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第2章32話 最強の式神 『桜』の能力

各々、安倍晴明の式神を討伐した氷室ら。陸王と対峙している悠のもとへ向かうと、そこには血だらけで式神らしき4体の獣の攻撃を捌き続ける悠の姿があった。

 晴明:
 「なんと!謄蛇達はやられたのか。お前たちの評価を改める必要がありそうだ。あの男にも余の式神が2体もやられ、式神の中でも最強の【四神】の攻撃を1人で捌き続けるあの力。」

 氷室:
 「【四神】?」

【四神】とは、それぞれ東西南北を守護し、春夏秋冬を司る4体の獣。東の青龍・西の白虎・南の朱雀・北の玄武の4体。そのどれもが他の『十二天将』より強大な力を有しており、本気を出せば1体で国1つを崩壊できる程である。

 ソフィア:
 「そんな奴らの攻撃をたった一人で。」

 スターク:
 「ちょっと待て、俺たちがこの場を離れて戻ってくるまで約30分。その30分で悠は式神を2体も倒して【四神】の攻撃を捌き続けたのか?」

それに気づいた氷室たちは血の気が引いた。自分たちが式神1体に賭けた時間、悠は2体倒し、あまつさえ最強と呼ばれる式神の攻撃を捌いていたことに。
 
次の瞬間、捌ききれなかった白虎の突進攻撃が悠に命中して氷室たちの方に吹き飛ばされた。

 氷室:
 「悠大丈夫か?」

 悠:
 「あぁ、みんな勝ったんだな。流石だ。俺も頑張らないとな。」

悠はなんとか立ち上がったがすでに疲労とダメージでふらふらな状態であった。

 晴明:
 「恐ろしい子だ。式神を2体倒しさらに、4体の式神の攻撃を捌き続ける技量。立ち向っていく精神力。見たところ齢20にも満たってなく出来上がってないのその体に一体どれほどの責任や覚悟を背負っているのか。」

 悠:
 「だから何なんだ。」

 晴明:
 「?」

 悠:
 「守りたいもの守れるならいくらでも背負ってやる。みんなが笑って暮らせるなら日常に幸せを感じてくれるなら未熟だろうが出来上がってなかろうが死ぬまで戦ってやる。」

 晴明:
 「なら、今日が最後の日だ。守りたければ守ってみろ!」

安倍晴明の合図とともに【四神】の式神たちが悠に向かって天変地異とも呼べるほどの凄まじい攻撃を再開した。
朱雀は火を吐き、玄武は巨体で押しつぶし、青龍は尻尾で薙ぎ払い、白虎はかぎ爪で引き裂いた。

 悠:
 「言われなくともやってやるよ!」

 悠:
 『桜刃流双身術 流し桜』

再び悠はそんな【四神】の攻撃を自身の感覚器官をフルに発揮して捌き始めた。
攻撃を捌く悠の姿は普段の温厚な悠とは想像もつかないほどの鬼そのもののようであった。

その攻防を見て、氷室は思わず涙を流した。自分の不甲斐なさと悠の背負っているものを理解してあげられてなかった自分の情けなさに。

 スターク:
 「涼介・・。」

 氷室:
 「悪い。こんなことしてる場合じゃないよな。」

氷室が涙をぬぐい悠の方を見ると太刀筋がだんだん洗礼されていき、【四神】の攻撃を捌ききっていた。

 晴明:
 「まさか!人間一人に【四神】の攻撃が捌かれるなど。前代未聞だぞ。」

 晴明:
 「だが、お前も限界が近いはず。どこまで耐えきれるかな?」

 悠:
 「その必要はない。」

 晴明:
 「は?」

 悠:
 「もう捌く必要はない。」

 晴明:
 「まさか勝ったつもりか。驕るなよ小僧が!」

再び【四神】の式神たちは悠に向かって先ほどよりスピードも威力も増した攻撃を始めた。氷室たちも危険を察知したのか攻撃態勢に入り、応戦しようとした。が、

 悠:
 『桜刃流双身術 死桜(しざくら)』

そう言って悠が指を鳴らすと、【四神】の式神たちは切り刻まれたように血しぶきを上げ灰のように消滅していった。

その場にいた全員が急に起きた出来事に理解が追い付いてなかった。

 晴明:
 「なっ!何をした!」

 悠:
 「『双身刀 桜』こいつの能力は簡単に言ったらセンサーと見えない刃だ。」

 晴明:
 「は?センサーと見えない刃?」

 悠:
 「俺の武器は全部普通の武器にはない能力を持っている。『桜』の場合は俺を中心とした半径1mの範囲に見えないセンサーのようなものが張り巡らされて、そのおかげで俺は死角からの攻撃でもよけたり捌いたりできる。もちろんセンサーに反応するだけだからそこからの行動は俺自身の身体能力次第だけどな。」

 悠:
 「見えない刃はそのままの意味。桜の花びらの形をした刃が俺の周りを風に舞う花びらのように舞っている。だが、相手はこれに触れても切られたことはわからない。斬撃が襲うタイミングは俺の自由自在。その斬撃を発動させる技が『死桜』だ。」

安倍晴明は大声で笑った。

 晴明:
 「成程、お前が強い理由もあいつらがやられた理由もわかった。が、それでも余には勝てない。始めに言ったよな。式神には余の力も上乗せしていると。」

すると、安倍晴明の圧が先ほどまでの何倍にも膨れ上がった。
今にも押し潰されそうなプレッシャーを放ち、いくつもの死戦を潜り抜けてきた氷室たちですら一瞬自身の死を悟った。だたひとり、悠を除いて。

 晴明:
 「つまり、これからが余の全力。本当の戦いよ。」

 悠:
 「そうか。」

悠は『桜』を指輪に戻し、『夜行』を抜いた。

 悠:
 「スターク、2人を連れて少し離れたところにいていれ。」

 スターク:
 「まさか一人でやる気か?それは無茶だ。ただでさ、お前はさっきも戦いでダメージを負っているのに。」

すると、氷室が何かを察したかのように言った。

 氷室:
 「!悠お前まさか。やめろ!今のお前が使ったらどれだけ持っていかれるか。」

 悠:
 「スターク。」

悠はスタークの方を向いてたった一言

 悠:
 「頼む。」

とだけ言った。

スタークは無言で自身の影を広げ、氷室とソフィアを引き込んだ。

 氷室:
 「おい!スターク。悠それはだめだ。絶対に。」

スタークたちは離れたマンションの屋上に移動した。

 晴明:
 「よいのか?他のやつらといっしょに戦ったら勝率も上がるのではないか。」

 悠:
 「だろうな。でも、巻き込まないという保証ができないからな。もうすぐ日が暮れるし。」

 晴明:
 「?」

 悠:
 「あとで涼介兄に謝らないとな。」

悠は胸の前で『夜行』を横向きに構えて

 悠:
 「陸王安倍晴明、お前は強い。このままでは全滅もあり得るだろう。だから、俺がここで止める。代償を支払っても。」

『夜行』が黒い光を放ち

 悠:
 『恐れ戦け(おそれおののけ)・・・。」

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