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日本


 ガタンっと椅子から勢いよく立ち上がる音が大原達の空間に響く。

「も、もしかして! 三代目勇気伝ですか!?」

っとアルトリウスが興奮混じりな声で大原を見つめる。



 突然な出来事に大原は何も喋らずにボーっとアルトリウスを見つめ。二人はただ見つめ合う謎の時間が少し続くと、メリネの呆れた声が聞こえる。



「アル....落ち着いて」



「あぁ、ごめん」

っとアルトリウスは席に着き、落ち着く。



「それで、オオハラよぉ。読んだ本っていうのは、何だよ」

 あざ笑うかの様にバレットが大原に問いかける。



「..その三代目勇気伝というのは知りませんが。自分の読んだ本は恐らく通訳本かと」



「恐らく? フッ何だその曖昧な返答は?」

 バレットはテーブルに片肘を付かせ、大原を見つめる。

「..もういっそのことよ。嘘ですって言った方が気が楽じゃあね~のか?」

っとにやけ顔を大原に見せる。



「ちょと!? バレット!?」

 焦りと驚きの混ざった声がメリネの口から出た。



「..そうですね」

 大原がそう言い、負けじとバレットにやけ顔を見せる。そうするとバレットの顔はしかめっ面になる。大原はその顔を確認した時、軽く鼻で笑い、呆然としているアルトリウス達を見ていき。静かに口を開ける。

「皆さん、自分について知りたそうなのでより詳しく話そうと思います。..自分が海から来たっというのは噓です。なぜこんな嘘を付いたのかと言うと、自分自身でも何処から来たのか分からないのです」



「....ハァ?」

っとコイツ何言ってんだ、みたいな感じの反応をメリネがし、続けて喋ろうとするが、大原が手のひら見せてくる。それを確認するとメリネは喋ろうとするのを止めた。



「ありがとうございます。..ただ自分が居た場所は覚えてます。日本、聞いたことありますか?」

 大原がアルトリウス達を見渡し、全員首を横に振るのを確認する。

「そうですか..では話を続けます。自分がこの世界に突然現れた事にしましょう。方角の分からない自分は一つの村を見つけます。その村がメムロ村、皆優しい人です。訳の分からない自分を保護してくれたんですよ。ですが自分はそこで気付くのです、言語が通じないっと..。自分は何とかして言葉を覚えようと村で本を探すと、一冊の本を見つけます。それが三代目の本」



「..何でそれが三代目って分かる?」

 威厳のあるバレットの質問が飛んでくる。



 無言で大原は懐から黒いナイフを取り出す。そのナイフを見た時、アルトリウス達は戦闘態勢に入ろうとするがガリガリっとテーブルをナイフで削っていた。



「こんなもんでしょうか」

っと言い、ナイフを懐にしまう。

「....どうです?」



 バレット達は恐る恐る削った場所を見てみるが、何か書かれているっとしか分からなかった。だが、何だか見た事のある筆記体だった。



「こっ! これは!?」

 興奮したアルトリウスの声が大きく響く。

「似てる! 三代目様の文字に!?」

っと言うと、アルトリウスはテーブルにへばりつく。



「どういう事だ....。お前が三代目と同じ..ていう事か?」

 苛立ちと困惑の混ざった声がバレットから聞こえる。



「はい。この世界の三代目っとされる人物は自分と同じ出身、日本でしょう」



「噓でしょ..」

っとメリネはリールーを見るが、特に反応は無い。



「さて、話を戻します。自分は言葉を覚え、いつまでも村にお世話になるわけには行きません。ですので村の人達に感謝を伝え、村を出ていきます。道の分からない途方な旅をしている時、マイクっという人物に会い、親切に馬でここまで連れて来てもらいました。ここからの話はローレさんとの出会いで終わります」

 一通り喋り終え、大原は息を整える。

「ここまで話しましたが。なぜ皆さんは、自分のことを知りたいのですか?」



 大原の質問に誰も答え無い中、ただ一人、興奮が抑えきれず早口でブツブツっと喋る者がいた。



「と言う事はオオハラさんは三代目様の文字が読めるって事だ! 凄い..凄いぞ! しかもあの三代目様と同じ出身なんて..!?」

 そんな独り言の様な声がさっきから聞こえていたが無視していた。しかし大原の質問でアルトリウス以外黙ってしまい、独り言が露わになる。ある程度独り言が終わったのか、テーブルから離れ、目をギラつかせながら大原のもとに近づく。

「オオハラさんに見せたい物があります!!」

っとアルトリウスの手に光が集まりだし、形を作っていく。



(え~、俺の質問は....)

とか考えていた大原だが光を見つめ、そこにはメモ帳? みたいな感じの物が出来上がっていた。



「これが三代目勇気伝と言う本です! オオハラさんには、最後のページを是非とも読んで貰いたいです!」

 アルトリウスがそれを無理やり大原の手に渡す。



(これは本では無いな....こっちの世界ではこれを本と言うのか? まぁいい、とりあえず読んで見るか)

っと思いながら、手のひらより少し大きい物のページをパラパラっとめくり、流し読みをする。



 大原が流し読みする中、一つ大きな舌打ちが聞こえたが、その後は全員静かに読み終わるのを待っていた。



 読み進めると大原の気分が徐々に下がっていった。

(なんだ..これは。こいつが書いたのか? なんだ? 何なんだ!?)

っと心の中で意味が分からなく動揺していた。





 その物に書かれている一部も内容はこの様なものだった。



 あぁ、シュンと我が喋ると空気が彩る。

 シュンの背中は我の背中、共に歩もう。

 戦って汗ばみ、泥だらけになったその姿が、我の全てを満たす。

 敵を愛し、味方を愛し、シュンは全てを愛することが出来る。まさに天使だ..。





 他にも色々書いてあったがもう限界なのですっとばした。途中、大原は無性にこれを閉じたくなるが何とか最後のページをまで来ることが出来た。そして最後の行に目をやると、この様な日本語が書かれていた。





 約束は必ず果たす、どんな手段を使ってでも。





 更にその下に何か書いてあっただろうが、ぐちゃぐちゃに掠れて読めなくなっていた。

(....なるほど)

最後の文を読み終え、大原は物を閉じる。



「どうでした!?」

 アルトリウスがグイグイ大原に詰め寄る。



「約束は必ず果たす、どんな手段を使ってでも。って書いてありました」

っと言い、大原はチラっとリールーを見るが、直ぐ見るのを止め、物をアルトリウス返す。



 目をキラキラさせながら、返された物掲げアルトリウスは見つめていた。

「おお! 約束かぁ~! 一体何の約束何だろ~」

熱い思いがアルトリウスをウキウキさせていた。



 咳払いが聞こえ、誰かが喋る。

「アル、そろそろ話に決着つけた方がいいんじゃない?」

 声が聞こえ、メリネは必死に何かの合図をアルトリウスに目で送っていた。

それに気が付いたアルトリウスは正気に戻る。



 この時、大原はメリネの瞳を見て焦りを感じ取り、最早話す事は無いっと確信した。



 メリネに指摘され、一旦冷静になったアルトリウスが少し焦りながら話を戻す。

「オオハラさん色々気になると思いますが..この質問に答えて下さい。貴方はメムロ村のひげ....」



 パリ~ンっと何かが弾ける音が聞こえる。音に気を取られアルトリウスが言おうとした事が言えず、ノエルとローレが出て行った扉が開く。



「ちょっと~、なんで音遮断結界なんて張ってるのかしら」

っと、ムスっとした顔で聞いて、ローレは部屋の中に入って来る。



「やあ! お母さん! ずいぶん速かった~ね!」

 焦ったのかイントネーションがおかしい喋り方をアルトリウスはする。

目をキョロキョロさせていると、ローレの側にぶっ倒れてるノエルを発見する。

「..お母さん、なんでノエルは倒れてるの?」



「もう、私の質問は無視なの? まぁいいわ、ノエルたらね~完成した料理を食べたら倒れちゃったのよ!」

っと言い、ローレは大原の方を見る。

「オオハラちょっとキッチン汚れたままだから、掃除しに行ってくれえるかしら?」



「はい、承知しました」

 大原はその場からいなくなった。





 扉の奥に人が消えていくのを確認したアルトリウスはローレと顔を合わせる。

「おか....」

っと喋ると同時にローレも口を開け、喋り出す。



 ローレの方が声が大きくアルトリウス声は掻き消える。

「さ~て、何があったか、ちゃ~んと説明してもらおうかしら! 嘘ついたらビリビリの刑よ~」



(流石、お母さんだな....)

 心の中でアルトリウスはローレを尊敬し、これまでの事を慎重に説明する。











(ここも時間の問題か....)

っと考え、調理器具を洗っていた。



 着々っと洗い、更に今後の事を考えこむ。

(しかし、なんだあの質問は? まだバレてないのか? ..きっとリールーっていうやつが何か魔法を使っているはずだ..。まあ、バレたとしてもここを離れる訳には行かない。かと言ってあいつらと戦っても負けるだろう。....俺の幸せは満たされないんだ、何かいい方法を探さなければ..。)



 一旦洗うのを止め、グッと手を強く握る。

器具が飾られているのを見つめ、一つ短い包丁を手に取り腰の辺りにしまう。

(約束ねぇ....)

再び手を動かし、器具を洗う。

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