【四十一】誕生日
今日は僕の誕生日だ。
テレビの星占いを見ていたら、こちらも一位で気分がいい。
別段占いを信じるわけではないけれど、ちょっとだけ前向きになれる。
ラッキーカラーは青で、ラッキーアイテムはハンドタオルと書いてあった。だから僕は、青いハンドタオルをポケットに入れようと考える。
こうして僕が微笑していると、リビングのソファで一緒にテレビを見ていた山縣が、チラリとこちらを見た。その瞳は気だるげだ。
「機嫌がよさそうだな」
「え? ああ……うん、ちょっとね」
「ちょっと? 具体的に言えといつも言ってるだろ」
「ん……今日、誕生日なんだよ。十七歳になったんだ」
「――ああ。そうらしいな」
「え?」
「助手のプロフィールくらい、俺は記憶している」
さらりと『助手』と言われ、僕は嬉しくなった。
その言葉が、僕にとっては最高の誕生日プレゼントに思えた。だから満面の笑みを浮かべて、顔をデレデレにしていると、山縣が僕を見て怪訝そうな顔をした。
慌てて表情を引き締める。
しかし嬉しすぎて、僕はまたすぐに笑ってしまった。心が幸福感で満ちている。
「ねぇ、山縣は、誕生日はいつなの?」
「もう終わった。七月の終わりだ」
「えっ、言ってくれればよかったのに」
「誕生日なんて俺は気にした事がねぇよ」
「……来年は、お祝いするから」
「いらん」
山縣はそうきっぱりと述べてから、僕をじっと見て――そのまま軽く突き飛ばした。僕は倒れこんだソファの上で、山縣を見上げる。すると山縣が僕の後頭部に手を回し、僕の頭を持ち上げた。何事だろうかと、僕は目を見開く。
「! 痛っ」
すると直後ポケットから取り出したピアッサーで、いきなり山縣が、僕の右耳を貫いた。
鈍い痛みは熱に似ていたが、すぐにそれは終わった。
「えっ、うあ!」
続いて左耳だ。やはり痛みと熱が一瞬だけ、僕の身を襲った。
思わず僕が震えていると、山縣がニヤリと笑う。
「安心しろ。このピアッサーは特注品だから、膿んだりはしない。それに、好きなピアスを最初から付けられるんだよ」
「な、なんで……? なんで、いきなりピアス?」
「さぁな」
山縣は面白そうな顔をして、僕を見て笑っているだけだった。僕は耳に触れ、血なども出ていないことに安堵する。その後鏡を見に行くと、中々洒落たピアスが、僕の両耳に鎮座していた。小ぶりだが、趣味がいい。だけど、意味が分からなかった。山縣は、どうして僕の耳に、いきなりピアスを突き立てたのだろうか。