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第十六話 「一難去ってまた一難」

 ビルサ城内部。全身を斬られたしゃらくが両膝を着く。しゃらくは、下に血だまりが出来るほど出血している。少し離れた所に着地したキンバは、大笑いしながら刀に付いた血を舐める。
 「ケーッケッケッケ! あぁあぁ可哀そうにぃ。でもてめぇが悪ぃんだよなぁ。悪ぃから仕方ねぇなぁ。美味いねぇ、(みじ)めな敗北者の血はよぉ! ケケケケケケ!!」
 しゃらくの意識はあるようで、前のめりに倒れそうになるのを、床に手を着き()つん()の姿勢で耐えている。
 「ぐっ・・・ゲホッ」
 「何だぁ? まだ息があんのか? 全くしぶとい奴だぜ」
 キンバが面倒くさそうに刀を降ろす。すると、しゃらくがゆっくりと顔を上げ、血まみれの中ニヤリと笑っている。キンバはそれに驚愕(きょうがく)する。
 「何!?」
 「・・・へへ。効かねェなァ。・・・そんなへなちょこな攻撃じゃア、おれは倒せねェぞ」
 その言葉にキンバが目を見開き、つかつかとしゃらくに近づく。
 「てめぇ。あんまり俺を怒らせるなよなぁ」
 しゃらくは、震えながらもゆっくりと立ち上がる。キンバは歩きながら、刀を交差させてしゃらくに向ける。
 「必殺! “鎌鼬牙(かまいたち) 辻風(つじ)()り”!!!」
 キンバの姿がユラユラと揺らめく。しゃらくも構える。
 「ケケケケ! その体で俺の攻撃を防げると思ってんのかぁ?」
 キンバの姿は消え、声と四方を蹴る音だけが聞こえている。ガキィィン!! しゃらくが爪で弾く。ガキィン! ガキィン! ガキンガキンガキンガキンガキン!!! 次々とキンバの攻撃をしゃらくが弾いていく。それはたった今、全身を斬り刻まれた男の動きとは思えぬほど俊敏(しゅんびん)で力強く、キンバの攻撃全てに反応出来ている。ガガガガガガガッ!!! キンバも、何度も何度も連続で攻撃を仕掛ける。しかし、しゃらくも爪や蹴りなどで何度も何度も防いでいく。バキィィ!!! 激しい猛攻の中、しゃらくが一瞬の隙を突き、キンバを殴り飛ばす。すると、すかさずしゃらくがキンバとの距離を詰める。キンバは咄嗟に、向かって来るしゃらくに刀を振る。バリィィィン!!! すると、キンバが振った刀にしゃらくが蹴りを入れ、刀が折れる。折れた先は、クルクルと上空を飛んでいく。キンバは、刀が二本とも折れてしまった為、目を丸くして驚愕している。
 「・・・っ!!?」
 「うおらァァァ!!!」
 ドカァァン!!! しゃらくが拳を振りかぶり、キンバを殴る。キンバは吹っ飛んでいき、壁に激突する。
 「ガルルル・・・」
 しゃらくが壁に向かって構える。吹っ飛ばされたキンバは頬を抑え、ゆっくりと立ち上がる。
 「・・・てめぇ、俺の牙を二本とも・・・。何故その体で動ける?」
 「気迫が違ェんだよ。お前とおれとじゃアな」
 しゃらくがニヤリと笑う。キンバは折れた刀を両手に持ち、フラフラとしゃらくに近づく。そして再び、折れた刀を交差させてしゃらくに向ける。
 「ハァハァ。・・・今度こそ、首の()()()ってやる・・・」
 ヒュッ! すると、今度はしゃらくの姿が消える。キンバが目を見開く。
 「“獣爪十文閃(じゅうもんせん)”!!!」
 ズバァァァ!!! しゃらくが両手を広げた後ろで、キンバが血を吹いて倒れる。キンバの体には十字の切り裂き傷が付き、白目を剥いて気を失っている。しゃらくがドサッと膝を着く。赤い模様は消え、牙や爪なども引っ込んでいく。体の傷もあり、体力をかなり消耗しているようである。
 「ハァハァ。ははは。さすがに疲れたぜ」
 しゃらくが上階を見つめる。この何階か上に、討たねばならない敵が鎮座(ちんざ)している。しゃらくはゆっくりと立ち上がり、階段へ歩き始めると、バタリと倒れる。
 「・・・やべェ。腹減って動けねェ」


 城の入り口の広場。バンキの猛攻をウンケイが防いでいる。ウンケイの下の地面は大きく陥没(かんぼつ)しており、ウンケイ自身も膝を着いて耐えている。
 「ケケケケケ! ハァハァ! さっさと潰れろぉ!!」
 バンキは猛攻を続けるが、どんどんと息が荒くなっている。刀を振る速度もどんどん遅くなっている。下で攻撃を防いでいるウンケイが、バンキの様子を見てニヤリと笑う。
 「どうした? 体力切れか?」
 「うっ、うるせぇ!! ハァハァハァ! 早く潰れろぉ!!」
 顔を真っ赤にしたバンキが、必死で刀を振り回す。ウンケイも攻撃を耐えている。すると、バンキが攻撃を辞め、後方へ飛ぶ。着地したバンキはゼェゼェと肩で息をしている。ウンケイもゆっくりと立ち上がる。
 「ハァハァハァハァ。くそっ。ハァハァ。しぶとい奴め」
 バンキが膝に手を置き。ウンケイを睨む。
 「・・・わはは。でも結構やばかったぜ」
 すると、ウンケイが薙刀(なぎなた)を頭の上に持ち上げ、ぐるぐると回し始める。次第に、周囲に物凄い風圧がかかるほどの勢いになっていく。バンキは思わず体を仰け反り、動けずにいる。
 「お返しだ。“風車(かざぐるま)”」
 ブオォォン!!! 回転の遠心力を使い、ウンケイが薙刀を大きく振る。バンキは咄嗟に刀で防ぐが、勢い押され後方へ吹っ飛ばされる。ドカァン!! そしてバンキは、城の壁へ激突する。
 「・・・いででで。ハァハァ。この野郎ぉ・・・」
 吹っ飛ばされたバンキが頭を抑える。
 「丈夫だな」
 ウンケイがニヤリと笑う。バンキは頭を抑えながら、フラフラとゆっくり立ち上がる。
 「お前ぇ・・・。許さねぇぞぉ!」
 ビュッ! バンキが突進して来る。ガキィィン! ガキィィン! ガキン! ウンケイが薙刀で次々にバンキの攻撃を受けていく。そして痺れを切らしたバンキが、再び上空へ飛び上がる。
「今度こそぉ! 必殺! “つるべ落鈍牙(おとし) 牙輪鈍刀(かりんとう)”!!」
 ギュン!! どんどんと加速したバンキが落ちて来る。刀は回転するように振り回している。ウンケイは下で薙刀を構える。
 「二度も食らわねぇ」
 するとウンケイが、薙刀の先をバンキに向ける。
 「“一点張《いってんばり》”」
 ガンッ!!! ウンケイが鋭く素早い突きを入れる。バンキは刀で咄嗟(とっさ)に防ぐ。しかしその破壊力は凄まじく、バンキの刀が二本とも砕け散る。バンキは目を点にする。すると、すかさずウンケイが腰を低くし、薙刀を構え直す。
 「っ!!?」
 「“三日月(みかづき)”」
 ズバァァァ!!! ウンケイが薙刀を振り、バンキを斬りつける。斬られたバンキは気を失い、地面に激突する。ウンケイは、白目を剥いてのびているバンキを見つめ、薙刀を降ろす。
 「・・・二本牙(にほんきば)ってことは、もう一人いるのか? まぁいい。ビルサは恐らく最上階。上を目指すか」
 ウンケイは倒れたバンキの横を通り過ぎ、城の中へ入る。城に入ると、広間の床が大きく抜けており、中には真っ暗闇が広がっている。
 「何だこりゃあ」
 ウンケイは穴の脇へ避け、上階へ繋がる階段を上っていく。上階を進んでいると、目の前を侍達がこちらに気づかず逃げ去って行く。
 「何だ? しゃらくか?」
 ウンケイが、侍達が出て来た方を見ると、そこから大きな赤鬼(あかおに)がのしのしと出て来る。鬼は虎模様の腰巻に、右手には大きな金棒を持っている。
 「は!? 鬼!?」
 ウンケイが驚く。すると、赤鬼はウンケイに気が付き、のそのそと近づいて来る。
 「ゔぅぅ!」
 鬼は顔を(ひそ)め、牙を()き出してウンケイを睨みつける。しかしウンケイは、先の侍とは違って逃げず、薙刀を構える。
 「何だこの城は。鬼までいるのか? わははは。楽しくなってきやがった」
 怯えるどころかニヤニヤと笑うウンケイを見て、鬼が驚く。すると、鬼が両の掌をウンケイに向けて突如泣き出す。ウンケイが驚いていると、鬼の体がしゅるしゅると小さくなっていき、頭に葉を乗せた小さな子狸の姿になる。子狸は完全にウンケイに怯えており、泣きながら横になって腹を見せている。
 「・・・え? 狸!?」
 完

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