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第35話「毒、雷、血」

ある月曜日の午前9時頃。翡翠碧は新宿にある公園の中の木の下に座り、静かにキセルを吸っていた。するとそんな彼女の元に2人のスーツ姿の人間が近づいてくる。

「随分捜したわよ……翡翠碧ね?」

突然名前を呼ばれた翡翠は、視線を声の聞こえた方へと向けた。するとそこには金髪ショートヘアの女性と白髪ショートヘアの女性が立っていた。

「……どちら様?」

翡翠の問いに金髪ショートヘアの女性が懐から警察手帳を取り出し、それを彼女に向けながら答える。

「私は雷光匙守音、警視庁捜査一課の者よ、」

匙守音がそう言うと隣にいた白髪ショートヘアの女性も彼女と同じく懐から警察手帳を取り出し、それを翡翠に向けながら口を開く。

「私は白鳥澪、同じく警視庁捜査一課の者よ」

2人の紹介が終わると、翡翠は右手に持っていたキセルを腰に付けていた収納ポーチにしまい、その場でスーッとゆっくり立ち上がった。

「刑事さん達が私に何の用かしら?」

翡翠の質問に匙守音が答える。

「"殺戮会"……"殺人ゲーム"……これらの事にあなたが関与しているという情報を耳にしてね、そういう訳であなたと詳しくお話をしたいので今お時間よろしいかしら?」

「殺戮会……?殺人ゲーム……?はて?何の事やら……私はそんなものの事は一切知りませんよ、人違いではありませんか?」

翡翠の言葉に白鳥が反応する。

「とぼけても無駄よ、あなたの事は霧崎タカシから詳しく聞いているんだから」

白鳥の言葉に翡翠はしばらく沈黙する。そしてその後諦めたかの様な顔を浮かべながら口を開く。

「フ~……全て調査済みって訳ね……」

「その反応……やはりあなたが……」

「ええそうよ、殺戮会を作ったのは私、そしてあの低能男……霧崎タカシに殺人ゲームをやらせたのも私よ」

「なぜその様な事を……!?」

「あなた達には関係のない話よ、それじゃあ私はこの辺で」

翡翠は2人に背中を向けて、その場から立ち去ろうとした。

「逃がす訳ないでしょ」

匙守音はそう言うと、バッとその場にしゃがみ込み、地面にバッと右手の平を付けた。するとバチバチバチバチ!!と激しい音を立てながら雷が発生し、それが地面を伝って翡翠の元へと向かっていった。そしてその雷は翡翠の足裏に直撃し、そこから翡翠の全身を駆け巡った。それにより翡翠はバチバチと音を立てながら痺れてその場で動けなくなってしまった。

「さて……あなたにはこれから色々と詳しく話して貰うわ、組織の拠点やメンバーの事、それから組織を作った理由とかをね、素直に話さないって言うならこのまま電圧を強くして黒焦げにしちゃうわよ」

匙守音は鋭い目付きで、感電している翡翠を見ながらそう言った。

「フッフッフ……この程度で勝ち誇った気でいるなんて愚かな刑事さんね」

「何ですって?」

翡翠の思いがけない言葉に、やや驚いた匙守音。そしてその後翡翠の全身が徐々に紫色に変色していった。するとあろうことか翡翠に纏わり付いていた雷が消え、翡翠は自由に動ける様になった。

「なっ!?」

「嘘!?」

匙守音は驚いた。そして彼女の隣にいた白鳥も驚いた。

「一体どういう事よ……!?私の雷を打ち消すなんて……!!」

匙守音の疑問に翡翠は無愛想な表情を浮かべながら答える。

「……私の能力は全身から毒を生成する事……つまり毒によって雷を打ち消したって訳よ」

「あなたが毒使いっていうのは知ってたわ……それはいいとして毒が雷を打ち消すってどういう事よ……!?」

「どうもこうもそのまんまの意味よ、強烈な毒の成分が雷を打ち消したって事よ」

「意味が分からない……!!どういうメカニズムよ……!!」

匙守音は困惑した表情を浮かべていた。

「フン、あなた頭カッチカチなのね、別にそんな深く考える事じゃあないでしょうに、さて……ところで今さっき考えたんだけど……あなた達を生かしておいたら後々面倒臭そうな事になりそうだから今この場で殺す事に決めたわ」

そう言うと翡翠は右手から強烈な毒を生成した。それにより右手は深い紫色へと変色した。そしてその手から地面に向かってポタポタと紫色の液体が垂れ落ち、下に生えていた雑草に接触。するとその雑草は一瞬にして枯れ果てた。

「フフフ……所謂"毒手"ってやつ?」

そう言いながら毒手と化した右手を匙守音と白鳥に向けた翡翠。そんな翡翠を見た匙守音は全身をバチバチとさせて臨戦態勢へと入った。そしてその後隣にいた白鳥に指示を出す。

「みおちん、やるわよ、臨戦態勢に入りなさい」

「はい」

匙守音から指示を受けた白鳥は、左人差し指に付けていた指輪から短い針を飛び出させ、それで右手の平を軽く切った。するとそこからジンワリと少量の血が流れ落ち、その血が瞬く間に剣の形へと変化した。そしてその剣を右手に構えた。

「なるほど……そちらの白髪お嬢さんは血液を操る能力ってところかしら?」

「ご名答」

「で、そちらの金髪お嬢さんは先程のを見た限り、雷を操る能力ってところかしら?」

「ええ」

「フッフッフ……雷操作に血液操作か……初めて出会った能力だわ……久しぶりに楽しめそうだわ……」

平日の午前9時過ぎ。人気のない公園の中で、毒vs雷&血液という勝者予想のつかない戦いが今ここに火蓋を切ろうとしていた。

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