつける。

 あー、姉さんたちが不機嫌でシューバッド兄さんたちが苦労しているのかぁ……
 「鋼鉄の鎧騎士祭」もあるんだし、大丈夫かな?

 私はエイジを見ながら聞く。


「そう言えばミリアリア姉さんはどうしたの?」

「ああ、ミリアリア姉ちゃんは『鋼鉄の鎧騎士祭』の『勇者を従える姫』役をしなきゃで今頃は忙しいだろうな~。親父殿と一緒に祭りでてんてこまいだろう」

「あ、そうかレッドゲイルの『勇者を従える姫君』役ってうちの王族がやるんだっけ? レッドゲイルにはミリアリア姉さんがいるからブルーゲイルからは姫役をする必要が無いんだ。じゃぁ大変だミリアリア姉さんも」

「まぁな。でもあの退屈な祭りに参加しないでお前とジマの国に遊びに行けるのは助かったよ。最低でも二週間は城から出られないもんな~」

 エイジはそう言って最後のお茶を飲み干す。
 そして私に向かって言う。


「ジマの国ってどんなところかな? 海ってのがあるって聞くから、魚とかが美味しいって話だぞ?」

「そうか、あそこの国の東は海だっけ! ちょっと楽しみだね!!」


 私もお茶を飲み終わり、口を拭いてから出発の準備をする。
 ユエバの町をもっと見たかったけど、早い所ジマの国も見てみたい。




 私はエイジと一緒にそんな話をしながらジマの国に期待を募るのだった。

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