母親
悪魔は近づいてくる。
「メリネ、行けるか?」
「ふん! もちろん」
メリネは槍を構えた。
「よし、リールー、ノエル支援を頼む!」
「ん」
「わかったよ!」
二人は杖を構えた。
「バレット行くぞ!」
「へ! 言わななくてもわかってるよぉ!」
二人は悪魔に接近し、攻撃を開始する。
まず悪魔は近づいてきた先頭のバレットに向けて強力な拳を振るが、楽々盾で防がれる。
悪魔は次の攻撃に移ろうとした時、バレットの頭上からアルトリウス飛び出し、悪魔に切りかかる。
悪魔は避けようとするが足が動かなかった。足元を見ると謎の紐状の光が足に絡みついていた。
剣をかわす為に翼を勢いよく使い、後ろに飛び足の紐をちぎり、空に逃げた。
そうすると鋭い水の弾丸が無数に飛んできた。かわし続けるが、とうとうかわし切れず翼に当たり体制を崩し、体にも突き刺さるが蒸発する。
翼はボロボロになり、空中に飛んでいられなくなり落下する。
メリネは落下してる悪魔目掛け助走し飛ぶ、悪魔はメリネに気付き両手で守るが、槍で地面に叩き付けられる。
砂埃が立つ中、悪魔は立ち上がる。
「うぅぅ!」
悪魔はうめき声を上げながら、目の前を見た。
早く....お母さんを助けないと..。
悪魔は焦っていた。目の前にいる人物達の一人が幻影だと気づかないぐらいに。
一歩、足を動かした。
背後から胸元に鋭い何かが突き刺さる。
血は出ない、痛みも微かにしかない、ただ体に力が入らなくなっていく。
ゆっくり剣は抜かれ、悪魔が倒れそうな時、アルトリウスは悪魔を支えて、仰向けにゆっくり倒す。
「蘇生できるのか?」
アルトリウスは仰向けになった悪魔の傷口に手を当てる。
「う...ぁ..」
悪魔は目を開けたまま、アルトリウスを見ていた。口を開けるが言葉が出てこない。
私死ぬの?....嫌だぁ!まだ皆を幸せにしてない!ずっと..ずっとお母さんと、一緒にいたい!。
アルトリウスは手元が熱くなっていくのを感じた。
「くそ! まだ戦う気なのか!?」
これ以上戦っても無意味なのに!蘇生じゃぁもう人間には戻れないのか!?
アルトリウスは更に蘇生に力を入れる。
仲間たちは戦いが終わり安堵していた。
横たわっていたやつれた女性は意識が正常になり、上半身を起こし辺りを見た。
周りには知らない人が四人いたが、そんなことよりその奥にいる、二人に目が行った。
女性は立ち、四人をかきわけ倒れている少女の下におぼつかない足で走っていく。
「うお! おい! まて!」
「ノエル! 止めて!」
「うん!」
ノエルは杖を地面につけ、光の紐を出すが運よくかわされてしまう。
「あ!!」
女性は悪魔の下に着き悪魔に触れる。
アルトリウスは蘇生に集中しており、誰かの手が見え人物を見た。
「触れたらダメだ!!」
アルトリウスが気づきそう言うが、もう時すでに遅かった。
女性はアルトリウスを見つめ、そしてアルトリウスは女性から何かを悟り、悪魔の傷口から手を引いた。
女性は仰向けに倒れている悪魔の頭の近くに行き、赤子のように左腕に悪魔の頭をのせた。
「クエン....もういいんだよ」
悪魔は女性を見つめる。
それと同時に仲間達がこちらに来た。
アルトリウスは何とも言えない顔でリールーに質問する。
「リールー、女性に魔法は?」
リールー静かに首を振る。
「そうか....」
全員静かに女性を見ると触れた左手から灰に変わっていた。
「おか....さん....」
悪魔は手に力を入れるが動かない。
女性は悪魔の顔を空いた右手でなぞり指先が灰になっていく。そして元気づける様な声で喋る。
「クエン、もう皆幸せになったんだ。だからもうゆっくりお休み!」
「ほん..と?」
段々女性の腕は灰になり、悪魔を支えなれなく太ももに頭が落ちた。
女性は笑顔だが、涙が止まらなかった。
「ほんとさぁ! リュエンや村長! オオハラだって私も! クエンのおかけでみ~んな幸せだよ!」
悪魔はその言葉を聞くと、それはそれは凄く満足したような笑顔を女性に見せ、頭の力がガクンっと抜けた。
女性は顔を悪魔に近づけ、涙が頬に流れた。女性の体はすでに胴体までに灰が進んでいた。
「おい、いま....」
この時バレットは女性に質問しようと口を開けたが、アルトリウスに止められる。
バレットは少し不機嫌な顔をしたが、特に何も言わず、女性を見守った。
女性は最後にアルトリウス達見て、お辞儀をし、徐々に全身は灰になっていった。
アルトリウス達は女性が完全に消えるまで見守った。
目の前には少女の死体のみが倒れている。
「くそ、なんだか後味悪いな」
バレットが地面を蹴る。
「しかし、気になる名前が出たね~」
「オオハラってローレのとこに居た人かな~?」
ノエルは首を傾げる。
アルトリウスは否定する様な感じの声を出した。
「いや、別人の可能性もある」
「だけどよー、オオハラなんて珍しい名前そんな聞くかぁ?」
バレットは疑心的な声を出した。
「.....」
皆沈黙し、アルトリウスが喋る。
「とりあえず、そのことは後々調べよう」
「アル、お前ローレさんが心配じゃぁねーのか?」
「まだ、オオハラさんが犯人だって決まってないのに、そういう風にオオハラさんが犯人だって決めつけるのはよくないぞ!」
僕はかなりきつく言葉に出てしまった。
「お前なぁ! もし....」
バレット睨みながらアルトリウス近づく。
「まぁまぁ、今言い争っても何も起きないから、落ち着こうか」
メリネがバレットを抑え仲介に入る。
「何か遭ってからじゃあ遅いんだぞ!」
バレットはさっき質問を邪魔された事に、不満を持っていた様だ。
「バレット! その話は後々しよ!」
ノエルがそう言うと、バレットは不貞腐れその場に胡坐あぐらをかき座った。
「ふぅ~、アルとりあえずこの後はどうするの?」
メリネはやれやれっという感じで喋った。
「あ、うん、あの子のお墓をここに作ろうと思うよ」
「え!? あんた王様の話聞いてた??」
「もちろん」
「ハァ~まったく、もし蘇生できなかった遺体は王が埋葬するから持ち帰るって前からの約束でしょ?」
メリネは片手をおでこに当て、アルトリウスに聞く。
「でも、彼女をここで埋めてあげた方がよくないかい? 僕はそれが彼女にとっても本望だと思うけどね」
「アル~....」
「俺は賛成だ」
バレットが渋い顔しながら手を上げた。
「バレット....あんた何言ってるか分ってるの? 王を裏切る行為だよ?」
「ふん!」
バレットはそっぽを向く。
ノエルも手を上げる。
「私もさんせ~い!」
「ノエル! 真面目に考えて!」
「真面目だよメリネ、あの子の故郷はここ、それなら故郷に埋めてあげるのが正しいと思わない?」
「ん~......」
メリネはリールーを見ると、やはり手を上げていた。
アルトリウスは優しく喋りかける。
「どうするメリネ、後は貴方だけだ」
そう言い全員の視線がメリネに行った。
メリネは頭をボリボリ掻き、急に両手を上げバンザーイみたいな体制をとっり、元に戻った。
「だはぁ~! も~う! 私が真面目にしてるのが馬鹿みたい! もう好きにしな!」
皆笑顔になっり、少女の下に寄り埋める作業に移ると、村を覆っていた火の球体は消えていき、太陽が入ってきた。
お墓を五人が囲む。
「名前はクエンだったな」
「そうだね」
「リールー頼む」
「ん」
リールーは魔法で石に名前を書く。
アルトリウス達はお墓に手を合わせる。
「すまない、君のお母さんの分も書きたかったが、名前が分からず書けなかった許してくれ」
アルトリウスそう言い、数秒全員沈黙した。
メリネが一番に喋った。
「さぁて! どうやって王を騙すのかな!?」
「灰になったかな~」
「へ~、このお墓はどうやって説明する気かな~」
「それはねぇ~....」
僕は頼もしい目でメリネを見た。
メリネはひきつった顔をした。
「..はぁ~、わかったよ..弟に頼めばいいんでしょ?」
「流石! 僕からも一応お願いしとくよ!」
「これで一つの問題は解決だな」
バレットは不機嫌そうに喋る。
「バレットそんな不機嫌そうな態度は、今はダメェ!」
と言いノエルがバレットのケツに杖を叩きつける。
「いって! ノエル! ケツは反則だぞ!!」
バレットはケツを押さえながら喋る。
「ププ!」
リールーが笑っている。
僕はなんだか少し全員の緊張感が緩んだ感じがした。
「さぁ皆! 色々気になる事はあるだろけど、とりあえず帰ろう!」
「また馬車かよ~!」
「いや、リールーどうだい? まだ余裕はある?」
リールーを見るとまだ静かに笑っていて、お腹を抱えながら親指を立てている。
「そんなに面白いかぁ..? でも余裕があるなら飛んで帰りますかぁ!」
そう言うと、皆嬉しそうに喋り出した。
「まじぃ! 平和パレードに間に合うんじゃね!?」
「よっしゃー! 酒飲むぞ~」
「美味しもの食べれる!! あ! でも御者はどうするの?」
「そうだね、一回テントに戻って荷物をまとめて、御者に説明した後に帰ろうか」
バレットが走り出した。
「おいおい、早く帰ろうぜ! ちんたらしてたら終わっちまうぞ!」
それに続きメリネ、ノエルが走り出す。
「転ぶなよー!」
僕はあんな事が遭ったのに皆元気だな~っと思い、リールーと一緒に歩き出す。彼女の墓を背に。
そして、こっちのオオハラさんと、執事のオオハラさんは別人である事を願いながら....。