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アラハスは争わない

眠い目をこすりながら、アスティとジールが僕の元にきた。
「んぁ、なんかあったの?」ごめんねジール。まだ寝足りないと思うけど……
「ちょっと二人にお願いしたいことがあって」
「ひゃい? 食事の手伝いではなくてれすか?」アスティもまだ頭が半分眠ったままだ。
「うん、今回の儀礼のことなんだけど、あれからいろいろ思い返してみると腑に落ちないことがあって」

単刀直入にいうと、サパルジェ長老含む紅砂地の仲間たちは、何者かによって操られている……それが僕の仮説だ。
「どうしてそんなことが?」ジールが疑うのも無理はない。争いも嫌いだし、僕がこんなきな臭いことを話すのなんてまず無いんだから。

半日前に僕がここに来た時のことだ。村のみんなが、まるで僕のことを流れ者でも見るかのような目つきで見ていたんだ。
仲間同士の絆を何よりも大切にする……もちろん恩義もだ。助けてくれた人や手伝ってくれた人だってもう仲間。そう、他種族でもだ。
僕はあの時家出同然の身だった……けどそんなことは関係ない。暖かく迎えてくれるのが本来のアラハスだから。
「でも事実は違ってた……トガリの言葉をまとめると、確かにこの対応はおかしいわね」
「うん。何かウラがあるとしか思えないんだ、それに……」
「そうですよね、僕とラッシュさんを真っ先に迎えてくれたのも、トガリさんの弟さんたちだったし」
弟と妹は昼寝をしていて、長老らのいる広間には居合わせていなかった。その後だ。村のみんなが豹変したのは。
「誰かがここであたし達を足止めをさせるために、村のみんなを催眠にかけた……。にしても、とにかく証拠は見つけないとね」
そういうことだ。この手の仕事に長けているジールに、まずはアラハスを調べてもらいたい。けどジール一人じゃ危険な場合も想定して、リオネング正規兵でもあったアスティにも手伝ってもらう。彼の腕前はラッシュから聞かされていたしね。
「よっしゃ安心して、アスティと二人でなんとか探ってみせるから!」
「ええ、もしかしたらマシャンヴァルの工作かも知れないですし……ってわわっ!」
ジールが小柄なアスティの肩をぐっと抱き寄せる。
やっぱり……というか、アスティの顔が一瞬のうちに真っ赤に染まった。

二人に調べてもらう場所はいろいろある。井戸もそうだし、換気口だってある。とにかく一刻も早く原因を見つけなければ!

「そういえば……あんたさっきなんて言おうとしたの?」
「え?」
「それに……って後に口ごもったからさ。気になっちゃって」
そうだ、決定的な理由があったんだ。それを言おうか言うまいか迷ってたんだっけ。
「母さんと父さんが現れたとき、最後に口論してたでしょ」
「そういやそうだったね。けどそれがいったい? 普通に夫婦ゲンカかなとしか……」

確か前にも話したっけ。同胞のこと。
僕らアラハスの民は、絶対に争うことはしない。

たとえそれが、夫婦のいさかいであってもだ

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