回想
まずは、俺の身の上話からしようか。
今から10年前、俺はしがない村人だった。
医者の助手として生計を立てていたが、十代前半とまだ若く、見習い扱いだった。
師匠について薬草のことを学んでいたが、師匠は変わった人だった。
「俺はすべての薬草を知っている」と豪語して、いつも薬草のことを語っていた。
この辺りでは見かけない薬草ばかりで、どうせ作り話だと思っていた俺は、また始まったよ…と師匠の話はいつも聞き流していた。
それがわかっていた師匠はある日、俺に一冊の本を渡した。
「師匠、これは?」
本を開き、パラパラと目を通してみる。
「やるよ、お前に」
「え?」
思わず手を止め、顔を上げる。
この村には師匠の家に行かないと本がない。つまり、この村では貴重なものなのだ。
そんなものを俺にくれるという。
「でも、こんな貴重なもの・・・」
「いいんだ。俺の頭にはもうすべて入っているからな」
ふふんと自慢げな顔をしながら、俺の頭にぽんと手を置いた。
「お前は…世界を見た方がいい」
「世界を?」
「ああ、いずれその時が来る」
ふふっと笑う師匠の顔が一瞬寂しげに見えたのは、俺の見間違いだったのだろうか。
「あれもやろう。いや、これもお前にやろう!なぜなら俺は知らぬことのない男だからだ!はっはっは!」
すぐにいつもの調子の師匠に戻ったので、俺が見たのは幻だったのか、その答えは今もわからずじまいだ。