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第十四話 「お節介焼き」

 「あ、あんたは?」
 城下のある長屋にて、男がウンケイに尋ねる。
 「・・・ははは。何だろうな。ただのお節介(せっかい)()きだ」
 男は不思議そうにウンケイを見つめる。そう言うとウンケイはその場を去り、町中の侍達が(じん)()っている場所へやって来る。
 「何だてめぇは?」
 侍達が刀を抜き、ウンケイを警戒する。町人達も道を開けるように端へ避ける。
 「お前もしかして、例のもう一人の侵入者か?」
 真ん中に座る隻腕(せきわん)の侍が問いかける。
 「あぁ、俺は他所者(よそもの)だ」
 「お前の偵察に、仲間が何人か向かった(はず)だが、そいつらはどうした?」
 「さぁな。落とし穴にでも落ちたんじゃねぇか?」
 ウンケイがニヤリと笑う。それを聞き、隻腕の侍も立ち上がって刀を抜く。
 「俺の大事な仲間なんだ。仇は取らせてもらう」
 「へぇ。そんな奴もいるんだな。侍なんて皆腰抜けだと思ってたぜ」
 ウンケイも薙刀を構える。侍達が刀を手に一斉に向かって来る。ウンケイは薙刀を振り回し、次々に侍達を()ぎ倒していく。
 「す、すげぇ・・・」
 様子を見ていた町人達が目を丸くし、固唾(かたず)を飲んで見守っている。侍達は全員吹っ飛ばされ、遂には隻腕の侍の一人だけになる。
 「残りはてめぇだけだ。片腕でも手加減はしねぇぞ」
 ウンケイが薙刀(なぎなた)を隻腕の侍に向ける。
 「情けなど無用だ。貴様の首を貰うぞ」
 そう言って、刀を手に向かって来る。ガン! ガン! 刀と薙刀がぶつかり合う。しかし力の差は歴然で、あっという間にウンケイが刀を弾き飛ばし、刃の折れた刀が地面に突き刺さる。
 「てめぇの負けだ」
 ウンケイが隻腕の侍に薙刀を向ける。
 「・・・強いな。・・・何をしてる。さっさと殺せ」
 侍が腰を落とす。すると、ウンケイが薙刀を降ろす。
 「俺は無駄な殺生(せっしょう)はしねぇ。てめぇら武士なら、人を守る為に刀を抜きやがれ」
 ウンケイが侍の脇を通り過ぎ、献上金が入った袋を持ち上げる。
 「ほら返すぜ。他も取り返してくるから、ちょっと待ってな」
 ウンケイが袋を町人達に渡すと、城の方へ歩いていく。町人達は喜び沸き、ウンケイの後ろ姿を見送る。
 「・・・敵わんな。・・・無様ながらあの男に、俺も希望を託しちまってる」
 すると、隻腕の侍が地面に刺さった刀を抜き、自らの腹を切ろうと着物を脱ぐ。すると、誰かが手を差し伸べる。見れば、老人が一人手を出している。
 「・・・あんたはいい人だ。この前だって孫を助けてくれた。死ぬことは無い」
 見ると、老人の後ろで他の町人達も心配そうに見つめている。
 「・・・俺には、この手を取る資格は無い」
 「そう思ってくれるなら、生きて、わしらを守ってくだされ」
 老人がニッコリと笑う。侍はその顔を見て、目一杯に涙を浮かべ、刀を離す。様々な思いを背に、ウンケイが城へ向かい歩いていく。


一方ビルサ城内の物置部屋。涙を拭うお(しぶ)を、しゃらくがジッと見つめる。
 「ごめんなさい・・・」
 お渋が涙を拭き、気丈に微笑む。すると、しゃらくがすっと立ち上がる。
 「事情は知らねェが、よく分かった。もう安心してくれよ」
 しゃらくがニコリと笑う。お渋はしゃらくを見上げる。
 「教えてくれねェか。ビルサはどこにいる?」
 ガラガラガラ。物置部屋の扉が開き、しゃらくが一人出てくる。つかつかと廊下を歩き、隠れることもなく、ビルサのいる最上階を目指して歩いていく。すると階段の前の広場で、しゃらくに気づいた侍達が刀を抜き、しゃらくの前に立ち塞がる。
 「止まれ!! 貴様ぁ、どこから入ってきやがった!」
 「ちゃんと玄関から入ったぜおれは。歓迎もされたしな」
 「貴様は確か大穴に落ちたはず! どうやってここに!」
 「そこどけよ」
 しゃらくが腕をまくる。
 「まぁよい。残念だが、貴様がビルサ様の顔を(おが)むことはない」
 気が付けばしゃらくの周りには、大勢の侍達が武装し刀や槍を構え、辺りを囲んでいる。
 「ふん、止めてみろ」
 しゃらくの顔や体に、赤い模様が浮かび上がる。鋭い爪や牙が伸び、体中の筋肉が盛り上がる。
 「ガルルル」
 「かかれぇぇ!!!」
 ダダダダッ!! 侍達が四方から一斉に、しゃらくに向かって来る。しゃらくがキッと目を見開き、バッと宙高く飛び上がる。侍達が見上げる。しゃらくは空中で右足を上げる。
 「おらァァァ!!!」
 ドカァーーン!!! しゃらくが高く上げた右足を振り下ろし、床を破壊する。すると床が抜け、侍達が全員下階へ落ちていく。しゃらくも、勢いそのまま落ちていく。侍達は下階に勢いよく激突する。しゃらくは、地面でもがく侍の腹に勢いよく着地する。腹に乗られた侍は気を失う。
 「わははは! どうだァ!」
 しゃらくが、侍の腹の上に立ったまま笑う。するとしゃらくが、足の下に倒れる侍に気が付く。
 「わァごめん!」
 慌てて脇へ退ける。倒れたままの者もいるが、他の侍達が痛がりながらもゆっくりと立ち上がる。
 「上に行きてェのに、下に来ちまったぜ。わははは」
 笑うしゃらくに、侍達が再び刀や槍を構える。しゃらくも腕をまくり、腰を落として構える。
 「どっからでもかかって来い!!」
 侍達が再び一斉に向かって来る。しかし、しゃらくは軽やかに攻撃を(かわ)し、強烈な一撃を浴びせていく。まさに獣の如く暴れ回り、次々に侍達が倒れていく。侍達は刀や槍を持ち甲冑(かっちゅう)を身に(まと)ってはいるが、それらはしゃらくの牙や爪、拳や蹴りの前には全く歯が立たない。そして最後の侍が倒れ、侍達が全滅する。
 「ガルルル。出直してこい!」
 すると、誰かが上から階段を下りて来る。
 「あーあー。また随分と可愛がってくれたようだなぁ」
 見ると、ビルサ二本牙(にほんきば)鋭牙(えいが)のキンバが、両手に刀を持って下りて来る。
 「ん? なんだまたお前か」
 「ケケケ。心外だなぁ。こんな所まで来やがって」
 キンバがしゃらくに近づいて来る。近づきながら、足元に倒れている侍達を蹴って退かしている。
 「おい! そいつら仲間だろ!」
 しゃらくがキンバを睨む。すると、キンバがケラケラと笑う。
 「仲間ぁ? こんな役に立たねぇゴミ共、仲間なんかじゃねぇよ。こんな所で寝やがって邪魔だぜ」
 そう言って倒れた侍をガシガシと蹴る。しゃらくの頭に血が昇る。
 「お前みてェなクズが一番嫌いだぜおれは。もういっぺんぶっ飛ばしてやるよ」
 「ケケケケ。相変わらず生意気で安心したぜぇ」
 しゃらくとキンバが睨み合う。


一方その頃、丁度ウンケイもビルサ城へ辿り着く。破壊された城門と、門の外と中で大勢の侍達が倒れている。
 「派手に暴れたな」
 ウンケイが門の中へ入っていく。そのまま城の入り口へ歩みを進める。すると、ドガァァン!!! ウンケイの目の前に、何か大きな物が落ちて来る。
 「何だ!?」
 「また会ったなぁ。この城に何の用だ?」
 土煙が晴れると、目の前にはビルサの二本牙、鈍牙(どんが)のバンキが立ちはだかっている。
 「ああ、また会ったな。ビルサを()ちに来た」
 ウンケイがニヤリと笑う。するとバンキが刀を両手に持ち、ガシガシとその刀をぶつける。
 「さっきは油断しただけだ! 今度こそ、絶対に殺す!」
 バンキは火花が散るほど刀をぶつける。ウンケイも薙刀を構える。
 「終わりだ。てめぇらの支配はな」
 完

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