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第一話 邪霊と仙人

 一八一年の中華は各地で干ばつ、飢饉、洪水、異民族や盗賊による略奪、不正役人の汚職によって民は飢え苦しんでいた。

 そんな中、司隷河東郡(しれいかとう)出身で塩賊を生業にし、誰もが一目を惹く(おとこ)がいた。

 名を関羽。

 関羽は身の丈が九尺(約二メートル弱)、髭が二尺(約五十センチ位)、熟れた(なつめ)の様な紅顔、そして、長刀を二振り武器とし、子分三十人の長であった。

 その日、満月の夜、関羽は子分達に役人から盗んだ塩を隠れ家に運ばせ、祝いの宴会をし、その後寝ている時。

 黒い人型の霧が突如と現れた。

 やがて、霧は関羽の鼻の中に入った。

「ぐああ――」

 関羽は苦しみ出して、近くに寝ていた子分達は驚いた。

「関羽の兄貴。大丈夫か?」

 すると、いつの間にか関羽の顔が紅顔では無く、身体の皮膚が黒く変色し、自慢の髭も白くなっていた。

「我が名は鄧艾(とうがい)。今から百年以上来世(らいせ)より来た復讐者だ。そして、この世の全てを憎む者なり、さあ、手始めにお主達の命を奪う! 関羽よ! 後世でも名高きお前の力を存分に見せて貰うぞ!」

 関羽は子分達を素手で無差別に殺して行った。

「兄貴止めてくれ!」

「命だけは!」

「殺さないでくれ!」

 こうして、子分達を皆殺しにした時には、身体中に返り血を浴び、正気に返った関羽は子分達の無惨な遺体を見て、また、悲鳴や断末魔を思い出し、眼から血涙を流しながら叫んだ。

「おのれ! 鄧艾! 必ずお前を滅ぼす!」

 と心に誓った。





 だが、その後も、中華各地の村や砦を関羽は鄧艾に操られるまま滅ぼして行った。



 やがて白髪鬼、黒魔人と恐れられて賞金首となり、やがて三年の歳月が経った。




 ある時、関羽は鄧艾に意識を乗っ取られ殺戮をある村で行っている時、枯れ枝の様な老人が霞の様に現れた。

「儂の名は南華老仙(なんかろうせん)。関羽に取り憑いておる来世からの邪霊、鄧艾! そなたを滅する。仙気悪滅!」

 老人の両手から白き光が放たれ。

「ぐああ――! 止めろ――! 儂はまだ、復讐を遂げておらぬわ! ぐああ――!」

 関羽の身体から黒き瘴気(しょうき)が消えて、体毛が白から黒い毛に、黒い肌も元の色に戻っていった。

「鄧艾は滅っした。そして、そなたに残っている鄧艾の知識や経験は、関羽、そのまま役に立つ故、消さずに授ける。その知識と経験を持って中華安寧の世の力に成れ! それと、相応しい武具を与えよう」

 何故か? 龍の様な刃のある刀が一振りを関羽は右手で握り締めていた。

 驚愕したが、すぐに拝礼し、感謝を述べた。

「南華老仙様。この御恩は忘れませぬ……」

「去らばじゃ……」

 南華老仙は再び霞の様に消えて行った。

 関羽は残された刀に名を付けた。

 青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)と……。

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