第11話「証言」
「…………ん……」
夜道で気を失ってどれくらいか経った頃。ある一室のベッドの上で水咲姫は目を覚ました。
「……ここは……」
彼女はベッドの上でゆっくりと上体を起こし、辺りを見回した。彼女の視界に入ったのはカーテン付きの大きな窓、それからテレビの置かれた床頭台だった。
「どこだろうここ……ん……?」
見回してる最中に水咲姫は体に違和感を感じた。気になって見てみると体のあちこちに包帯が巻かれており、それから左腕に点滴が刺されていた。それに服装が制服ではなく、病衣になっていた。ここで彼女は確信した。ここは病院だと。
(そうだ……私……変な男に襲われて気を失って……その後誰かが救急車呼んでくれたんだなきっと……)
そう思っていると部屋の中に看護師と思わしき若い女性が入ってきた。
「あら!?あらあら良かった~!意識が戻ったのね~!」
看護師は水咲姫を見るなりニコリと笑いながらそう言った。そして彼女の元へと近づいてくる。
「点滴交換するわね~」
そう言って看護師は水咲姫の点滴の交換作業を始めた。そんな中で水咲姫は看護師に聞く。
「あの~……私どれくらいここで眠ってたんでしょうか?」
「ん~?そうね~……運ばれてきたのが昨日の22時頃で~……今は8時だから~……10時間くらい?」
「そんなに……」
「ええ……さて、これでよしと……今先生呼んでくるからちょっと待っててね」
点滴の交換が終わると看護師は部屋から出ていった。そして数分後に北◯の拳に出てくる様なモヒカン頭の中年男性医師が部屋の中へと入ってきて、水咲姫に体調を尋ねた。
「おはよう、どうだい調子は?」
医師の問いに彼女は答える。
「全身がちょっと痛いです」
「なるほど……実はね、昨晩君はここに運ばれてきてすぐに切り傷の縫合手術を受けたんだよ」
「ああ……そうだったんですか……だからこんなに包帯グルグルなんですね」
「うん、ところで他に何か症状はあるかい?例えば頭痛がするとか」
「あ~……特にないですね……」
「なるほど……食欲は?」
「あります、お腹ペコペコです」
「フムフムなるほど……」
医師は手に持っていたカルテの様な物に彼女の状態を記入していった。
「さてと、その様子だと特に問題はなさそうだが……万が一って事もあるし、一応あとで精密検査をしてみようか」
「分かりました」
「あ!あとそれからね、さっきお母様に連絡を入れといたからしばらくしたら来ると思うよ」
「そうですか……」
「あと最後にね、今君と話をしたいと言う人達が来てるんだけど……呼んでも平気かな?」
「話?私に?は、はぁ……別に構わないですけど……」
彼女からイエスをもらうと医師が部屋の外に向かって何物か達に呼び掛けた。すると部屋の中に上下黒のスーツを着た2人の女性が入ってきた。そして医師は2人が入ってきたのを確認すると、どうぞごゆっくりといった感じで部屋から退出していった。
「初めまして、水咲姫さん、私は警視庁捜査一課の雷光匙守音よ」
「同じく捜査一課の白鳥澪です」
部屋に入ってきた2人はそう言いながら水咲姫に警察手帳を見せた。
「こ、こんにちは……初めまして……」
水咲姫は軽くペコリとお辞儀をした。すると匙守音が彼女に体調を尋ねる。
「どう?傷の具合は?」
「え?あ、ああ……平気ですよ……ちょっとまだ痛むけど」
水咲姫は元気アピールのために右腕で力こぶポーズをしてみせた。そして匙守音はそんな元気そうな彼女を見て微笑んだ。
「フフフ、良かった良かった……大分回復したのね」
「……あの~……もしかして……昨晩救急車を呼んでくれたのってお二方ですか?」
「ええ、110番通報を受けて駆けつけたら血塗れのあなたが倒れているのを見つけてね、急いで119番通報したのよ」
「そうだったんですか……ありがとうございました、おかげさまで助かりました」
「いいのよ、それよりもちょっと聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
「は、はい……何でしょうか?」
「昨晩あなたを襲った男についてよ」
その後水咲姫は2人に昨晩の出来事を詳しく説明した。
「───なるほど……殺人ゲーム……ね……」
匙守音は険しい表情を浮かべてそう呟いた。そしてその後、水咲姫に追加で質問する。
「他に何か詳しい事言ってなかった?」
「う~ん……ない……ですね……」
「そう……つまりまとめると、昨晩の帰り道にタカシを名乗る謎の男が現れ、あなたに遅いかかった、そして襲った理由を聞くと殺人ゲームだからと言った、さらにその男は最近発生したバラバラ殺人の犯人は自分だと主張、それに加えて全身を鋼に変える能力を持っている……」
「はい……そうなりますね……」
ここで白鳥が匙守音に小声で話しかける。
「警部、やはり犯人はミュータントでしたね」
「ええ、そうね……あっ!!」
匙守音は何か思い出した様な顔を浮かべた。
「そうだ水咲姫さん!ソイツの顔は!?何か被ってたりした!?」
「え?い、いえ……何も被ってませんでしたよ……素顔100パーセントでした」
「本当に!?どんな顔だったか思い出せる!?」
「ええ……え~と……」
「あ!ちょっと待った!みおちん!用意して!」
「はい」
水咲姫が答えようとした直後に匙守音は一旦彼女をストップさせ、白鳥にメモ用紙とペンを用意させた。
「ごめんね、どうぞ続けて」
白鳥の用意ができると匙守音は水咲姫に話の再開を頼んだ。
「は、はい……え~と……徹夜3日目の坂本龍馬とスティー◯ン・セ◯ールを融合させて、バットで1時間殴打して、その後2時間天日干しした様な顔でした」
「徹夜3日目の坂本龍馬とスティー◯ン・セ◯ールね……」
彼女の証言を元に白鳥はサラサラと似顔絵を描き始めた。
「できた!こんな感じ?」
白鳥は水咲姫に描いた似顔絵を見せた。そしてその絵を見た彼女は驚いた。なぜなら昨晩自分が見た男と非常にクリソツだったからだ。
「そうですそうです!!こんな顔でした!!わ~!!すごい!!絵上手いですね!!」
水咲姫は白鳥に向かってパチパチと拍手をした。
「フフン、私、中学高校の6年間美術の成績5だったのよ?」
白鳥は自慢気にそう語った。そしてその後、匙守音の方をチラッと見る。
「警部!早速この絵をコピーして街中に配りましょう!」
「ええ、そうね」
頷く匙守音。そして水咲姫の方へと顔を向ける。
「ありがとう水咲姫さん、あなたの協力のおかげで捜査が捗りそうよ、あとそれからこれを……」
匙守音は上着のポケットから自身の電話番号が書かれたメモ用紙を取り出し、水咲姫に渡した。
「これ、私の番号、もしも何か他に思い出したり分かった事とかがあったらここに連絡してもらってもいいかしら?」
「は、はい……分かりました」
水咲姫は静かにスーッとメモ用紙を受け取った。
「それじゃあ、お大事に」
「お大事に」
匙守音と白鳥は水咲姫に別れを告げ、病室から出ていった。