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第十四話 魔王(ルブラン)降臨


「マイマスター」

「セバス。そうだな。子供たちの前なら良いかもしれないが、セバス。これから、俺の身代わりを行う時には、”ルブラン”を名乗れ」

「はっルブランが名で、真命をセバスと心に刻みました。マイマスター」

「子供たちには、パンと果物と水を送る。それから、寝ている間に、部屋を作ろうと思うが、地上部には草木を植えたから、地下に作る」

「はっ」

「地下で、通路を隣に作ってある、執事やメイドの部屋に繋げる。扉には、罠を設置した。こちら側の者しか通られない」

「それは?」

「今は、俺とルブランだけだな。そうだな。せっかく作ったから、魔王城(仮称)の最上階に、子どもたちを招待しよう。玉座のようになっている。子どもたちは、転移の罠で送ろう。代表だけでいいだろう。話しを聞いてやれ」

「かしこまりました。マイマスター。行ってまいります」

「頼む」

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 私を呼び出したマスターは変わり者だ。
 子供を確保しただけではなく、食料を与えて、守ろうとしている。地下に施設を増やしたのも、檻の状態では、外から攻撃を受けてしまうからだろう。攻めてきた人族なぞ、私に”殲滅せよ”とお命じ頂ければ、簡単に殲滅してくる。それだけの力もスキルも持っている。

 私は、魔人という種族だ。過去の記憶は、ぼんやりしていて、はっきりしないが、マスターが大事で、命をかけて守る存在だと認識できる。セバスという真命とルブランという名を頂いた。真命だけでの活動でも、私を支配できる者は、マイマスターだけだと思うが、ルブランという”名”があれば、名乗りが上げられる。そこまで、考えてくれている。

 マスターは、”子供を助ける”と明言された。私は、マスターのご命令を実行して、”子供たちを守る”。

 どうやら、子どもたちは、成人の儀を受けていないようだ。
 真命は持っているようだが、呼び名が設定されていない。真命での奴隷契約でないので、闇スキルで簡単に解除できる。マスターの怒りは、子供を奴隷にして使っている部分に集約されている。
 子どもたちの奴隷を解除するのではなく、術者に返るように、解呪を試みよう。相手の術者の実力が解る。それだけではなく、マスターから与えられた、能力(身体)の確認が出来る。

 子どもたちの代表が、マスターの増設した部屋に入ってきたようだ。
 まだ、地下一階部分の探索を行っている。あそこは、浴場になっているはずだ。マスターが考えた罠は面白い。殺すための罠ではなく、生活を豊かにする罠を作った。

 そろそろ、子どもたちが地下二階に到着するようですね。
 マスターの設定通りに、魔王城(仮称)にて、子どもたちを待つことにしましょう。

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「本当に、温かい水があるだけの部屋?」

「猫人の族長。貴女は、”お風呂”を知っているの?」

「温かい水で身体を洗う場所だって教わった」

「そう・・・」

 不思議な部屋だ。
 それだけではなく、座って・・・。あれは、鏡?村長だった私の家にもなかった。一度だけ、行商人が持ってきた”鏡”を見たことがあるけど、壁に掛かっている鏡の半分の半分の半分の半分くらいの大きさで、金貨3枚もした。

「きゃ!」

「どうした?大丈夫?」

 猫人の族長が、鏡の前にあった物に触れた。水が出てきたようだ。

「大丈夫。少しだけびっくりした。温かい水が出てくるとは思わなかった。ごめん」

「ううん。いいよ。でも、魔王様の部屋を汚すと殺されるかもしれないから、戻りましょう」

「うん。そうしよう。一つ前の部屋も調べないとね」

「そうね」

 この部屋の前も、変わった部屋だ。
 壁には、棚が沢山あって、中にカゴが置いてあった。反対側には、また綺麗なタオルが置いてあった。棚には、扉があった。数字が書いてあるけど、なんの意味があるのかわからない。

 わからないことだらけだけど、人族の族長なら、孤児院で教えてもらっているかもしれない。
 私は知らないけど、他の種族なら知っている可能性もある。食事が終わったら、全員で来たほうが、いいかもしれない。

「ねぇ狐人の族長?」

「え?なに?」

「あれって何?」

 猫人の族長が指差した場所には、”本”のような物が置いてある。
 どうやら、”お風呂”の使い方が説明されている。

「これは、”お風呂”の使い方の説明みたい・・・。でも、読めない所があるから、人族の族長に読んでもらおう」

「うん!」

 ”本”の表紙には、”説明書”と書かれていた。あと、”注意事項”とも書かれていたから、魔王様からの忠告が書かれているのだろう。皆でしっかりと読まないとダメだ。

 部屋から出ると、人族の族長と狼人の族長が、私たちが戻ってくるのを待っていた。同じように、”お風呂”の”説明書”を持っていた。

 人族の族長と、”お風呂の説明書”の読み合わせを行った。
 結果、魔王様は私たちに”お風呂”を使ってよいと言っている。男女で分けたのは、人族の族長が知っていて、”お風呂”は裸で入るから、男女で分けられているのだと教えてくれた。温かい水は”お湯”と書かれていて、湧き続ける泉のような物で、自由に使って良い。
 一度、他の族長たちと”お風呂”を使ってみることで一致した。

 地下二階に降りてみる。地下二階の床に紙が置かれていた。
 拾い上げて、人族の族長に渡す。人族の族長が読み上げてくれる。

「この階は”部屋”になっている。10の大きな部屋があり、大きな部屋の中に、個室と二人部屋と四人部屋がある。自由に使ってくれ、部屋にはトイレと”キッチン”を付けている。”共有部”にも、テーブルと椅子を用意した」

 どうやら、部屋があるようだ。

「それから・・・。『綺麗に使え。魔王からの施しだ。使うに当たって、代表者は、正面の扉に入れ、全員が部屋に入ったら、扉を閉めろ』と、書かれている」

 まずは、大きな部屋と部屋の中の部屋を見る。
 皆が、驚いている。

 すごく綺麗な部屋だ。ここを自由に使っていいとは?魔王様は、私たちに何を望んでいらっしゃるの?

 部屋割は、族長で話し合って決めることになった。

「どうする?」

 狼人の族長がいきなり、言い出す。

「なにを?」

「人族の族長が読んでくれた、さっきの文章に、”代表者は”という所だ」

「僕は、行った方がいいと思う。代表者は、族長で行くべきだと思う」

 私も、人族の族長に賛成だ。
 魔王様が待っているのかわからないけど、族長で挨拶に向かうべきだ。そこで、殺されても、妹が無事なら、それに、”お風呂”や部屋を用意してくれて、私たちを呼んでいるのだ。向かわないと、失礼だと思う。

 私の意見が採用されて、一度、皆の所に戻って、族長たちで話し合った。全員が賛成では無かったが、話し合った結果は、族長の全員で向かうことになった。少数の種族の族長は、残ることになった。私が代理ということになる。その代わりに、私たちが戻らなかった時には、残った族長が皆を守るようにお願いした。

 全員が部屋に入った。扉を閉めたら、床が光った。

 眩しくて目を瞑ってしまった。
 次に目を開けた時には、広い部屋に来ていた。

「よく来た。子らよ。余が、この場所の主である。ルブランである」

 主?魔王様?

 話し合いで、決めていた。私と人族の族長が、代表して話をする。

「ルブラン様」

「よい。貴殿たちが、余に逆らい、余を討伐しようとしなければ、余は貴殿たちの命は保証しよう」

「え?」

 いきなり、私たちが欲しかった言葉が貰えた。
 ルブラン様を倒す?逆らう?食事を提供してくれて、温かい毛布と安全に寝られる場所を提供してくれた恩人に逆らう?
 人族の族長だけではなく、この場に居る族長の全員が私と同じ意見のようだ。

「ルブラン様。ご質問をする許可をいただけますか?」

 ルブラン様をまっすぐに見て言葉を発する。
 喉が渇いてくる。緊張で、足が震えてしまう。でも、私が頑張らないと、妹が、皆が、私たちは、ただ生きたいだけ・・・。安心して寝られる場所が、安心して飲める水を、食べる物が・・・。そのためなら、私たちは・・・。

「構わぬ。ここには、余と貴殿たちしかいない。言葉遣いも気にしなくてよい。何を聞きたい?」

 優しげな表情のままルブラン様は、私をまっすぐに見てくれる。

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