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11 Caseアーリア⑪

「キャトル、状況を説明してくれ」

「うん。もうホント地獄絵図だったよ。皇太子がバッサバッサ手あたり次第に殺しちゃうから王宮中血の海よ。王も皇后も我が子に殺されたわ。しかも嬲り殺しって感じで。大臣の中で生き残っているのは、昨日登城してなかった外務大臣と大蔵大臣だけ」

「皇太子は?」

「なんだか掃除が大変そうだったから、眠らせてきた」

 サンクが不思議そうな顔で聞いた。

「あれ?生かしとくの?」

 オーエンが苦笑いをしながら言う。

「乱心虐殺の犯人は公開処刑さ」
 
 聖女と2人の神官が使う白い馬車に乗り込んだ。
 馭者はサシュで護衛はサンクとオーエンだ。
 王宮の正門は固く閉ざされ、怯え切った顔で立っていた。
 サシュが馬上から声を掛ける。

「エヴァンス王弟より差配された聖女様と神官様が到着された。開門せよ」

 門番はサシュの制服を見てすぐに門を開いた。

「中の状況は聞いているか?」

「いえ、交代が来ないので離れられず」

「そうか。ご苦労だがもう少しこのまま頼む」

「わかりました」

 悠々と馬車が王城に向って進んでいった。
 馬車の中でキャトルがゼロに顔を向けた。

「王弟って?」

「サンクのデマカセだ」

 キャトルが鼻で笑った。
 
「さあ、始めよう」

 ゼロの言葉にアンとキャトルが頷いた。
 先頭は皇太子付き護衛騎士のサンク、しんがりは神殿騎士のオーエンが務める。
 サンクの後ろにゼロが立ち、聖女キャトルの手をとって神官アンが続いた。
 サシュは馬車を走り出しやすい位置に移動した。

 まず王の執務室に向かう。
 廊下には立っているものは誰もおらず、床に転がっているのは瀕死の者か死体だけ。
 それらには目もくれず、執務室のドアを開くサンク。

 王は背中をメッタ刺しにされて絶命。
 皇后は、目をつぶされ頬骨も陥没骨折しているが、それ以外の目立った外傷は無く、失血により絶命。
 皇太子の愛人ララーナは首だけの状態になって転がっている。

 宰相たち要人は串刺しされたのか、折り重なるようにドアの横で死んでいる。
 服装から宮廷医師と思われる肉片が、部屋の中央に散らばっている。
 オーエンはそっと窓を開けた。

 執務室を出た一行は、大広間に向かってゆっくりと歩いた。
 各部屋はサンクとオーエンがドアを開けて確認しているが、生存者は今のところ皆無。
 
「た……助けて……くれ……」

 胸から腹にかけて袈裟懸けにバッサリ切られている虫の息の騎士が手を伸ばしてきた。
 キャトルがアンに聞いた。

「こいつは?」

「ボロボロの彼女を見て笑っていたクズよ」

 キャトルは聖女の姿のままその騎士の前に進んだ。

「助けを求めるか?」

「はい……聖女……さま……助けて……くだ……」

「アーリアがそう言ったとき、お前は助けたか?」

 ビクッと肩を揺らした騎士に小声でそう言うと、騎士の傷に何かを振りかけた。

「聖水です。楽になりますよ」

 一瞬だけ騎士の体が痙攣するような動きを見せたが、それきり動かなくなった。
 
「神のご意志です」

 そう言うとキャトルは立ち上がり列に戻った。

「何をした?」

 声には出さずアンが聞く。

「トウゴマ水」

「そりゃ即死だわ。シスが作ったの?」

「そうよ」

 二人はクスっと笑った。
 一行は大広間のドアを開けて、静々と厳かに進んでいく。
 
「聖女様……」

「神官様が来てくださった……」

 部屋のあちこちから呟くような安堵の声が聞こえてくる。
 ゼロは素早く周囲を確認して、聖女を振り返りながら大声で言った。

「エヴァンス王弟よりの依頼により聖女様が御動座くださった。今から病魔を祓う祈りを捧げて下さる! 全員跪き頭を下げよ!」

 全員がゼロの言葉に従った。

「神は全てを見ておられます! この城は邪気に満ちている! 病魔が巣食い命を奪おうとしている! 邪念に囚われ心を悪魔に奪われた者がいる!」

 ここまで一気に言うと、キャトルは手に握っているカンペを見た。
 アンがシラケた目でそれを見ている。

「その者の命を捧げて神に祈れ! 悪魔に奪われたその魂を救うためには、神の御許に送る以外手は無い! その魂がこの国にある限り、この国は衰退し、やがて滅びる」

 キャトルがチラッとゼロを見る。
 ゼロが無表情のまま顎をしゃくり、先を促した。

「祈りなさい! ここに居る善人には聖水を授けましょう。過去の過ちを正し、自らのおこないを律しなさい! そうするものだけが聖水により病魔を追い払うことができるのです」

 ゼロとアンが水差しに手を入れ、パラパラと雨のように水を振りかけて歩く。

「我先にと動いた者は邪念に囚われし者。死をもって償うことになる」

 ゼロの低い声に会場中に緊張が走る。
 誰一人動かず、静かに聖水の雫が己にかかるのをひたすら待った。
 水差しがカラになると、聖女が再び声を出した。

「この場で静かに待ちなさい。我らが去った後、一番最初にあの扉を開けた者がこの国を正しく導く者です。その者の導きに従えば自ずと道は開かれるでしょう」

 一行は静まり返った大広間を後にした。
 ゆっくりと馬車に向かい隠れ家へと帰る。
 湯あみを済ませて食卓を囲んだ。

「ご苦労さん。アーリア姫も無事に依頼人に渡ったよ。あとはあの男次第だな」

「皇太子ってどうしたの?」

 アンが聞いた。
 サシュが茹でた大きなフランクフルトをパンで挟んで齧り付いた。
 数回咀嚼をしてから話し始める。 

「王宮前広場に晒したよ。サンクの媚薬が残ってて、奴の小倅がびんびん元気だったから、切り取って持ち主の口に突っ込んできた」

 数秒全員が黙ったあと、キャトルが嫌そうな顔で言った。

「サシュ、あんた……それ食べながら、よく平気で言えたわね」

「ん? なぜ?」

「なぜと聞くあんたが怖いわ」

 サシュだけが不思議そうな顔をしている。
 アンが取ろうとしていたフランクフルトを皿に戻す。

「ねえ、あの部屋に誰が一番最初に入るんだろうね。俺は外務大臣だな」

 サンクが無理やり話題を変えた。

「私は生き残った騎士の誰かだと思うわ」

 キャトルとアンが続けた。

「私は大蔵大臣にするわ。賭ける?肩たたき券5枚綴り」

「「乗った!」」

 コーヒーを飲みながらゼロが口を開いた。

「3人ともハズレ」

「「「えっ?」」」

「馬車に乗る前に一声かけたんだ。すぐに大広間に向かえってね」

 アンが口を尖らせながら言った。

「誰に?」

「庭師の爺さん」

 全員が吹き出した。
 サンクが涙を拭きながら言う。

「そりゃ花や緑に囲まれた長閑な国になるかもね~」

 食事を終えた一行は、市場に立ち寄り、土産に焼き菓子を買ってZ国に戻った。
 依頼人ディックが教会に跪いた日から、ここまで一週間。
 

 Caseアリア      ミッションコンプリート
 
 総報酬金額      1,200,000,000ダラード(1ダラード=1円)

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