戦闘
「あ、ゴブリンだ。ラッキーww」
「ほんとだ。魔石はちっこいけど死ぬ心配がないのがいいよなー。」
そんなことを言いながら人間が二人、近づいてくる。
前までは同族だった人間だが、そんなことは今は関係ない。
「よっ」
冒険者のランクはD。
とくに強くもない冒険者の軽い一撃で、俺は吹っ飛ばされた。
ドオーン
壁に打ち付けられた俺は、一瞬何が起きたのかがわからなくなる。
「グアッ」
モンスターになると、どうやらうめき声まで気持ち悪くなるらしい。
「よいしょー」
ドオーン
「もういっちょー」
バコーン
低ランクの冒険者にもてあそばれる。
めちゃくちゃ腹が立つ。でも、手も足も出ない。
「はははwwやっぱ低級モンスターいじめは楽しいよな。」
「ほんとに言えてるww」
けらけら笑いながら、2人の内一人が、ナイフを持って俺に近づいてくる。
「じゃあな、ゴブリンさんよ。」
にやりと笑った冒険者がナイフを振り上げた時、圧倒的な”隙”が生まれた。
(これを待ってたんだよ。)
虎視眈々と狙っていたこの瞬間。人間は、絶対に勝てる、と確信したとき、圧倒的な隙が生まれる。
それは、俺が闘病生活をもって実際に体験してきたことだ。
状態が回復していると言われれば薬の服用をやめ、その次の週に悪化していると告げられる。
ぜったいにミスしないと油断した最後の最後にミスをする。
テレビで見ていた甲子園でだって、2アウトから油断したピッチャーがボッコボコに打たれて9点差をサヨナラ負け、なんてシーンもあった。
人間は、必ず油断する生き物なのだ。
かつて人間だった俺は、それをよーく知っている。
(スノーム)
どんなに弱かろうが、隙に付け込めば勝てる。
そんな安易な考えは、一瞬にして打ち砕かれた。
パリーン
俺の発射した魔法は、冒険者の胸にまっすぐ突き刺さろうとして、体に当たった瞬間、粉々に打ち砕かれた。
「あっぶねーww雑魚くてよかった。」
冒険者は、けらけらと笑うと、今度こそ俺の胸にナイフを突き立てた。
―――――
「あれ?死なない?」
冒険者のつぶやきに、俺は心の中でにやりと笑う。
そうだった。こいつらが来る前に、魔石の位置を変えておいたんだった。
魔石の位置をいちいち確認せずに殺しに来る当たり、こいつらは相当な数のゴブリンを殺してきたんだろう。
「グワァアアアアア」
俺は冒険者たちを威嚇すると、ナイフが突き刺さったままスッと立ち上がる。
そう、俺にはまだ武器がある。
(スワップ)
ダンジョンの壁と、空気を入れ替えるイメージ。空間を切り取って、入れ替える。
ドガーーン
地面が揺れる。
ダンジョンの壁は、音もなく冒険者二人の頭上に迫り、そのまま押しつぶしていった。
勝てる、Dランクにも勝てる。
自身の付いた俺は、新たに入手(?)した武器、ナイフを胸元から抜いて、ダンジョンの奥へと進んでいった。