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出会い

 げんじーに面会した後、けいはこの国のお偉いさんと高級そうな家具が並ぶ豪華な部屋で駄弁っていた。

この部屋の床にはチョークで円を描いている。
久しぶりの家族との再会に心踊らせながら、けいは日向を待っていた。

魔王の元に向かう前に、まずは他の三人と合流しなければならない。
集合場所はヴォルペという場所で佐々木恭介(ささききょうすけ)が身を寄せたとこだ。

恭介はけい達四人の中では一番落ち着いている。
彼らは小野寺桜澄が国を滅ぼして離れ離れになって以来会っていない。

けいが身を寄せていたこの国、日本は島国だ。
この世界は今、半分くらいの土地が魔族のものとなっている。
この国が魔族に滅ぼされなかったのは島国で魔族が攻めにくかったから、とかではなく国が結界に守られていたからだ。

基本的に今生き残っている国は結界に守られている。
結界の外は魔族で溢れかえっている。

この結界は神が作ったものらしい。
神は魔族を誕生させた後、もの凄い勢いで次々と滅んでいく人類を見て、人類が全滅したらそれはそれでバランスが崩れると思い、適当に選んだ幾つかの国を結界で保護したらしい。

なんでそんなことが分かったのかというと、世界各地にある石碑に文字が刻まれたからだ。
この石碑は百年くらい前に魔族の誕生と同時に突然現れた。
神が用意したこの世界についての説明書みたいなものだ。


話を戻すが、余計な魔族との接触を避けるという理由で日向が迎えに来てくれることになっている。
けい達は魔族を殺してはならないので、余計な接触にメリットはない。

突然、チョークで描いた円が光だしたと思ったら、日向が円の中に現れた。
「おっいけたっぽい。あ! けい久しぶりー!」
何年か振りに会った日向の体はとんでもない急成長を遂げていた。

「え……何その体」
「ん? どゆこと?」
「いや日向って今年で九歳だったよね?」
「いや? 今年で十五やな」
「は!? なんで!? ちょっと意味分かんない……」

「時間を操作する魔法でいろいろやってたらミスって十五歳になった」
「いや怖い怖い!」
「まぁとりあえず行こう。どうせ天姉からも恭介からも同じこと聞かれるだろうから集まってからちゃんと説明するよ」

「んーわかった。じゃ、元気でなおっさん」
「健闘を祈ってるよ」

お偉いさんのおっさんに別れを告げ、日向と二人で円の中に入ると、次の瞬間にはヴォルペに着いていた。


「はいとーちゃく」
「おーすご。これで魔王のとこまで行けば良くね?」
「いや無理やって。知り合いを目印にしてワープしてるし事前に円を描いといてくれなアカンし」

「へぇ。その辺はやっぱよくわからんな。ん? ってことはこの近くに知り合いが……あ、恭介!! 久しぶり!」
そこには昔と変わらず、クールな恭介が立っていた。

「久しぶりだな、けい。日向も……日向? ん?」
「あー後で説明するわ」
「はあ。まーいいや。天姉はもう着いてるぞ」
「おーマジか。天姉は走ってきたんだっけ?」
「そうなんだよ。魔族全無視で結界外走ってきやがった。やっぱどうかしてるよあの人」


 それから人里離れた山の中に移動した。
しばらくすると、こじんまりとしたログハウスが見えた。

「へぇー。恭介こんなとこで暮らしてたんだ」
「うん。どうぞ上がって」

家の中では天姉こと白石天音(しらいしあまね)が餅を食べていた。
「おかえり~。……は? 日向? え?」
「よし。じゃあ説明しようか。みんな私が時間とか空間の魔法使えるんは知ってるやろ?」

「うん。日向だけらしいよな。先生でも無理とか」
「それで時間を加速させたり減速させたりして色々実験してたら自分の時間を加速させちゃってこんなことなった。てへ」

「逆のことして元に戻るとかは?」
「いや~危ないやろな。下手したら私消えるかも」
「もー。マジで気をつけろよ」
「はい。ごめんなさい」

「っていうかもっと盛大にお出迎えとかないのかね~。こちとら勇者だぞ?」
「そもそも世界の現状についてちゃんと知ってる一般人が少ないからね~。田舎とかだと魔法の存在を信じてないとか見たことないとかいう人もいるくらいだし」
「マジかよ。勇者権限使えない?」
「あんまり期待できんね」

それからしばらく談笑を楽しんだ。
そして、天姉が町に行ってみたいと言い出したので四人で行くことにした。


 町を散策しているとこんな会話が聞こえてきた。
「今日ルーポで遂にやるらしいぞ」
「あー例のあの儀式か」
「そうだ。中央広場でやるらしい」

この国はヴォルペとルーポという二つの地域に分かれていて、ルーポの方は今回の、勇者を四人選んで魔王の元へ行くということに反対だった。

更に、勇者がいがみ合っているヴォルペから選ばれたことでとうとう怒りが爆発し、自分たちから勇者を選ぶと勝手に言い出して、召喚の儀式をやることにしたらしい。

これは石碑に刻まれていた儀式で、別の世界から勇者を召喚するらしい。
召喚される際に勇者は天使から力を与えられるとかなんとかかんとか。

興味があった四人はルーポに行ってこっそり見学することにした。


 ルーポの中央広場は大勢で賑わっていて、人々は勇者の召喚を今か今かと待ちわびていた。
広場には仮設ステージがあってなんだかイベントのようだ。

しばらくすると、いかにもな格好をした六人が現れ、人々は沸いた。
六人は手早く準備を済ませると手を繋いで輪になった。
そして詠唱を始めた。

すると六人の周囲は光り始め、一瞬目が眩む程輝いた後、光は消えた。
そして六人に取り囲まれるようにして一人の少年が現れた。

人々から歓声が上がる。
少年はキョロキョロしている。
だいぶ困惑しているようだ。
六人の内の一人が少年に訊いた。

「天使様に会ったか?」
「……え? 多分、会いました……?」
人々から歓喜の声が上がる。

「天使様は何と言っていた?」
「えっと。オノデラサクトの二の舞になってはならないから与える力は制限させてもらう、とかなんとか」
「……は?」
「え?」

広場は一気に静まり返った。
「……お前にはどんな力がある? 石碑によれば、勇者は己の力を本能的に自覚する」
「多分、魔法的な?」

「おお! どんな魔法だ?」
「えっと。状態異常を治せる気がします」
「……それは魔法を使える人間ならほとんどができることだ。他には?」
「え? 終わりです……」

……。
やばい。
「おい恭介。僕この後の流れが見えるぞ」
「僕もだ」
石碑によれば召喚された勇者は同時に二人以上この世界に存在できない。

多分無制限に召喚しまくって世界のバランスが崩れることを神が嫌ったのだろう。

この少年を殺せばもう一度勇者ガチャができる。
多分この場にいる人々はそんな物騒なことを考えているのだろう。

「……殺せ!」
「そうだ! 殺してまた召喚しろ!」

ルーポで暮らす人の人間性はとても攻撃的であることで有名だ。
やばい。
もう六人は完全に殺す気だ。

「日向!!」
「分かってる。十秒が限界やで」
日向がそういうと同時に周囲は静寂に包まれた。

日向が僕たち以外の時間を止めたのだ。
「天姉! 投げろ!」
「はいはい。んじゃ投げるよー。そいやー!」

天音がけいをぶん投げた。
けいは仮設ステージに着地すると同時に少年を担ぎ走り出した。
ステージから降りたところで静止が解除された。

構わずけいは全力で逃げた。
突然のことでみんなポカンとしてたから簡単に撒けた。
少年もポカンとしてる。


 その後、みんなと合流してとりあえず恭介の家まで戻ることにした。
「はぁー。焦ったー」
「もしかしたらとは思ったけど、マジで殺そうとするとはねー。やっぱルーポやベーな」
「ていうかさっきけいじゃなくて日向ぶん投げた方が早かったかもね」

「恐ろしいこと言うな天姉は。あんな勢いでぶん投げられたら普通死ぬて。それでなくても、私今日国を跨ぐほど大規模な空間魔法使ったんよ? 十秒止めた時点で力尽きてたわ」

「……あの」
「あー君。災難だったねー。ここまで来れば安全だろうし好きなとこへ行くといいよ」

「えっと。助けてもらった上でお願いするのも厚かましいと思うけど、この世界について説明してくれるとすごく助かります」
「まー右も左も分からん人を放置するのも可哀想か。それじゃ一緒に恭介の家まで行こう」


 家に着いてひと息ついた後、自己紹介を始めた。
「僕はけい。武器は日本刀を使ってる」
「佐々木恭介です。格闘技術が自慢だよ」
「私はゴリラ。スピードとパワーに自信がある。名前は白石天音」
「私は坂本日向(さかもとひなた)や。エセ関西弁を使ってて魔法が得意なんや。よろしくな」

「……えっと大神大知(おおがみやまと)っていいます。寝て起きて気づけばあの場にいました」
「あーだからパジャマなんだね」

「さっき召喚とかなんとか聞こえたんですけど。つまり俺は異世界に召喚された感じということでしょうか?」

「あー君からすれば異世界なのか。うん。多分そんな感じだね」
「えーっと。その割には、なんというかファンタジーな感じがしないんですけど?」
「そういわれてもな」
「いや、さっきの人達だって普通にスマホで俺のこと撮ってましたし……」

「スマホくらいあるわ。なめんな」
「え、ごめんなさい。いやでも……」
「言いたいことはなんとなく分かる。んー。じゃあ大和の世界のこと教えてよ」
「スマホがあってネットがあって。あとは、えーっと……」

「大体文明のレベルは変わらんのか? でもスマホくらい百年は前からあるよ?」
「え?」
「まー科学より魔法の方が盛んに研究されたしなー。百年前からあんま科学文明は発達してないと思うけど」
「んー。そうだ! 世界地図見せたげるよ」
「……ちょっと違いますね。大体同じなんですけど」

「じゃーパラレルワールドとかなのかもね」
「パラレルワールド……。この世界には魔法があるんですよね?」
「うん。君にも素質はあるみたいだね」

「そ、それって凄かったり?」
「んー。特別すごいって程でもないかな」
「で、でも俺状態異常を治せるっぽいですよ。なんか直感というか本能というかでわかるんです。これが実はとんでもないことだったり……」

「しないね。魔法を使える人は少数派だけどそこそこ存在してる。そんで魔法使える人なら基本できる。そうだねー。例えるなら、今の君の実力はー」
「……実力は?」
「地区大会三位ってとこかな」
「絶妙!」

「さっきなんか言ってたよね。力が制限されてるとか」
「あ、はい。多分俺天使? に会ったんですけどオノデラサクト? がどうたら言ってましたね」
「小野寺桜澄は僕たちの先生だよ」
「……え? どういうことですか?」

けいは大和にこの世界の歴史と現状と自分達のことをかいつまんで説明した。

「……つまりあなたたちの先生のせいで、俺の主人公パワーはナーフされたと」
「そういうことかな」
「グアァ! 俺は主人公ではないのか!」
「まーまー落ち着きなさいって。ほら餅食え餅」

「どうも。ん? そういやみなさん日本人なんですか?」
「生まれはみんな日本だな。色々あってさっき話した孤児院に行ったんだけど」
「へぇー。日本はあるんですね。そういや今何年ですか?」
「小桜五年だね。」
「こざくら? あ、元号?」

「そうそう。先生の英雄時代にちょうど元号が変わることになってね。英雄小野寺桜澄からとって元号は小桜になったの」
「はー。ほんとにすごい方だったんですね」

「今や人類とも魔族とも敵対して、コードネームコザクラとか呼ばれてるけどね。んで、そのコザクラさんを止めるための僕たち」

「んー。なるほど。でも今は別に何の動きもないんでしょ?」
「だからって放っておいていい程の強さじゃないからね。国を一つ滅ぼしてるわけだし。まーでも先生がその気になってたらとっくに人類は滅んでそうだけどね」
「何を考えてるのかねーあの人は」

「ところで、魔族は突然生まれたりするもんなんですか? この辺りはいないみたいですけど」
「さっき言った結界のおかげっていうのと、あと魔族はゲートの向こう側から出てきてるんだよ」
「ゲート?」

「そう。この世界とそっくりなもう一つの世界に繋がっているゲート。魔族と同時に誕生して、魔王もゲートの向こう側にいる。便宜上この世界を表世界、ゲートの向こうを裏世界と呼ぶよ。先生は多分表裏、両方を世界ごと終わらせるつもりなんだよ」

「それって天使を殺すってやつか? いくらなんでも……いや、先生ならやりかねんか」
「ど、どういうことですか?」

「さっき言った通りこの世界は神が作った。そして世界を運営しているのは天使なんだよ。基本的に神は、天使にこの世界のことを任せてる。これについては色々な説がある。神は世界をどれだけ長く滅ぼさずにいられるか遊んでるとか、単純に暇潰し、とか色々ね。とにかく、なんかよく分からんけど神は自ら世界に関わりたくないらしくて、天使が世界を細かく調整している。石碑に文字が刻まれるのもその一つだ」

「それで、天使を殺すというのは?」
「天使は表世界に一人、裏世界に一人いる。エピロゴス島とかいうとこにいるらしい。そこは強力な結界で守られていて、普通なら見えもしない。知覚できないようになっている。でも先生なら分からない。そして、表世界の天使を殺せば表世界は終わる。裏世界も同様」

「終わるっていうのは?」
「消えるらしい。跡形もなく」

「……もしそれを企んでいるのなら絶対止めないとですね」
「そうだね」
「俺も連れて行ってくれませんか?」
「え? 本当に危ないんだよ?」
「それでもついて行きたいです!」

「なんで? 大和はこの世界になんの義理もないでしょ」
「あなたたちに命を救ってもらった恩があります」
「そんなの気にしなくて良いよ。ついて来たら死ぬかもよ?」
「どうせあなた達が負ければみんな消えるんでしょ?」

「いや大和が道中死んで、その後僕達が先生に勝つかもしれないじゃん」
「うるさいです。それで、連れてってくれるんですか? 駄目なんですか?」

「だから駄目だってば。正直足手まといだし」
「そんなこと言わずにさ~。後生だ旦那~」
「いやいや。許可できないってば。せっかく助けたのに死なれたら骨折り損じゃん」
「そこをなんとか!」

「んー。理由は? そんなに粘るってことはなんか特別な理由でもあるの?」
「……笑わないですか?」
「うん。笑わないから話してみろ」

「俺は……昔からヒーローに憧れてたんですよ。でも俺は勉強もできないし、運動もダメダメで……。一生懸命努力しても並以下のことしかできなくて。それでも諦めずに頑張り続けてきました。そして今日、この世界にやって来た」

確かに大和の手はペンだこやマメだらけだ。
努力してきたのは本当のことだろう。

「これはチャンスだと思うんです。確かに力が制限されて召喚された。幸先は良くないかもしれません。でもそれも俺らしいと思うんです。俺には与えられるより勝ち取る方が似合ってる。今までだってそう信じて才能がなくても努力してきた。強くなりたいんです。ヒーローに、なりたいんです」

「……自分の命の責任は自分で持つか?」
「もちろんです。俺が死ぬのは俺の力不足だ。俺は本気です」

「……仕方ない。連れてってやろう」
「そうだな。僕が鍛えてあげよう」
「……本当ですか? っ! ありがとうございます!! よっしゃあ!」
「これからよろしくな~」
「よろしくー」
「はい!! よろしくお願いします!!」

こうしてけい達は大和も一緒に、五人で旅立つことにした。

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