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第十五話 【帝国】増援部隊


「陛下。派遣部隊から、増援要請が来たのですか?」

「宰相が持ってきた」

 執務室で、我が増援の書類を見ていると、7番隊の隊長がやってきた。7番隊の隊長は、今回の増援には加わらない。加えてはならない。呼び出したのは、7番隊と5番隊だ。宰相が、すでに両部隊の隊長を呼び出していたので、訂正が間に合わなかった。

 7番隊は、増援には反対するだろう。そして、増援しなければならないのなら、情報を集めて撤退を進めてくるのだろう。
 5番隊は、この度の魔王討伐から外れた。小国への遠征を行っていたためだ。しかし、彼らは小国での作戦を成功させて帰ってきた。返る途上で、魔王討伐の話を聞いて、割り込みをかけたのだろう。

 宰相も解っていて、5番隊と7番隊と呼んだのだろう。結論が出ている話なのに、隊長たちに話をしなければならないのは、面倒なことだ。

「陛下。増援は?」

「待て、5番隊を呼んでいる」

 7番隊の隊長は、わかりやすく”イヤ”な表情をする。
 お互いの主張が平行線になるのだ。気分も悪いだろう。特に、7番隊は少しだけ他の部隊と違っている。隊長の人柄なのか、隊員の気質なのかわからないが、全員が王家に絶対の忠誠を誓っている。

 他の部隊が、帝国に忠誠を誓っていないとは・・・。思わないが、7番隊は、7番隊だけが最後まで我たちを守ろうとするだろう。他の・・・。特に、5番隊と15番隊は己の欲望を優先する。同じ”己の欲望を優先する”内容だが、7番隊は王家の安全を最優先に考慮するのだ。

「陛下。お呼びと伺いました」

「っち」

 7番隊の隊長が、先程よりもわかりやすく、不機嫌な表情を、扉から入ってきた者に向ける。

 5番隊は、15番隊と同じで、奴隷を組み込んだ戦略を好んで使う。それもあって、7番隊との相性は最悪だ。7番隊が、王家に絶対の忠誠を誓っているのにたいして、5番隊の奴らは、表面上は王家に従っているが、金と欲で動くのは解っている。

 宰相から来ているもう一通の報告書を思い出す。

 7番の目からの報告とある。
”この魔王は異常”

 異常なのは、ギルドからの動きでも判明している。
 すでに、ギルドは撤退の準備を始めた。ギルドの本部から、帝都のギルド長が犯した罪で更迭されたと連絡が入っている。本当の理由は、現存する魔王の数に関しての”ミス”なのだろう。確かに、ギルドの暗部が動く必要がある案件だ。

「来たか。両者、座れ」

「はっ」「はっ」

 笑いそうになるのを抑えるのに必死になる。
 7番隊の隊長は気がついているのだろうが、5番隊の隊長は気がついていない。反目している両者が呼び出されたのだ、何かあると思うのが当然の心理で情報収集をしてきた者としてこなかった者の違いだろう。

 不穏な空気には、7番隊も気がついているのだろう。

「7番隊。ティモン。御前に」

「5番隊。隊長。ヨスト。御前に」

 座った二人の前に、同じ内容が書かれた報告書が置かれている。

「読め」

「「はっ」」

 7番隊は、すでに知っているのだろう。眉を動かさない。5番隊は、苦戦を知っているのだろうが、内容までは伝わっていないようだ。

「どう思う?」

「陛下。発言の許可を」

「構わぬ。ここには、余と貴様たちしかおらぬ。いちいち許可を求めなくとも良い」

「はっ。陛下。15番隊が、苦戦しているのならば、我ら7番隊が出て、魔王城を調査して、情報を持ち帰ります。その後、殿下に攻略をお命じになるのがよろしいかと愚考します」

「そんな胡乱な作戦は無意味。我ら5番隊なら、15番隊に援軍として赴いて、魔王城を落としてご覧に入れます」

「ヨスト殿。いささか、それは難しいかと思われます」

「ティモン。貴様は、我らが手柄を立てるのが悔しいのだろう。黙って見ておれ、貴様たちが言っている情報など、5番隊の力の前には無意味だ」

「報告書を読んだのですか?新しく産まれた魔王城は、15番隊が持ち出したカタパルトでも、門に傷が入らなかったのですよ?」

「15番隊が持っているカタパルトは、5番隊が使っている物と違う。我らが使っている新型なら、簡単に打ち破れる」

「ほぉ面白いことを言いますね。ヨスト殿が、何故、15番隊のカタパルトが新型でないと言い切るのか?そして、15番隊が使っているのが”新型”ですか?なぜなのか、教えていただけますか?」

「なっ。貴様。今は、そのような些事を議論しているときではない」

「いやいや。貴殿たち5番隊は、殿下が、魔王討伐部隊として赴くことが決定した時にも、派遣部隊の編成をしている時にも、帝都にはいらっしゃらなかった。それに、15番隊がカタパルトを使う戦術を使うとは、私は記憶にない。貴殿は、どこでそのことを知ったのですか?」

 ティモンも、気になっているのだろう。
 5番隊は目を持っていない。力だけだ。それが、情報を掴んでいるのなら、どこから得たのか確認をしたいのだろう。

 それに、”新型”という言葉は・・・。15番隊が持っているのは、確かに型落ちだ。5番隊が新型と言い切る理由が気になる。

「ティモン。ヨストにも、独自の目くらいは有るだろう。ヨストも、ティモンが情報を大切にしているのは知っているであろう。些事とは言うな」

「はっ」

 ヨストは、返事をしたが、ティモンは黙礼をしただけに止めた。

「ヨストよ。貴様は、魔王城を落とせると言ったが、可能なのか?15番隊が苦戦をしているのだぞ?持っていった食料は10日分だが、すでに8日が経過しても、第3の門の突破が出来ていない」

 実際には、輜重兵が持っていた食料や物資を強奪しているから、継続戦闘は15日程度には伸びているが、それでも半分を消費したことになる。

「それは・・・。可能です。我らなら、門を破壊して、中に入ります」

 やはり、言い淀んだ。その上で破壊すると言い切った。ティモンは、すでに諦めの表情だ。5番隊と15番隊は、惜しいが、現状では落とし所が難しい。

 宰相の腹案が良いのだろう。
 このままでは、帝国の屋台骨が歪んでしまう。我が息子ながら、愚かなことをしでかしたものだ。

「陛下」

「ティモンよ。何だ?」

「はい。陛下。輜重兵が、森の入り口で陣を張っております。そこまで、我らの部隊が、物資を運びます。5番隊には、その物資を持って、15番隊の増援に向かわせるのがよろしいと思います」

 ヨストも、宰相の案を押すのだな。

「ふむ・・・。ヨスト。ティモンは、このように言っているが、貴様の考えは?」

「はっ。ティモン殿の策がよろしいと思います。付け加えるのなら、我ら5番隊が森に入った時点で、7番隊は撤退していただきたい。森からの攻撃はないと考えますが、魔王城の攻略の最中に、7番隊を守る余裕は、我が隊にあるか不明です」

「ティモン。どうだ?」

 ティモンは、呆れた表情のまま、黙礼をするだけに止めた。ヨストが何を狙っているのか、解ったのだろう。

 手を叩いて、書記官を呼び寄せる。

「書記官。ヨストが発案した作戦を伝える」

 ティモン発案だが、7番隊には無傷で居てもらわないと困る。ティモンも我の考えが解るのだろう。黙っている。ヨストは、嬉しそうな表情で獲得してもいない獲物の分配を考えているのだろう。
 書記官に書かせた作戦を”是”として、発布した。

 明日には、ティモンたちが、森の外にある陣まで食料や物資を運ぶ。宰相の計算では、1ヶ月程度は継続戦闘が出来る量だ。。

 武器や防具は、5番隊が自らの物を利用する。食料は5番隊が準備できないので、、王家が確保している食料を放出する。貴族たちに文句を言わせないためだ。

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 執務室で窓から帝都を眺めている男に、後ろから一人の人物が声をかける。
 男は、振り向きもせずに、声の主に返事をする。

「陛下。よろしかったのですか?」

「すまない。皆の前で頭を下げるべきなのだが、立場が”それ”を許さない」

「私たちに、そこまで・・・。全ては、帝国の為です。民の為です」

「そうだな。貴様たちは、”帝国”の為に動いている」

「はっ」

「新しい、後継者を定めないとならぬな」

「恐れながら、まだ・・・」

「そうだな。まだ、”死”が公表できる状況ではないな」

「はい」

「絶望的な状況なのは間違いではないのだろう?」

「はい。我が目が状況を伝えてきました」

「行かねばならぬか?」

「陛下が自ら向かわなくても・・・」

「それは、難しいだろう。目が持ってきた物と同じ物が、ギルド経由でも来ている」

「・・・」

「また、お前たちに苦労をかける。すまない」

 後ろに居た人物が、深々と頭を下げてから、影に消えるように姿を消した。

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