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1-24:ジマの国の使者


 私はアマディアス兄さんに呼ばれて応接室へ来ていた。


 こんこん


 扉をノックしてやって来た事を伝える。


「アルムエイド、お呼びと言う事なので来ました」

「入りなさい」


 扉越しに中からアマディアス兄さんの声がして入室するように言われる。
 扉を開けて、失礼しますと言いながら入ると応接セットのソファーに知らないおじさんとアマディアス兄さんが座っていた。


「アマディアス兄様、お呼びでしょうか?」

「こちらへ来なさい、アルム」

 そう言って手招きされたアマディアス兄さんの横まで来ると、アマディアス兄さんは相向かいのおじさんに私を紹介する。


「我が弟、第三王子のアルムエイドです。若干五歳ですが我が王家でも類を見ない魔術の天才です」

「これはこれは、お初にお目にかかりますアルムエイド様。私はジマの国の宰相をしておりますエラルドと申します。以後お見知りおきを」

 おじさんは立ち上がって正式な挨拶をしてくる。
 なので私も立ち上がってエマニエルさんから習った挨拶をする。
 右手を左胸に、左手を腰の後ろに回して軽くお辞儀をする。
 この時王家なので深々とお辞儀をしてはいけないらしい。

 エラルドさんはそれを見て目を細めにっこりと言う。


「お小さいのにご立派だ。してアマディアス様、彼がその対象だったと言うのですね?」

「ええ、その為そちらに我らの『草』を放ち、その真意を確かめようとしたのですがね」


 顔は笑っているけど目は笑っていないアマディアス兄さん。
 確かうちの密偵である「草」の動向はジマの国には最初からバレていて、見逃されたってエシュリナーゼ姉さんは言っていた。

 となると、その辺の事の話となる訳だけど、何で私を呼んだ?


「ふむ、我々としては貴国の王族が力をつけ、安定してもらえるのは十分に良い事と思いますが?」

「はははは、我が国の歴史をご存じの上で仰るか?」

 なんか二人とも目が笑ってない!
 怖いよこの空気。
  
 しかしジマの国の大使、エラルドさんは静かに言う。


「我が国と貴殿の国は盟約を結んでいます。遠い昔、貴殿の国の英雄が我が国においでいただき不可侵の条約を結んだ。そしてその誓いが守られている限り双方の国どちらかに外敵から侵攻がった場合お互いに助け合うとの約束。我々はその盟約を元にこれからも貴殿の国と良い関係を続けていきたいと思っています」


「ええ、我々も同感であります。故にお答え願いたい。ジーグの民について」


 アマディアス兄さんがそう言うとエラルドさんは方眉をぴくんと動かす。
 そして軽くため息を吐いてから言う。


「現在、我が国の近隣にある『嘆きの森』にジーグの民はおります。しかし彼らは我が国の国民にあらず。二百年前に黒龍様達との和解があったようですが、彼らは我らジマの国に干渉をせず。そして我らも彼らとはつながりを持ちません」

「それは本当でしょうな?」

「ええ、黒龍様に誓って」

 そこまで言って双方しばし黙り込む。
 私は彼らの次の言葉を大人しく待っていたが、アマディアス兄さんが先に口を開いた。


「分かりました。勝手に我ら『草』を貴殿の国に放ったことはお詫びいたしましょう。しかし我が弟の命を狙った輩に対して我が国は宣戦布告を受けたモノと解釈いたします。ジマの国には盟約に従い協力を求めます」

 アマディアス兄さんがそう言うと、エラルドさんは目を見開く。
 そして一間置いてから口を開いた。


「そう、ですか。分かりました、では我が国は盟約に従いイザンカ王国が外敵からの侵攻を受けたとして全面的に協力する事をお約束しましょう。我らが黒龍様の名において共にその敵を撃退いたしましょう」

 そう言ってエラルドさんは手を差し伸べる。
 アマディアス兄さんはすぐにその手を握り、握手を交わす。

 それから双方再びイスに深く座り直して口を開く。


「となれば、事の真相はドドス共和国ですかな?」

「でしょうな。全く、公国もこりませんな。大方また次期公王勢力の一派がイザンカ王国の国力をそぐのが狙いかと」


 ドドス共和国?
 それって、イザンカ王国の南方にある共和国で、確か大小さまざまな村や町がその共和国に参加して公王を配する国だって聞いたけど……


「イージム大陸最大の女神神殿があるにもかかわらず不毛な事を考える」

「公王が代替わりした話は聞きませぬが、現在の公王は確かかなりの高齢のはず。となると次期勢力の者の所業と言う訳ですか?」

「ありえますな。となると、数年後には勢力を固めまたこちら側に攻め入るやもしれません。全く学習しない連中ですな」

 アマディアス兄さんとエラルドさんはお互いにそう言ってから同時にため息をつく。


「まだ憶測ですが、情報は随時そちらにも流しましょう。黒龍様にお願いしてこちらもローグの民を投入するよう動いてみます」

「ローグの民をですか? 可能なのですか??」

「ふふふふ、黒龍様の許可が有ればすぐにでも。これはイザンカ王国との盟約に基づく事、多分お許しをいただけるでしょう」

「それは心強い。是非にもお願い致しましょう。こちらも入った情報は共有いたします」

「では」

 そう言ってエラルドさんは立ち上がる。
 そして私を見て言う。


「アルムエイド様、機会がございましたら是非にも我が国にもいらしてください。我らジマの国はあなた様を歓迎いたします」


 にっこりとほほ笑んでそう言うエラルドさん。
 私はチラッとアマディアス兄さんを見ると軽く頷いている。

「分かりました。落ち着きましたら是非にも」

「ええ、お待ちしておりますよ」

 そう言ってエラルドさんは従者を従えアマディアス兄さんに挨拶をしてからこの場を立ち去る。
 それを見送ったアマディアス兄さんは椅子に深く腰掛けてから私とマリーを見て言う。


「流石に疲れた。まさか宰相のエラルド殿が直々に来るとは思わなかった。全く、こちらの手の内は全てお見通しか。アルムの力量も試されたか…… まったく」

「僭越ながら、エラルド様からは悪意は感じられませんでした。それにローグの民を動かすよう黒龍様に進言なさるとは…… ジマの国の王を飛び越し、守護神に願いをすると言うのです、信用してもよいかと」

 アマディアス兄さんの誰に言う訳でもない独り言のようなそれにマリーが答えた。

「分かっている。しかし相手はドドス共和国か…… 現公王は動かないだろうから確実に次期公王候補の輩の仕業だな…… よくもアムルを!」

 何故か怒り始めるアマディアス兄さん。
 それにつられるようになんかマリーやアビスも雰囲気が変わる。


「え、えーと。どう言う事?」

「分からにゃいニャ。でもなんかみんな殺る気満々ニャ!」


 楽しそうに言うカルミナさん。
 いやちょとみんな血の気が多すぎない?



 一人周りの雰囲気についていけない私は小さくため息を吐くのだった。

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