バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第3章の第71話 勘当されたクリスティ! 怒りのフォークの行き着く先


「――話を戻しましょう! 今、地球人類の難民達の人口比は、わずか4500人越え程度……!」
「……」
「……」
「この議題を進めないと、先にはいけませんからね」

場に流れるは沈黙……。
シャルロットさんは、こう弁を続ける。
「今、地球人類の難民達の人口比は、わずか4500人越え程度……!
来年までには、病気、怪我、感染症、ウィルスや細菌等の問題が重なるから、その損失は大きいはず……」
「……」
「さっき言ってましたよね?」
そう、話したのはアヤネさんだ。
さすがは大人だ、しっかりしている。
シャルロットさんは、こう弁を語り継ぐ。
「ええ。その損害は計り知れない……。悪循環を極めるでしょうね……!!」
「……」
「……」
僕とアユミちゃんは、その話を真面目に聞く。
続けてシャルロットさんは、こう語る。
「ただでさえ難民生活は、心や体にかかる負担が大きい……!
子供を作ろうなんて気は、ほんの一部の人達に留まるでしょうしね……。
……スバル君、覚えてる? アンテロポス星人の話を……!?」
「えっ? それってレグルスの話に出てきた……?」
「ええ、そうよ!」
「……」
そう、ハッキリ告げるシャルロットさん。
あの場には、少なくともシャルロットさんはいなかったはずだけど……。
きっと兵士の誰かさんから、伝わったんだろうな。
僕はそう思う。
僕は気になり、レグルスのいるところへ振り向くと――


☆彡
――あいつはデネボラさん達と一緒に、ホテリエさん達の対応に当たっていた。
まぁ、無理もない、あんな火災を起こそうとしたのだから……。
そこであいつは、何やら苦しい言い訳をしていた。
その近くにいるのは、デネボラさんに、ホテリエさん2人の姿だ。
その後ろで聞き耳を立てていたのは、アンドロメダ王女様にLの姿だった。
「――だから、ちょっとした火が出たんだって!?」
苦しい言い訳をするレグルス。
「バイキングで火災だなんてあんた!! うちのホテルの信頼と安全性をなんだと思ってるんだ!!!」
「周りの泊っているお客様や難民たちまで、迷惑を被ったんだぞ!!!」
「クソ――ッ!! なんで俺だけ――ッ!?」
それに苦言を零すは、デネボラさんの役目だ。
「それはあなたが炎で、あの子の場合は怨魔だからよ! 燃えないしね……火災の原因でもないからよ!」
「クソッ!! そんなんアリか!!?」
「やっぱりあの子は、無実じゃないか――ッ!!!」
「~~!!」
もう頭を抱えるレグルス。完全に落ち度としては、お前が悪いのだ。
「「あんたがしっかりしろッッ!!」」
(クソ~~何で俺がぁあああああ!!!?)


☆彡
――あちらでは漫才劇が行われていた……。
でも、こっちは真剣な話で。
「――そうよ! アンテロポス星人も、故郷の星が氷漬けになって今もまだ帰れないでいる……いえ、もっと絶望的でしょうね!」
「絶望的……?」
「アンテロポス星人……?」
「子供がいないのよ……!」
「「え……」」
「いえ、正確には子供を作るのが、難しい環境下にあって……ここまでの事態を招いてしまった……」
「……」
「……」
「そんなアンテロポス星人には、最後の1人がいて、他のみんなはすべて死に絶えてしまった……。……そうですよね!? 王女様!?」
シャルロットさんの視線が、
僕の視線が飛び、
アンドロメダ王女様に注目の視線が集まる。
「うむ! レグルスの報告の通りじゃ! 最後のアンテロポス星人は、どこかの誰かが引き取っていったわ!! 追跡は困難じゃ!!」
「ッ」

――無情なまでに告げられる新事実。
それは事実の証明だった。
最後のアンテロポス星人、クコンの行方はどこに――

シャルロットさんは語り部を続ける。
「最後の子は、どうやら闇市場にいて、奴隷として引き取られたらしいわ」
「ッ」
「これは、あなた達地球人類の縮図の1つだといっても過言でもないわ! あたしが思うに、『ピル』も『コンドーム』も危険薬物に指定して、排除しないといけない。
……子供ができないとどうなる!?」
「……」
「……」
「そうした子供達が見るのは、何でこんな事になったのかわからない有様でしょうね。
その慟哭と痛哭は、重んじるばかりだわ……」
「……」
「……でも、今ならまだ間に合う! あたしシャルロットが断言します!! そうした危険な薬物はすべて、排除した方がいいと、ここに宣言します!!」
「……」
一同、言葉を失う……。
ルビーアラさんの叱責から始まった事が、スバルを介して、アユミちゃんに呼びかけて、それがシャルロットさんを呼び。
その人が未来的予言を論じ、それを回避するために、こうして論破したのだ。
最悪の事態を回避するために……。
これにはルビーアラさんも、対応に困るほどで、叱責なんてできない立場にあった。
「………………」


☆彡
――とここで、あまりよくわかってない様子のアユミちゃんが。
「――で、なんで『ピル』の話になってんの……!?」
「!」
「うっ!」
「うっ!」
そのアユミちゃんの言葉に、始めに僕が、次いでダイアンさんとルビーアラさんが声を濁したんだ。
僕が、アユミちゃんが、この2人に視線を飛ばす。
「……」
「……」
痛たまれない……。それが心情なのだろう。
でも、一番傷ついたのは、他でもないこの人。
「……」
クリスティさんかもしれない。
それは実際に、処方されたものを、服用した経緯があるからだ。
「……」「……」「……」
この状況に3人とも、苦慮してしまう。
(何でこの場に、2人も子供がいるんだァ――!?)
(もう何でクリスティの周りに、こんなすごい人が付いてくるのよォ――!?)
(あぁ、あぁ、もう何でぇえええええスゴイ恥ずかしい~~ィ!?)
父ダイアンが、長女ルビーアラさんが、次女クリスティさんが、両の拳をテーブルに着きながら、プルプルと悶えていた。
傍から見れば、それはとても滑稽である。羞恥ものであった。
「……」
「!」
でも、ルビーアラ(あたし)は、シャルロット(この人)をねめつける。
この人が関わってから、こうまでこじれてしまったんだ。
完全に想定外の出来事よ。
「……」
「……」
それに睨みを返すのが、当人のシャルロットさんに、この場に連れてこられたアユミちゃんも加わる。
そんなシャルロットさんは、人の心が読めるので、すぐに平静さを取り戻しつつあった。
(あぁ……なるほどねぇ)
あたしは、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて。
フフフッ
と笑う。
「!」
それは傍から見れば、とても不気味にしか見えないのかもしれない。
「!」
クスクス
と不気味に、触ってもいないのに感傷に障る。
それはまるで、人の頭をなでなでするようだった。……どちらが立場上上なのか……。
「……」
「……」
湧きたつは、疑問、不愉快さ。
「……」
この人に苦手感を覚えつつ、務めてあたしは冷静で、その心中でこう語るのだった。
(ハァ……。こうなった以上、この人にあれこれ言ってもしょうもないし……。もう何でこんな事に……!?)
もう頭を抱えて、悔やむばかりよ。
この状況下では、長女であるルビーアラ(あたし)を推しても、相当参っていた……。
もう、なんでこんな事態に……。
あたしは、苦虫を嚙み潰したような面持ちを上げる。
「……」
シャルロット(あたし)は、その様子を見ていたわ。
とここでスバル君が。
「う~ん……あっ!」
それは何かを思い出した様で。
「アユミちゃん、耳を貸して!」
「?」
あたしは何事かと思い、スバル君に耳を貸すと。
ヒソヒソ、ヒソヒソ
と僕はアユミちゃんに、ここまでの経緯(けいい)と簡単な経緯(いきさつ)を話したんだ。
あたしは、スバル君の話ぶりを聞いて、
「うんうん……うん……あぁなるほどね!」
と理解したの。
次いで湧き上がるは、クリスティ(このお姉さん)に対する疑問の嵐だ。
「へぇ~……」
(なるほどねぇ~……)
アユミ(あたし)はスバル君から事情を聴き、このお姉さんに振り向く。
その時、クリスティ(あたし)は、ビクッと反応したわ。
「!」
「……なるほどねぇ~……」
と言葉で言いつつ、あたしはこのお姉さんを威嚇する。
その胸中では。
(あの話は、そーゆう事だったのかぁ……!)
「フ~ン……」

【――アユミ(あたし)は、スバル君から粗方(あらかた)の情報を聞き】
【大筋の話がわからずとも、話題に上がったピルの話を聞いて、ある憶測と予測、そう、仮説の話を立てたわ】
【あたしとしても、そればかりは許せない】
「……」
「!」
その痛い視線に気づき、振り返るクリスティ(あたし)。
その視線は、まだあどけない少女、アユミちゃんのものだったわ。
いったい何かしら?
【――だから、同時にこう思うの】
(これは、スバル君に近づけさせちゃいけないわね……!)
「……?」
(横取りされかれないわ……!)
【アユミ(あたし)は危機感を覚えつつ、ここまで手塩に育てた弟(?)を盗られたら、たまったものじゃない】
【あたしがそんな事を考えているとね】
【不意に隣にいたスバル君が】
「う~ん……」
「!」
【――どうやら、スバル君にはまだ理解力が乏しく】
【ここだけの説明では、まだ納得していない感じに見受けられたの】
(何だかなぁ……)
【――僕はここまでの話しぶりを聞いて、この事件に対する曖昧さ、ある出来事を考えていた】
【それは当時のクリスティさんの体験談を語ったものだ】
【僕としても、それは気になっていた……】
「……」
「……」
「……」
【三者三様、認識のズレが生じていた】
(何かしらこの娘(こ)……? 無駄に痛い視線ね……。あまりいい気がしないわ……)
(どうして、1つの家族間の間に、こうまで認識のズレ、溝ができたんだろう……?!)
(まぁ、女のあたしは、だいたいはわかるけどね……!)
(……)
(考えられるのは部外者。外から何かの仕業を受けて、こうまでこじれてしまった……!?)
(ママからも、その手の話は聞いていたし……! 学校の女友達とも、何気なくそんな会話をしていた事があるもの……!)
(……あたし、この娘(こ)に何かやったかしら……?)
(……じゃあ、その犯人は……!?)
(スバル君には、当然無理ね……。少なくとも今は……!)
等々、認識のズレは、人により様々だった。
そもそも人という生き物は、
(――だって、1回聞いた限りじゃ、人は確信を持てないもの……!)
その心の声は、アユミちゃんのものだった。
(だから他所から入ってくる2つ以上の出来事・事柄を聞いて、どっちが正解なのかゆっくり考えないとね……!
人の中には狡猾な騙し屋もいて、自分たちの都合のいいように、言葉を並べ替えて、調整調整ツギハギして、
持ってきた自分の印象を良くするために、そう働くもの……!
その仕事場では、まるで腕の立つ優秀な人として働いていれば、その人は人当たりがよく、
裏でそんな悪い事をしていただなんて、事実、思えないもの……!
だから、騙された人達の声を取っていき、上手くは口にできずとも、何かしらのメモ帳なりノートを取るなどして、
やられた当時の体験談を事情聴取していけば、それが真実となる……!!
周りの人達もそうやって、当時の体験を思い出すように、記憶を辿っていけば、
それが事実への証拠へと繋がっていく……!
あの偽善者ぶった、その特別優秀な人たちが侵した犯罪履歴が、自ずと浮き彫りになっていくもの……!)
アユミ(あたし)は、そう心の中で呟いた。
【考え込む3人、クリスティ、スバル、アユミちゃん】
(黙っていても、事態は何も好転しないわね……。何かしらのリスクを負いつつも、何か動かないと……!)
(今までの話しぶりを聞いて、クリスティさんは騙されていた人側の立場、それなりに悪事は働いていて……)
(騙された人達が動いた時、そう仕出かした共犯者たちは、どう言い繕うように動くかしら? 善人者ぶる……? それとも他の人を差し向けて、揉み消す……?)
(このまま、話題が進めば、ますますあたしの心証が悪くなってくる……わよね?)
(怪しい人物は、スプリング、サマー、オータム、ウィンターの4人に加え。他には、ドクターイリヤマ、ドクターライセン、電気のミシマ、そして、ヨシュディアエさん……?)
(一番恐いのは、国の職員や、中立と言いつつ、どちらかと言えば、優秀な人達側について、悪事の片棒を担ぐような女の人……。証拠も揉み消しし放題でしょうね……。周りの人たちの協力を買えば……)
(話の流れからして……、ピル、コンドームの話から、今度は、あたしの高校生時代……?)
(ヨシュディアエさんか? どんな人なんだろう? みんなは美人だって言うけど……。そんな人に限って、何か裏で、悪事働いていたら……恐いな……)
(対抗策は、メモ帳はノートなどは複数用意して、予めコピーを取っておく事。自分に声を掛けてくる人たち、そして、誰か信頼できる人に話し、それを託すしかない)
【そして、その呟きは突然漏れた】
「「「無条件の自由の解放か……」」」
「え?」「あれ?」「え?」
【それは、クリスティさんの話に上がった人が、そのどうしようもない問題に初めて打ち勝ち、たった1つだけ願った願い】
「「「ハハハハ……」」」
【3人とも、体裁が悪くとも、笑って誤魔化す】
【思うは、たった1つの事柄に対し、その意識を傾ける】
(女の情報網は、スゴイ……。あたしが言うのも、何だけどね……)
(ホントに女の子は、ネタ好きそうだな……。
アユミちゃんのあの時にしてそうだけど、
自分の悪い所の印象だけは、周りの子に取り次ぐなどして、そもそもそんな事はなかったことにしてるんだもんなぁ……!
花も恥じらう、ヒミツの花園、奇麗な華にも棘がある……か)
(女の子がバレ難いようにするには、最初は1人か2人、でも周りに取り次いでいけば、それは集団の声となり、寄ってたかって、そのターゲットを踏みにじる。
自分はそこで、鼻で笑い、ふんぞり返るだけ。
集団で寄ってたかって、踏みにじられた人は、痛哭・慟哭の声をどんなに上げようとも。
また、出る杭は打たれるように、その共犯者たちの手によって、揉み消される。
大人の世界に出れば、恫喝、恐喝の行為を裏でやり、金銭を巡っての話になり、
周りに取り次いで回って、そもそもそんな事はなかったとする。
協力者には、金(あめ)を払ってね。
自分の悪事だけは、そのスカートの中に隠したいから。
その人の悪い所だけを、持ち出して、周りに言いふらしまくって、情報操作と撹乱を意識させる……!
いったいどっちが立場上、上なのか……?
それが権力、職権乱用……!
それが上手い、世渡り上手の、か弱い女の子なりの勝ちパターン……!)
フッ
とアユミ(あたし)は鼻で笑うのだった。
それが、上手い女の子なりの言い訳の立ち方……!)


☆彡
「……」
「……」
アユミ(あたし)はクリスティ(この人)を見やりつつ、心の中でこう思う。
(ここまでの話ぶりを聞いて、おそらくこう言ったとんでもなく大きいぐらいのボインのお姉さんは、詐欺女の線がある……!!)
「……」
あたしは、少なくともこの人を疑っていた。
(自分は周りと比べて、特別優秀だから、何をしても許される……? 周りにも、協力的で、特別優秀な人たちがいるから……?
そんな人たちがいれば、そんな事はそもそもなかったとする事は、実に容易いでしょうね。
周りの人達に、口止め料などを払って、そう情報操作、誤認する事できる……!!)
「……」
「……」
あたしは心の中で、こう続ける。
(何がとは言えない……これは、女の子の勘だから……!)
あたしは、自分の勘を信じていた。……意外と女の子の勘って当たるものよ?
あたしは、例によって動いた。
「……?」
「……」
あたしは、スバル君を守るためにも、この子のすぐ側に立つ。
厳しい視線を、このお姉さんに向けるの。
「?」
「……」
アユミちゃんの行動は、僕にはわからなかった。
何かしらこの視線。痛いわね……この娘(こ)。
チラッ
「?」
とここで、アユミ(あたし)はスバル君の顔を見て。
僕は、何だろう……と思った。
(――1つでは、騙しが有り得る……!
向こうの仕掛け人が用意した、闇子・呼子、かけ子の線も有り得る……!!
だから!
総合的に判断するために、周りに情報を取り次いで回っていき、少なくとも2つ以上は必要……!
でも!
優れた騙し屋は、その網が広く、長い年月をかけて、沁み込ませている線も有り得るのだから……その協力者の数も、また多い……!
そして!
ここに絡んでくるのは、上の力、権力……!
真実の白は、理想の虚実、黒によって揉み消されるもの……!
大事なのは……――)
あたしは、お姉さんから視線を切り、すぐそばにいるスバル君に向ける。
(君のような人たちの声を、直接聞き、いったい当時、何が起こったのか、『噓偽りない調書』を取る事……! 上手くは言えずとも、
古い記憶を頼りに、メモ帳なりノートなどを取っていけば、
それが理想の虚実を覆す、真実の事実となっていく……!)
あたしはスバル君から視線を切り、お姉さんに向ける。
「!」
(とんでもなくおっぱいが大きい人は、それだけ頭の回転力が速く……!
知的で、グラマーな美人さんほど、それを護ろうとする知人・協力者の数も、また多い……!!
その中には少なからず、自分の体裁を取り繕うとする、騙そうとする人たちが絡んできて、
何かしらの協力関係を築いている……!
それもまた権力……! 上の圧力!)
……チラッ
あたしは、視線をこのお姉さんに向けつつ、ちょっとだけスバル君の顔を見る。
(あたしが護る……!!)
信じて。
(それは意図して意図的に、自分たちのこれまでの悪事が、周りに露見しないように注意しないといけない……!!
それが大人の世界、事象なんでしょうね……)
キッ
(そんな人たちでも、時に自分たち、子供を愛し、護ろうとしている。
子供はそれを知っていても、黙っていて、認めているのは知っている。
大人のご都合主義……!!!
――だから、情報操作を取り次いで回って、意図的に撹乱して隠蔽工作したいがために……!
そんな悪事を犯しているの。
自分たち、子供たちの、衣食住代を稼ぐために……!!
大人の世界は、奇麗ごとじゃないから……!!)
キッ
とあたしは、このお姉さんをねめつける。
(口裏を合わせている人たちの線も有り得る……!
少なくとも、真実の事実、その情報を知る人たちの数は、極めて少ない……!!
少なくとも信じられるのは、その事件に関わった『被害者本人』……!! または『その親』……!!)
「?」
(言葉巧みな人によって、騙されているご兄弟も、いるかもしれない……!!
兄、弟、姉、妹なんて……自分の手柄にしたいから、特にそれよ!!
体裁とお金が絡んでくる……!!)
チラッ
とあたしはスバル君の顔を見て。
(スバル君の話しぶりを聞く限り、その事件に関わった『当事者本人』から、その経緯、話しぶりを聞けば、その筋書きが通る……!!)
あたしは、そう、確信めいていた。
(でも……! 少なくともスバル君はこう思ってるはず……!)

『どっちも助けないといけない……』

(そう、優しいから!! だから……!!)

『ご家族の方がクリスティさんをけなしている……』
『何でこんな事に……』

(そう、あたしに言ってきたの……!!
それは、あたしの耳元でささやいた一言。
(それは、あっちで見聞きしていた話とも、不思議と筋が通るし……。
まあ、距離が離れていたけど……さ。
すべての内容は、よくはわからなかったんだけどね……。
……でも!
大筋はわからずとも、何かしらで情報で補完はできるから!
安心して!
こんな子ほど、周りに騙されやすいんだ。
だから今は黙って、この子が成長するまで待てば、いつかは返り咲く。
それが、いつになるかはわからないけど……。
あたしとしても、それが悔しいところ……)

【――そう、いつになるかはわからない】
【けど、そんな人ほど、周りの人たちは優秀ではないと口を揃えるが……】
【何かの方面で光り輝く長所があり、いつの日か、大器晩成(大化け)する可能性を秘めているのだ】

チラッ
とあたしはクリスティさんを見て。
「?」
(スバル(この子)は何も知らない……そう、無垢だから。
優しいから、意図して騙されやすい……それもちょっとしたきっかけで……。
だから、今ばかりは、あたしが上手く育てて、頭を良くしないと……!)
それがあたしがスバル君にできる、育て方の1つだから。
(スバル君自身、昔から虐めを受けていたからか……。どうにも人を疑う感性が、あたし達とは少し違うところがあるのよね……。
妙に優しいところが、スバル君のいいところ。
でも、そこがかえって騙されやすい。つけやり易い……。
あたし達が、あの子を護ってやるとか。
自分たちは、友達だろとか。
そんな甘い奸計(かんけい)の言葉を吐いて、付け入るように騙す人たちも、実はいる……!!
中にはそうやって、手広く、網を張っている人たちもいる。
少なくとも、あたしは、そーゆう悪い子たちを見てきた……!!)
チラッ
とあたしは、顔を向きを変えず、目線だけを、後ろにいるスバル君に向ける。
「?」
(――だから、今ばかりはお姉さん(?)がしっかりしないとね!)
そう、あたしは、自分に言い聞かせるの。

【――その様子はまるで、姉姫(あねひみ)であった】

「……!」
その時、クリスティ(あたし)は何かを感じ取り、このおっぱいが、プルンと揺れたのを感じたの。
「……」
それは、頑(かたく)なわだったわ。
そうまるで、小鳥を守るような、親鳥の構図にも見えて。
あたしは、心中こう思う。
(あれ……? あたし何かしたっけ……? う~ん……この子に嫌われるような事したっけ……?)
湧き上がるは疑問符の嵐。
建前上は、ライバル関係かもしれない。
将来的にスバル君は、最も大きい重心(ウェイト)を占める為、先にこの子を取った方が、優位に立てる。
それは確信めいたものだった。
「……」
「?」
「……」
【――少女は少年を守りつつ、お姉さんに敵意を向けるのだった】
【心に沸き立つは疑問……それは怪しさ満点だからだ】


☆彡
――とここで風向きを変えるために、あえてルビーアラさんは、この話題を持ちかける。
「ピルがもう避妊薬ではなく、治療薬として認識されているのは知ってるかしら?」
「?」
これには振り向くアユミ(あたし)。
治療薬。どーゆう事。
「……その様子、どうやら知らないみたいね……フフフッ。こう言えばわかるかしら? ピルには、少量のピルと容量の多いピルに大別されていると……!」
「容量ですか……」
そう、尋ね返したのはシャルロットさんだった。
「……」
「……」
そのシャルロットさんは、今、ルビーアラさんが考えていることを読み取る。
「……あぁ、なるほど~」
シャルロット(あたし)は喋ってもどうぞ、手を向けて促す。
「一般流通している、治療薬推奨の一般的な少量のピルの話をしましょう!
これは、1日1錠決まった時間に内服する事で、ほぼ100%の避妊効果と生理痛リズムの改善効果を初め、生理痛周期調整効果があるのは……ご存じかしら?」
あたしはワザと、知ったかぶりで話す。
「お詳しい話しぶりですね」
「ええ、地球で離れたあたしの主人が、お医者様だったもので」
「!」
長女のルビーアラお姉さんは、ワザと次女のクリスティさんを見た。……何かあるな勘ぐらせる。
それは勝負以前からの、精神的な迷いを生じさせる駆け引きだ。
彼女はあくまで女医だ。
普通にやり合えばこちらが負ける。
ならば、こちらが主導権を握っているうちに、言葉の問いかけによって、勝ち逃げすべきだ。
「少量のピルには、女性には嬉しいメリットがあるのはご存じ!?
それぞれ、望みたくない人とやった性行為への避妊を初め、
生理痛の軽減、ニキビの改善、生理不順、月経前症候群の改善の低下、卵巣癌の発症率などね」
「でも副作用もあるんですよね!?」
「ええ、どんな薬にも必ず毒はあるもの……! メリットがあれば、必ずと言っていいほどデメリットがついてまわる。
それぞれ、不正出血、吐き気、むくみ。
重篤な副作用は、血栓症かしらね」
「血栓症……?」
スバル君がわからないようなので、代わりに女医のクリスティさんが話す。
「子供にはわからないわよね……。
血栓症というのは、プラークみたいなもの。
血管の中に血液が固まってできるもので、凝固作用がある。
血液に栓をしてしまう、プラークという病名ね」
「さすが女医ねクリスティ!」
「!」
「どうやら医学は納めてるようね。その発生場所が多いのは、主にふくらはぎと太もも。強い痛みと腫れがあって、むくみなどの症状がある」
「でも、女性用避妊薬『ピル』には、悲しいデメリットがあって、お医者様の中には、それを秘匿しているキライがある」
「――!」
ルビーアラさんは、女医クリスティさんの考えを察する。
「ピルには、エストロゲンが働く作用がある!!」
「エストロゲン……?」
「ええ、こう聞けば女性には初め、嬉しい効果だけど、悲しいデメリットが多分に含んでいる……!」
「……」
「……」
「それは、バストアップの成長よ!」
「え?」
「バストって……?」
アユミちゃんが、スバル君が、そう口を零す。
アユミちゃんは、その言葉の意味が分かるが。
少年には、その言葉の意味がよくわからない。
そこでアユミちゃんが、少年にわかりやすく諭すために。
「おっぱいよスバル君!」
「!」
(えっ……バストっておっぱいだったの!? どゆ事!?)

【――男の子の僕には、まったくわからない……】
【その予備知識がないから、土台がないために】
【横から入ってきた情報を処理できず】
【どうあっても結びつかないんだ】
【人にバカにされるとは、まさにこの現象、事情が大きく絡んできてるのだ】
【実は、優秀な人と、そうでない人、実はここに大きく関わってくるのが、この予備知識であった】

「……デメリットか……エストロゲン……?」
「……」
そう呟く僕に。
頷き得るクリスティさん。
そのクリスティさんは、こう語り続ける。
「女性ホルモンの中には、黄体ホルモン(プロゲステロン)と卵胞ホルモン(エストロゲン)といった2種類があって、
それが作用する事で、乳房中の乳腺から、おっぱいが大きくなる分泌物が出て、中で脂肪分が増える。
これによって、バストが大きく豊かに膨らんでくるのよ!」
「医者が、おっぱいが脂肪の塊というのは、要はそーゆう事よ!」
「「へぇ~……」」
クリスティさんの説明に、ルビーアラさんが付け足して、僕とアユミちゃんは納得の声を上げるのだった。
「でも、脂肪が増えるという事は、同時に乳がんリスクも高まっていく……!!」
「――え?」
これにはアユミちゃんもショックを受ける。
「そうね。おっぱいが大きい子なほど、乳がんリスクが高まるわね? ……わかってるあんた?」
「……」
「難民生活を送るという事は、そうした希少な巨乳の子の人生を奪うという事よ!」
「それは、乳房の切除手術を言ってるのかしら?」
「ええ……。……その時になったらあたしは覚悟はできてるけど……」
チラッ
あたしは後ろを見やる。
そこにいたのは3女と4女だ。
「あの子達はまだ未婚……! 子供すら産んでない……!」
「……」
「……それでも、続きを言う気!?」
バチバチ
「……」
「……」
と長女と次女の熱い火花が飛び。
次女はこう告げる。
「ええ、言うわ。真っ当な医者として!」
「どの口が言うんだが、ハンッ!」
「ピルには、発ガン性物質が含まれているのよ!」
「え……?」
「発ガン性……?」
ガンと聞けば、子供にでも怖い病気だとわかる。
それがアユミ(自分)に降りかかるかもしれないからだ。
思わず、あたしは不安になっちゃう。
お姉様たちの熱いやり取りが続く。
「あれれ? 言っちゃっていいの?」
「ええ、こっちにはスバル君もいるし、王女様達もついてるもの!」
「フッ」
笑みを浮かべるアンドロメダ王女様。
「乳ガン検診を推奨します!」
「でも、そのためには通院に関する金銭的な問題が大きく関わってくるでしょ!? あたし達は難民! そのお金はいったいどこから降りるのよ!?」
「その点に関しては、もう問題ないわ……!」
そう、核心の言葉を持っていた。
「……」
「……」
あたしはスバル君に振り向いて。
僕はその意図を察して、頷き得る。
クリスティさんがこう語る。
「フッ……金銭面に関しては、スバル君たちから聞いた話を推察すると、この星の星王様が職につけてくれる手筈になってる……!
病院だって、通院できるようになるでしょうしね」
「何ですって!?」
「それホントなの!?」
「ええ、もちろん! ……よね? スバル君?」
「はい!」
驚き得るルビーアラさんに。
問い掛ける恵アヤネさん。
答えるあたしに。
確認を取られたスバル君が頷き得る。
「……フッ」
あたしは勝ちを確信する。
「――当然、超音波検査(エコー)とマンモグラフィーに変わるものがあるでしょうから、
乳房を全摘出手術しなくても、乳房を部分切開して、悪性の腫瘍だけを切り取る事だってできる!!」
「うわっ、痛そう……ッ」
「うん……ッ」
スバル君が、アユミちゃんが、いかにも痛そうな手術の話を持ち出したために、思い切りその顔が引いたのだった。……ごめんね、でも。
「大丈夫よ、麻酔するんだから! 起きた頃には、もう術後の話を担任の先生から持ち出してるわ。
……無事、成功しましたよってね!」

「――そんな手術しませんよ!」

「「え?」」
振り返るあたし達。
そんな話を切り出したのは、シャルロットさんだ。
「宇宙レベルでは、もう医学レベルも進んで、脳ではないポイントなら、ほぼ安全に死滅させる事だってできるんですよ!」
「「ウソ――ッ!!」」
「ホントホント! 医療費負担も、ファミリアに属している人であれば、地球より安いんじゃないかな~!?」
「!」
これには僕も反応を示して、近くにいたアユミちゃんが僕の顔を見てきた。
これって頼られてる?
「これも、契約書が必要か……。う~ん……上手く打ち合わせをしていかないと……」
と考えるシャルロットさん。
とアンドロメダ王女様が。
「そうじゃな……うむ!」
「後で、会議の中で取り入れていきましょう! 大事な事ですよ!」
「だよね!」
アンドロメダ王女の話に相槌を打っていくは、デネボラさんに、Lの2人だった。
「いったいどうやって!?」
「そんな芸当ができるのよ!?」
「落ち着いて落ち着いて」
どうどうと落ち着かせるよう促すシャルロットさん。
「う~ん……後でどうせ、クリスティさんとスバル君を連れていくから、……そこでわかるんじゃないかしら?」
「「!」」
それは、僕達の状況に当てられたものだった。
「何で2人だけ……?」
と声を投げかけるルビーアラさんに。
シャルロットさんは、含み笑いの笑みを浮かべながら、スバル君の骨折した、包帯を巻かれた腕を見るよう、チラッと促すのだった。
これにはルビーアラさんも。
「あぁ……」
となんとなしに察する。
(見るからに怪我人だわこの子……)
そう認めたわ。でも……。
「でも、何でそいつが?」
「ムッ!」
そいつという当たり障りのある単語に、不愉快さを覚えるクリスティさん。
「ああ、それは彼女が、放射線を受けて、被爆しているかもしれないから、その検査を兼ねてですよ! もちろん念のために」

「「「「被爆~~ッッ!!!?」」」」

これにはルビーアラさんもダイアンさんも、恵ミノルさんも恵アヤネさんも驚き得る。
「……」
俯くクリスティさん。それは心当たりがあるからだ。
「は……ははははは」
「?」
「ハハハハハ!!! ついに悪運が尽きたな!!」
そう、呵々大笑を上げたのは、クリスティさんのお父さん、父ダイアンさんだった。
「クックックッ、こいつはいい。俺が手を下さずとも、勝手にあの世に行くんならな!!」
「……」
これが明確な線引きとなる。
親子の袂を分かつ、勘当ものへと。
「お前とは、もう家族でも何でもない!! 勘当だッッ!!!
この恥知らずの家出娘め!!
お前が自殺まで追いやった人達の無念が、お前を許さないだよ!!! 恥を知れ!!!」
ペッ
と吐き捨てた唾が――宙を飛んでいき――クリスティさんの衣類を汚す、そこは超乳の上だった。
「――!!」
これには僕も、信じ難い場面を見て驚く。
「………………」
クリスティさんは俯いていて、何も反応がなかった……。
「……そんな……」
同時にこのショッキングな場面を見て、アユミちゃんも驚いていた。
(何で……あの時、クリスティさんは……、自分の生家の人達のところへ宇宙船を回したのに……ッッ)
「……」
そのクリスティさんは顔を上げて。
近くにあった飲み物を掴み取り、ナプキンも手に取る。
「汚い」
と呟きつつ。
まず、衣類についた汚いものの上から飲み物をかけて、濡らしてから。
その後、ナプキンで拭い取る。
「あー汚い、痕(シミ)が残ちゃう……」
これにはイラッとくる、ダイアンさんにルビアラーさん。
ほとんど2人同時に動いて、それぞれ動きを取る。
まず、ルビーアラさんがクリスティさんに近づいて。
「ちょっと」
「んっ」
後ろから声を投げかけるルビーアラさん。
その声に振り返るクリスティさん。
その時だった、手を挙げて、バチィン、ブルルンとおっぱいビンタをかましたのだった。
「痛っ!!」
「これが悪いんでしょ!!! 一番の原因はこいつでしょ!!!」
バチィン、ボルルン
もう1発、おっぱいビンタする。
「痛い!! やめて!!」
慌てておっぱいを隠すあたし。だけど、とても隠しきれるようなものでもなくて。
「バカでかいのが仇になったわね!!」
バチィン、ブルン
「あんっ!!」
「隠し切れないでしょうが!!」

――別角度では、お父さんのダイアンさんがフォークを掴み取っていた。
「もう許さんッ!!」
それに怒りを込める。

「ちょっとお姉さん止めてください!!」
一番早く飛び出せたのは、やはりスバル君だった。
少年はあの時、女医の手を借りて、命を救われた恩義がある。
また、Lと別れたあの時、その一歩を踏み出せないでいた。そのちっぽけな勇気を出すために、お姉さんに抱かれた経緯がある。
そうした事から、この中で一番早く踏み出せたのだ。
「ハッ!」
2番目に動けたのは、それは母だったかもしれない。
恵ケイを失い。
この家族騒動の現場で、娘さんが危うい立場にあった。
ホテルに泊まったいた仮住まいの生徒達を養っていたのは、彼女の判断だ。
その生徒達がこの星にきて、いきなり病気に犯されてしまい、危うい場面に遭遇した時、これを助けたのは彼女だ。
それだけじゃない。難民地域に赴き、活動を通して、彼女が女医であることを深めた。
いい人だ。
あの映像を通して、スバル君を緊急手術を通して救ったのも、また彼女だ。
ほっとけない。
「ちょっ! 離しなさいよ!!」
「ヤダ!」
「止めてください! 姉妹なんでしょ!?」
2人がかりで、ルビーアラさんを抑えつけに入る。
「クッ、この子!!」
ルビーアラさんの視点に入るのは、スバル君だった。
(なんて力してんのよ!!)
両手で抑えつけに入るスバル。その腕は包帯に巻かれており、折れたままだ。
ズキズキ
と骨折した腕が痛む。
(ちょっと!? 本気で小学生!?)
「あいたたた!!!」
スバルの力に屈し、痛みの声を上げるルビーアラさん。
これに気づいたアユミちゃんは。
「えっ? 腕が折れてるんじゃ……!?」
それは子供が、大人のお姉さんを負かすかもしれない出来事だった。
あたしは気づけない。
その時スバル君の手に、魔力光が灯っていた事を。もちろん、普段からすればそれはか弱い……。
(ッ……腕が痛い……ッ!!)

――その時歩み寄るダイアン。その手にはフォークが握られていた。
そうとは知らずあたしは、
(今のうちに)
チャンスと見るや否や、この身を小さくして、おっぱいを護りながらお姉さんの横を通り抜ける。
この成果を生んだのは、他ならないスバル君だ。
あたしはこの子を信じ、その安全圏の横をすり抜ける。
その時だったわ。
「あっ」
「――!?」
逃がした事に声を上げるルビーアラさん。
その時、偶然にも僕の『危機感知能力』クライシスサーチング(クリシィエクスベルシーフォラス)が拾ったのは、お父さんの怒気だった。
(マズイッ!)
僕はすぐに振り返る。クリスティさんが危ないッ。
「あっ」
立ち止まるクリスティ(あたし)。それは恐怖からくるものだったわ。
目の前には恐いパパがいて、ゆっくりとその手に持ったフォークを振り上げて、こう言うの。
「――1番許せないのはお前だ!!!」
力いっぱい、全力で振り下ろす。
振り下ろす先は――クリスティさんの超乳だ。


☆彡
――その一瞬の出来事の間に迷いがあった。
Lがその小さな手を伸ばし、サイコキネシス(プシキキニシス)を使おうとしたが……。
……フッ……
(やめた方がいい)
一瞬の判断で、それをやめた。
少年の成長を促すために、僕はあえて、助けなかった……。

――それはシャルロットさんも同じだった。
降ろした手元が光り、助けようとしていたが……。
(成長のチャンスをかすめ取るわけにはいかないか……)
……フッ……
一瞬の判断で、それをやめた。
少年の成長を促すために、あたしはあえて、身を引いた。

――振り下ろされるフォーク。
アユミちゃんは口元に手を当てて、信じ難い場面を目撃しちゃう。
それを止めようとする恵ミノルさん。手を突き出すが、明らかに間に合わない。
振り返る恵アヤネさん。一瞬の出来事についていけない。
そして、目を大きく見開くルビーアラさん。
父のあまりに恐い形相に、何の躊躇もなく、次女のおっぱいに向けて振り下ろされる手にしたフォーク。
その一瞬の出来事の中、
その目の水晶体に映ったのは、子供の限界の速さを振り切った影だった。

――ザクッ
フォークが、おっぱいではないものに深く突き刺さる。
舞い散る赤い鮮血。血飛沫(ちしぶき)。
痛みに耐えかねて、呻吟の顔を浮かべる少年。
その子は、お姉さんを突き飛ばして、それから逃がす。
突き飛ばされたお姉さんは、最悪を脱し免れるが、その勢いを殺しきれず、また場所が悪かったせいか、椅子の足の間にちょうど頭がスッポンと入ったのだった。
しかも、ズザ――ッとおっぱいが床上に擦れたのだった……。

「キャアアアアア!!!」
初めに上がるは、少女アユミちゃんの悲鳴。
そのアユミちゃんの目の前で、気にかけていた少年が刺された。
それは、大変ショッキングな出来事。
刺された少年は床上に倒れる。
刺した本人も信じられないものを見て、心に動揺が走り、顔にそれが生じていた。その顔が、罅割れていく。
「スバルくぅぅぅん!!!」
その手を、倒れた少年に向ける少女(アユミちゃん)。
刺された部位から赤い鮮血が滲んできて、その着衣の箇所を赤く染め上げる。
「……ッ」
あまりの事態に動揺し、狼狽するパパのダイアン。
そんな時、別のお父さん恵ミノルさんの拳が飛んできた。
バァン
殴られた勢いで、ダイアンさんはぶっ倒れる。
気勢いっぱい叫ぶ、恵ミノルさん。
「あんたそれでも父親かぁあああああ!!!?」
「――!?」
別のお父さんに殴られたことで、正気に戻るダイアンさん。
その胸倉を掴みかかる恵ミノルさん。
その拳を振り上げて、殴りかかる――

――その横で。
「――大丈夫スバル君!?」
スバル君に駆け寄るは、恵アヤネさん。
「い、痛~~~~ぅ!!」
呻吟の顔を浮かべるスバルは、無意識の内にその怪我した部位に触れる。
触ったのは、深々と突き刺さったフォークだ。
これをみた恵アヤネさんは。
「抜いちゃダメよスバル君!!!」
「!?」
「病院につくまで、何かで固定しないと……!!」

――その横で。
大人たちの取っ組み合いが行われていた。
ダイアンさんと恵ミノルさんの殴り合いだった。
胸倉を掴んで、髪の毛を掴んで。
拳で殴り、足で蹴り飛ばし。
蹴り飛ばされた先で、恵ミノルさんが「痛てっよくもやったな!!」と叫び、起き上がったダイアンさんが「あーっやるか――!!」と喧嘩を買う。
そこから2人は、喧嘩の取っ組み合いを始めるのだった。

――これを見ていたのは3女と4女、ルビーアラさんの子供達はビクッと驚く。
まさかこんな事態になるだなんて、誰が想像できただろうか。
「おじいちゃん恐い!!」
「何であんな事になってんの!?」
「「ッ」」
「止めましょう」
「ええ、もうこんな事になるだなんてッッ!!」
完全に想定外の出来事。
予想外の出来事に頭がついていけないッ。
でも、関係者類として、ここは関わらないといけない。
仲裁に入れるのは、少なくとも娘のあたし達だけだから。
「あんた達はここにいて!! 危ないから!!」
「いいっ!? ここにいるのよ!!」
子供達を置いて、駆け出していく3女と4女。

――スバル君の傷の具合が気になって、診に着てくれる恵アヤネさん。
「あーもうっ、こんな時どうしたら……!! 医者、医者……ハッ、クリスティさん!!」
「!」
「「………………」」
アヤネさんとスバル君が振り向いた先には、
ちょうど椅子の足に間に、首が納まった感じのクリスティさんのおマヌケな姿があった……。
そんな2人が目にしているのは、そんなおマヌケな姿を晒す、クリスティさんの見事なまでのプリンとした巨尻だったそうな……。
「……」
「……」
これには2人とも何も言えなくなるかと思いきや……。
「良く奇麗にハマったものね……」
「……」
これには僕も、口角がピクピクとしていて、やらかしたのは僕である為、何も言えない……ッ。
「だ、出して~~!!」
椅子の下からおマヌケな声を上げるクリスティさん。
何とか抜け出そうともがいてみるが、どうにもできず、腰を動かしているためか、お尻がぷりぷりしていた。
「巨尻かよ……ハァ……」
もう嘆くしかない恵アヤネさん。

お父さん同士の喧嘩の取っ組み合いを、止めにかかる3女と4女。
「Dad(ダダ)やめて!!」
「Father(ファザー)、子供達が見てるのよ!!」
「!!」
娘2人がかりで、ダイアンさんを止めにかかる。
「!」
これには恵ミノルさんも、このまま娘さん達の見ている前で、取っ組み合いの喧嘩を続けるのはよろしくないと思い、構えていた拳を、やや心持ち加減下げる。
やや心持ち加減なのは、何が起こるかわからない以上、反撃に備えて、いつでも戦えるよう、すぐに移れるようしておく。
「……」
それを見ていたのは、Lだった。……Lは何を思う。

――クリスティさんの巨尻をみているスバル君と恵アヤネさんは。
「こ、これってもしかして……」
「胸の膨らみが邪魔して、ちょうどいい具合に挟まってる……?」
「おっぱいって、そうなの……!?」
「形が変幻自在だから、女の子としては敏感なのよ……。しかもあのボリューミーでしょ。感じやすい子だから、抜け出せないでいる……」
ゴツン
「……あっ、頭をぶつけた!」
僕たちが見ている前で、クリスティさんは後頭部を打ちつけてしまった。
「痛~い!!」
と声が上がり。
これを見ていた僕達あたし達は。
「……」
「……」
顔がピクピクとするのだった……。なんともおまぬけな絵面である。

――とこれを見ていたアンドロメダ王女様が嘆息して。
「あれでは女の細腕では出れぬじゃろ……。
致し方ない、レグルス。
あのテーブルから退かしてやれ。
開いた空間ができれば、椅子ごと引っ張り出せれるじゃろ」
「ったくなんで俺が……ッ」
アンドロメダ王女様からの指示が飛び。
渋々レグルスが助けに行く。
そのテーブルを持って、ひょいと軽く持ち上げる。
「おい、上がったぞ! さっさと出ろ!」
「~~! ~~!」
お尻を振って、出れないことをアピールするクリスティさん。
「おい、まさかこいつ……」
「~~! ~~!」
「俺の声が聞こえないのか!?」

【――実はそれだけではない】
【アンドロメダ星の重力が重く、それはズ~~ン……と頭を抑えている椅子と自身の体重に重くのしかかっている状態なのだ】
【女の細腕では、自分の身を起こすのがせいぜいだ】
【アメリカ人女性の平均身長と体重は、163.2㎝と70.7㎏ぐらいと言われている】
【その中でもクリスティさんは、モデル体型ばりに高身長かつ超乳も併せ持っているので、体重はそれ以上】
【どんなに少なく見積もっても、この重力下における体重は、約212.1㎏以上】
【女の細腕では、容易に立ち上がることは困難を極める】
【また、体勢も悪いため、力が入り辛い事も考えられる】

――さらに言わせてもらえれば、クリスティさんに取っては、レグルスの姿が見えず、また声も聞こえもしないので、
そのままここから抜け出そうともがいていた。
有り体にいえば、おマヌケな様を晒し続ける。
「そう言えば、地球人は俺達の声が聞こえなかったな……ハァ……」
これには自虐的に嘆息してしまう、レグルスさん……。もう、何なんだかなぁ……
「こっから出して~~!! 重い~~!!」
もがき苦しむクリスティさん。
抜け出そうと頑張ってみるが、
ちょうど、大き過ぎるおっぱいが邪魔して、頭の後頭部が椅子の下につっかえてしまい出られない……。ゴンッ、ゴンッとぶつけてみるが。
「痛ぁ~~!! ここどこよぉ!?」
「はぁ~……椅子の下だよ……」
クリスティさんの問いかけに、答えるレグルスさんの構図。なんだかなぁ……。

――椅子の下に頭から挟まり、ここから出ようともがくクリスティさん。そのぷりぷりの巨尻がふるわれる。
それを見ていたルビーアラ(あたし)が。
「……それで誘惑してるつもり!? 頭きたッ!!」
あたしはそこら辺にあった飲みかけのコップを掴み取り、あのお尻に向かって、力いっぱいブン投げる。
「あ」
と声が上がる中。
パリィン
「ギャ!!」
それは、目標の巨尻の上で割れた。
コップの破片が辺りに散乱し、飲みかけの飲み物が、着衣を汚す。
しかも、割れたコップの破片が着衣に刺さり、大部分の液体が足元に広がる。
これを見兼ねて、ついにLが。
「あの2人は反省だね」
そう、呟きを落とした。
「相応しくないよ、この場には」
サイコエナジーを解き放つL、その手を挙げて。
「『テレポート』(チルエメテフォート)!」
「――!」
「――!」
ルビーアラさんが、
続いて2人の娘たちの目の前でダイアンさんが、その姿を消した。
これにはあたし達も。
「え!?」
「そんな!?」
「な……っ!? 人が……消えた……!?」
4女が、3女が、恵ミノルさんが驚く。
何と自分達が見ている前で、人が消えたからだ。
とこれを見ていた、ルビーアラの子供達も騒ぎ出してしまう。
「ま、ママは……!?」
「ママが、おじいちゃんが消えちゃった――っ!!! うわぁあああああん!!!」
まだ幼い子供は大泣きするのだった。
その心に襲うは、ママを失ったかもしれないという大き過ぎる心の不安だった。

――僕は、その一部始終を見ていた。
「L!」
「僕が反省させるよ」
フッ……
とL自身も、反省を促すためにその場からいなくなるのだった。
とこの様子を見ていたアンドロメダ王女様が。
「フッ……任せよう」
と一任し。
とこれを見かねてデネボラさんが。
「はぁ、もう手間のかかる!! こうも色々と……!!」
(よく起こるものだわ……!!)
もう頭を悩ませるばかりだわ。
でも、こうなってしまった以上、とやかく言うても仕方がない。
現場を納めていかないと。
「シャルロットさん、お願いします!」
「ハァ~~」
思い切りため息をつきながら、シャルロットさんが助けに向かうのだった。
「何でホントにこうなるのよッッ!?」
バタバタ
クリスティさんの横に立つシャルロットさん。
助けに来てくれたと思い、足をバタつかせて報せるクリスティさん。
「早く助けて~~!!」
「ハァ……待っててください、今助けますから」
そうして、あたしは、シャルロットさんとレグルスさんの助けを借りて、救助されたのだった。
「ママ~~!!!」
「え~~ん!!!」
突然いなくなったママを恋しがる幼い子供達。エ~ンエ~ンと泣き叫ぶ。
現場は色々と錯綜していた。

――で、クリスティさんが僕の近くにきて。
「……状態を見せてくれる?」
と話しかけてきた。
もちろん、彼女の手を借りる。だって彼女は女医なのだから。
僕は、お姉さんの女医として力を借りつつ、この場で応急処置を受けるのだった。


☆彡
おまけ
ビュオオオオオ
【夜の砂漠】
「ここどこよ……」
「見渡す限り、白い砂と赤い砂が混じっているな……」
顔を上げると、奇麗な星空がどこまでも広がっていた。
「少し冷えるな……いや、むしろ寒い……!?」
「い、今何度くらい!?」
ブルブル
と震え上がる2人。砂漠の夜は極端に冷え込むのだった。
それを宙に浮遊しながら伺うのはLだった。
「クスクス」
これから2人は、見知らぬ夜の砂漠を彷徨い、反省させられるのだった――……


TO BE CONTINUD……

しおり