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第3章の第59話 X6 会社を倒産させる要因



☆彡
【――手術前、あたしは肩に力が入り過ぎていたの】
【気負ってばかりいては、手術中術野を狭め、チーム一丸となって望む以上、周りの協力を削ぐ要因になるからね】
【1人で勝手に先行し兼ねない……】
【だからその話は、気負っていたあたしを……ね……――】

「――そうだなぁ……今日街中で、変な奴に会っただろ?」
「ええ……」
「会社を倒産まで追い込む、原因とは、他に何が考えられる……?」
「え……? えーと……謎会議意外にですか?」
「ああ」
「そうですねぇ……情報とか?」
「メールやウェーブグローバルの閲覧等か……!?」
「はい……」
ウェーブグローバルは、200年後のインターネットシステムであり、より革新的に進化しているものよ。
「まぁ確かにそれも、キッカケにしか過ぎないが……。最初は小さな波紋のようなものだぞ? 初めのうちは原因足りえない……」
「そっか――……う~ん……」
「そんなものは、星の数ほどあるしな……。それに、そのサイト等を監視する目もある……!!」
「………………」
あたしは良く考え、導き出した答えは。
「もしかして、腕時計型携帯端末などのアプリゲームの課金性のせい……?」
「ンンッ!?」
「あっいや、当時、あたし、まだ小さくて……。親に黙って、ゲームの課金性のものをインストールした事があるんです」
「子供の時?」
「はい……。でも、あたし、周りの姉や妹たちに負けたくなくて、お金を積んででも、レアなものを入手してたんです。
もちろん、大勝(おおがち)はしましたが……親からキツク注意されました……」
「……あぁ……なるほど……」
(それは親も怒るわ……。俺も子供を持ったら、注意しないとな……!)
俺は心にそう誓う。
クレメンティーナとの間に子供を設けたら、注意しないと。
「確かにそれを、会社に用いれば……なるほどな……!」
「多分、こーゆう事だと思います……。
あたしのように負けず嫌いの社員の方がいて、他の科のみんなと一緒に集まってました。
そこで上げるのがゲームの話です。
そこへ、総務課などに努めている方がきて、ゲームの課金性の話をして、周りに勝ちたい、自慢したいという話が持ち上がって、
その人はこう言うんです。
毎月の給与を上げてくれないかと、年々物価が高騰してきて、段々うちも厳しくなっていると……。
うちの子供も学校に行きながら大きくなっているし、
うちの嫁さんが言うには、どこも不景気だという……。
うちで一番の稼ぎ頭は、俺だから、俺が養わないといけない。
少しは給料を上げてくれないかと……?
じゃあ、その人はこう問い返すんです。
それなら、何か売り上げ利益に繋がる事をしないとな。その成果を見て、その報告書を俺から上に通そう……という話になるんです」
「なるほど……それが?」
「それが今日あった人の話に繋がるかと……思います」
「フム……」
考えられるな……。
その雑談の場を考えれば、筋が通る。
とクレメンティーナが続けて話す。
「成果を上げる方法は、人1人では何もできません……。
しかも、ご自身は上の役職の場に就く正社員です。
机と椅子に座っているだけ。
基本は自分も楽をしたい。
なら、現場にいるパートたちの従業員を動かして、楽に稼ぎたい……そうは思いませんか?」
「確かに……筋が通るな」
コクリ
「……」
とあたしは頷き得る。
「フム……」
考えるスプリング。確かにそれなら……。
とクレメンティーナが続けて話す。
「現場の人たちを動かすためには、生産効率を上げるしかありません。
ですが、無理強いに敷いても、誰も従うものでもありません。
人が辞めていくだけです……。
そんな流れになるでしょう……体が壊れたなどを理由に、あの会社から逃げてきた……とも。
そうならないために、それぐらいなら、
自分の受け持つ科の従業員たちには、他と比べて、少しは楽をさせながら、売り上げ利益に主体にしたほうが、合理的かと思います」
「うむ!」
「よって、それ以外のところ……。
あたしとしても、仲のいい人たちの受け持つ各科に負担を強いるのはあれなので、
基本的にどうなってもいい場所、気に入らない人のところに的を絞って、
タイム制を敷くなどして、質や量を限定させるなどして、
ビジネス的に合理的に運営した方が、純利益が増しやすいと思いませんか?」
「確かに……筋が通る……!!」
これにに私も驚き得る思いだ。
(さすがだ……クレメンティーナ……。そこに気づくとは……!)
「……」
フッ
と私は鼻で笑い。
こいつの頭の良さを認める。
「そして、人はこう言うんです。
あなたは、何年もこの会社に勤めているのに、そんな事もできないのか……と。
それが決定的になる引き金になり、続く人たちが、その各科をないがしろにしていく。
どんなにそこが、周りに心配を与えまいと笑顔を振りまいても、
軋むような音を立てて、いずれは空中分解するかと……。
そして、人は辞めて、体を壊さないようにと苦言を残し、去っていく……。
それが契機の始まりになり、手の施しようがなくなっていく……」
「あり得るな……」
「はい……」
コクッ……
とあたしは小さく頷き得る。
「ではなぜ?」
「おそらく年単位を通して、季節によって、時期によって、その配分比率を修めているのが、その人、たった1人だからです」
「たった1人か……」
「はい……どんな会社にも、そーゆう人は1人だけいます。
いわゆる調律者(バランサー)が……。
それは、家事で例えれば、ママみたいな人です」
「ああ、思わぬ痛手だな……」
「ええ……」
私も、同意見の思いだ。
おそらくクレメンティーナのところは、母が副業していた時期でもあるのだろう。
無理もない、姉妹が4人もいたのだから。
父親の収入だけでは、賄いきれないところがある。
と続くクレメンティーナの話は。
「他にあるとしたら、今日あった人の意見を参考にして、こんな一例も考えられます」
「!」
「例えば、総務課等にいる人で、とある商談の場に妻を立たせます。
話の流れが上手い具合に進んでいき、妻の方から、ある話を持ちかけます。
それは、伝手のある各企業への紹介であり、企業と企業を結び付ける場に、自分が仲介人として取りつける話です。
紹介料です。
他よりもお安くしますよ?
そして、そのいくつもの会社に、架空の口座の話を取りつけ、その口座の名義人を妻のものとすることです。
そうすればどうなるか?
こうなります。
会社は何も知らず、そのいくつもの会社にお金を支払いますよね?
当然、その一部が妻の懐に入るため、その夫妻の懐は潤うわけです」
「恐いな……それならばあり得る話だ……!」
「ええ……!」
有り得たら、恐いぐらいの話だ。
倒産の危険がある……。
「だが、そんな事が会社に、もしもバレれば……その社員は見つけ次第、即刻クビだな……! どんな火の車に転じるかわからん!!」
「ええ、ですね……!」
「うん……! 日本(ジャパン)のことわざにこんなのがある……! 『豚に真珠』……!!」
「? 日本のことわざ……?!」
首を傾げるあたし、無理解の範疇だった。
「あぁ、お前が知らないのも無理はない。
豚に真珠とは、
豚に真珠を与えても、豚にはそのものの価値がわからないので、何の意味もなさない……ということだ。
どんなに立派でも、どんなに着飾っても、どんなに能力があっても、そのホントの価値を知らない者には、何の役にも立たないという事だ。
まぁ、言い得て妙だな……」
「……ふむぅ……確かに……!」
よくわからない言い回しよダーリン、もっと、わかりやすく言ってね……。
とは、あたしはおくびにも出さない……けどね。

――さて、次は、私が答えていかないとな。
「――フッ……、では、私なりの推理をしよう」
(! スプリング様の推理……!)
「売り上げ利益が落ちてくる原因……」
「……」
「それは、『社風の変化』『社長夫人の突然のキャンセル』『人のせいにする』だ!! この3つが大きく挙げられる……!!」
「『社風の変化』……!?」
「ああ、例に則っていこう!」
「はい……」
なんかスゴイ話の予感が……。
「――まず『社風の変化』から、
うちの病院では、昼夜・夜勤を問わずに、現場で働く医師たちになるべく負担を負わせないように、患者さん達と同様に、個人で選べるメニューのものを推奨してるだろ?」
「ええ、AIナビたちが、あたしたちの健康管理を預かってますから、その日のベスト基準となる、栄養価のあるメニューを選んでくれてますよね?」
「そうだな……!」

【――アメリカの病院食?】
【あらー? 気になるー? スバル君? じゃあ、例に則って話そうか?】
【うん……じゃなくてはい!】
【まず、あたしから見た日本から……! よく日本(ジャパン)の病院食とアメリカの病院食は違うと言えるわね……!】
【そもそも、日本の病院食は、患者さんたちの毎日の健康管理を預かるため、栄養第一主義で、味は二の次となっているのよ!】
【その日の献立を考え、栄養管理と味の水準まで考えてくれているのは、病院にいる管理栄養士・病院調理師の皆様のおかげなの!】
【だから――患者さんたちの体調管理の面も考え、心を汲んでくれる良識人のお医者様方は、同じ病院食をあたし達と同じように取ってくれているのよ】
【あたしも、入った時、驚いたわ……! へぇ~……日本(ジャパン)の病院はこうなってるんだって……!】
【面を喰らったわ……!】
【そして、同時にこう思うの……。なるほど、あたし達医師の体調管理面も考えて、バランス良くされている】
【日々の献立を考える、日本の管理栄養士・病院調理師の腕もさすがね……!】
【そのたゆまぬ健診により、ご厚意にあって、あたし達医師との相互協力の元、より安全に、入院、治療、リハビリを経て、無事退院できているのね】
【さすがね、ジャパニーズ ホスピタル】
【じゃあ続いて、本国、アメリカの病院食の話をしましょうか】
【ここは、あなた達の日本人が思っているような、病院とは、大きく様変わりしているでしょうね】
【あなた達日本人が、入院して、一番先に驚き、一番心待ちしているのは、何といっても病院食だから……】
【スバル君たちの、その腕時計型径端末等を通して、AIナビたちが、『そろそろ、昼食だよ』と伝えてくれるの】
【そして、エアディスプレイ画面に表示されるのが、その日の献立表(メニュー)よ】
【ここでは、ご自身で好きなものを選ぶか、もしくは、AIナビたちに日々の健康管理を預けるか、大きくこの二択に迫られるの】
【僕なら、ロイに預けていたわけか……フムフム】
【フフッ、そうね……】
【試しに、自分で好きなものを選んだ時の……話しましょう】
【だいたい、こんな笑える話があるわ。……フフフ】
【その日、ある人がいた】
【その人は偏食下で、失礼だけど肥満体系の人だったの】
【その為、脂っこいものが大好きで、ほとんど毎日ように、自分が好きなものを暴飲暴食した挙句、お腹を下したの】
【あれには見てて、笑えたわ】
【素直に、日々の栄養管理をAIナビたちに委任していればいいのにねぇ】
【だから、あたし達は二人三脚で、この世の中を過ごしている】
【うん……】
【あっ、もちろん、多少のわがままも聞いてくれるわよ】
【わかってるよ……大丈夫。……続きを聞かせて】
【うん……。スタンダードはAIナビに任せて、サービスメニューで、ご自身の好きなものを選べばいいのよ】
【そうね、例えば……】
【女子はみーんな大好き、ケーキを頼んでもいいし、ジュースもいいし。何ならコーヒーだってあるのよ】
【リンゴはカットせず丸ごと出されるけど……。そこは多くの方が、ご家族の方に剝いてもらえばいいし】
【なんなら、病室に付属にしているアンドロイドに、AIナビを送信して、ご自身のナビたちに、代わりに剥いてもらえばいいわね】
【……けどね、ここだけは注意しないといけないかも……】
【日本の病院のように、アメリカでは、大人用、子供用の違いはなくて、よく小さいお子様なんかが、いつも残してるわね……】
【あたし達も何で食べないのかな~~って思うくらいよ……】
【ニンジンやピーマンみたいな嫌いなものは、避けてるはずなのに……】
【あれには、付き添いのお母様や、AIナビたちも困っていたわ】
【……】
【そうそう、当然、ここはアメリカだから、、アメリカン・メキシカンはあっても、あなた達の好きな日本食……和食はないかもね】
【余程の日本食大好き病院長さんがいない限り……ね】
【それと……う~ん……お世辞にも、美味しいとは言い難いかも……ね……――】

「――でも、それが……なに?」
「それを、倒産した会社や、倒産する前の会社に置き換えて考えるんだ!」
「……?」
意味不明よ、ダーリン……
「う~ん……」
とこれにはあたしも考えてみる。
するとダーリンが。
「お前は、姉から何も聞いていないのか……?」
「姉……あぁ、ルビーアラ姉さんの事?」
「ああ……」
当然だけど、日本の食文化とアメリカの食文化は違うからね。
そもそも、この頃から、あたしとルビーアラ姉さんは、仲が悪いし……。
「う~ん……わかんないわ……」
「お前等……仲悪いな……」
「……」
「ハァ……」
これには私も、溜息を零すばかりだ……。
(お前等……ホントに姉妹かよ……仕方ない……)
私は、いや俺は、話を切り出すことにした。
砕けた口調で喋ってみる。
「俺たちの主食は、ハンバーガーやサンドウィッチ、ピザやタコス、ホットドッグなんかだろ? まぁ、俺は、具沢山のサンドウィッチが好きだが……」
「フ~ン……」
(サンドウィッチが好きなんだ……今度作ってみようかな……?)
あたしは心の中で、ダーリンの好きなものが聞けたため、後日、作ってあげようと思う。
「企業によっては、食堂でハンバーガーやサンドウィッチを販売している会社もある。
良心的にお値段はお手頃価格で、なんなら、ご家庭に持ち帰る従業員もいるぐらいなもんだ!」
「う~ん……大学病院みたいなもの?」
「そうかもな……! だが、それよりも安い場合も、時にはある……!!」
「へぇ~……そんなところもあるんだぁ……」
「正しくは、昔はあった……だな!
……だが! とある夜勤の従業員がトイレの中で、焼き菓子パンを食べたがために、その包み紙がトイレの排水溝に詰まって、水が溢れ出す案件があった……!」
「えっ……!?」
「そのせいで、楽しみにしていた購買のパンがなくなってしまったんだ……。
多くの従業員は、楽しみが減ってしまった為、落胆するように肩を落としてしまう……。
良くも悪くも、その夜勤勤務の従業員の落ち度だな……。
つまり、そのパン会社の魅力の1つが減ってしまったことに起因する。
その為、多くの口コミを経て、そのパン会社の魅力が減ってしまったため、
毎年のように入ってきてくれていた従業員さんが減ってしまった要因ともなってしまう……」
「アチャ~~」
やってしまった感を覚えるあたし。
(その人、何やってんの……ッ!?)
「というのは、結果の建前で、実は以前から、食堂で販売される焼き菓子パンの話は、廃番の話が進められていたんだ……!」
「えっ!? でも……バーガーやサンドウィッチはあるんですよね!?」
「ああ、代表的なメニューだからな! もちろんあるぞ!!」
俺は砕けた口調で、続けてこう喋る。
「俺が言いたいのは、同じパンの種類でも、焼き菓子パンなら、廃番に見送っても、大して痛くないと思ったわけだ……!
どうせ買いにくるのは、雇っている従業員ぐらいだからな。
それよりも、外に回した方が、ほら、売り上げ利益的に見ても、プラスになるだろ!?」
「う~ん……どうかなぁ~……。
あたしとしては、太くて長い、企業理念で考えると、どちらかと言えばマイナス志向のような……?」
「!?」
このクレメンティーナの何気ない助言に、俺は驚き得る。
(もしかしたら……)
バッ
と後ろを向いて考える。
「……あり得る」
「……」
この後ろ姿に、嘆息しちゃうあたし。
スプリング様に、続きの催促の言葉を投げかける。
「スプリング様」
「!?」
「あたしは焼き菓子パンと言ったら、年頃の時、良く昼食と一緒にかじってました」
(……今でも年頃だろ?)
だが、私はあえて、それを言及しない。
クレメンティーナの言葉は、純粋な言葉となって返ってきた。
「サワー・ドゥ・ブレッド、コーン・ブレッド、バナナ・ブレッド、ハンバーガー・バンズ、ドーナツ・ベーグル、
ブルマン・ブレッド、コーヒーケーキ、スィートロール、ブラウンサーブ、クラブハウス・サンドウィッチ……なんて!!」
「そうだな……!!」
そんなに良く食べてたんか……。フッ、食べ盛りの子供だな。
「……」
私は、クレメンティーナの素の顔を見れたようでよく、その顔を見据えていた。
「フッ……。
実は、この話には続きがあってだな……!
現場にいる従業員の中で、いつも毎日のように食べている女がいたんだ。
毎日のように、他の女どもとペチャクチャと、自己中心的な女だ。
自分は食べられるところにいて、
中には一口も食べられない人もいた。
それなのに良く働いていた。
ある時、暴言を吐かれた、その横暴な女に……。
……だが、その人は何も言い返さなかった……。
口喧嘩としても、周りの女達から詰め寄られて、丸め込められるだけ……。
負けるとわかっていたからだ……。
その旦那さんも協力だ。
毎月の給料を、『また』、減らさられるからな。
まぁ、他にも被害者はいるかもしれないが……。
だが、法を預かる人の立場から見たら、それは窃盗に値する犯罪だ。
それだけは、犯してはいけない……。
だが、人間とは悲しい生き物だ……つい、魔が差してしまう。
そのお金がいったいどこにいくかだな……!?」
「ですね……」
「うむ!」
窃盗は犯罪である。
例え、それが給料からの差し引きでも……。
従業員を雇用しているのならば、毎月の給与の抜き差しは、ダメ、絶対である。
そんな事をすれば、あなたは犯罪者です。法律をよく見るように。
「だから、聡い従業員なんかは、それを知っていて、あえて、黙認している人もいるぐらいだ……!
ただ黙って、今も働いている……。
そんなある日、誹謗中傷の声が上がるんだ……!
それは、傲慢な女からのものだった。
ただ、黙って働いている従業員にこう言ったんだ。
情けな~。あいつは体が大きいだけじゃん。アハハハハ……と。
だが、周りの各科の人たちも、良くわかっていたんだ。
以前の社風の変化を、改革しているのはこの女だと……!!
だが、下手に仕返ししても、バッグには強力な旦那さんが控えている為、何も言い出せない。
良くも悪くも、独裁政権だったんだ……」
「その女もいるんだ……」
「ああ……いる!! どこの企業にもな!!」
「まるで、その会社に自分たちの王国を作ってるみたいね」
「作ってるみたいか……フフッ、言い得て妙だな」
「……」
これにはあたしも嘆息しちゃう。
続くスプリング様の御言葉は。
「大事なのは、気づく事からだ!!
長年働いてくれていたベテランが抜けていくと……泣くに泣けんぞ……」
「う~ん……確かに……!」
(あたしも注意しないとね……)
あなたの隣に立つなら……。あたしはそう、肝に銘じる。
続くスプリング様の話は。
「……そこには、いろんな各科からパンが運ばられてくるんだ。
検品を預かるその女連中は、正直、毎日食べていて、食い飽きていたんだ……。
だが、そうではない、周りの各科すれば、迷惑千万ものだ……!!!」
「うんうん!! 楽しみを独り占めにしていてさすがに飽きちゃったのね……!! わかるわーその気持ち……!! あたしも若い頃は、高校生の時……」
「お前、そこまで年取ってねーだろ?」
「てへっ」
ペロッ
とあたしは可愛らしく、ベロを出しちゃう。
「まぁ、その辺の話は、おいおい話そう。
そんな女が、1人でも会社にいたら、黄色信号だ!
自己中心的に話を進めた挙句、会社を倒産に追いやっては、もう目も当てられん……!!
それは、旦那さんが立ち上げた会社ではなく、法人株主様が立ち上げた会社だという認識を持たないとなァー!!
自分は、その会社の一社員だという再認識を持たないと、自ずと再就職の道のりは難しいだろう……」
「うわぁ……問題の多そうな失礼な女(ひと)……Rude Womann(ルード ウーマン)だわぁ……!!」
「ウム……! なら旦那さんは、現場がそんな事になっていることに気づけない、無能な男(ひと)……Incompetent Man(インカムパタント マン)だな……!」
平たく公言的に言えば、ポンコツである……。
コクリ
とこれには、あたしも彼も、同調するように、強く頷き得る。
(下手に雇用して、高い給料を払うのはどうかなぁ~~……上とか下とかで、また何か問題が起きるような……!?)
(そんな女を雇うなんて、俺だったら願い下げだな……!!)
等々……あたし達は、心の中だけで呟く。
「……今やどこの企業も、個人地主が自分で会社を立ち上げるような時代だ……!
それだけ時代が進んでいる。
ひとえにウェーブグローバル化や人型アンドロイドなどの科学技術の発達がそうさせたんだ……!
そうだな……こんな話がある。
今から200年ぐらい前の昔、一部の優れた大地主様が、会社を立ち上げて、そこに多くの従業員達を雇うような、時代背景とは、一線を画す……とな……!」
「それはまぁ……」
(当たり前なんじゃ……)
あたしは、心の中だけで愚痴を零した。
「今でも、一部の企業は、
持ち株会社(ホールディングス)やら、
多様種の工業系の企業(プラント)やら、
総合建設業者(ゼネコン)やら、
工場経営(ファクトリー)ももちろんあるにはあるけどね……!」
「……そうだな!」
頷く俺、そこだけは認める。
だが、問題の核心はここからだ。
「普段から俺達は、何か感じていないか?」
「? ……そうねぇ、AIナビはいるし、あなたという人はいるし……」
あたしはほの字のように、彼を見染める。
「……そこだ!」
「えっ……!?」
(もしかして、わかりやすかった……ドキドキ)
「そこが問題なんだ!!」
「問題って……?」
「人同士の繋がりは少ない……!」
「?」
(あれ……なんか……)
「私たちは、普段から知り合いの者とは意思疎通は図れるが、そうでない人は、関わる必要はなく、上下関係の立場として接しているぐらいだ!」
(外しちゃってる……ッ!?)
「人は、ロボットじゃない。AIナビには感情というプログラムがあり、疑似的な心を有している」
「……」
(真面目な話だったみたいね……ガックシ……)
とあたしは首を折ってしまう。
そんなあたしに対し、スプリング様はこう言葉を投げかける。
「……どうした?」
「いえ……なんでも……ッ」
「?」
立ち直るあたし。
あたしの彼氏は、意外と抜けてるのかもしれない……。ダーリンは、真面目な話をする。
「人をロボットのように働かせる会社は、その個人とAIナビを雇用して、アンドロイド等に送信した後、一緒に働いているのが現状だ」
「うん……まぁ……当たり前じゃない?」
「そうだな、一般常識だ!」
(そう、一般常識……。
今のご時世、誰もがAIナビを保有している以上、各企業は、その個人を雇う事で、同時にAIナビも雇用していることになる。
企業側としても、メリットがある話だ。
人件費は浮き、必要であれば台数分のアンドロイドを保有すれば、先行投資こそかかるものの、将来的に見て、確実に売り上げ利益が上がるからだ。
むしろ右肩上がりカモ……!
でもね、ここだけは注意しないといけない……。
それは修理のために、専門のエンジニアの力がいるということを……)
彼の話が続く。
「……だが! 心がある以上、『社風の変化』にも敏感で、人・アンドロイド間で、自分たちをロボットのように扱うなら、
見下げるような感情を持つようになる!!」
「あぁ、各企業の口コミのこと?」

「ああ、そうだ! 個人・AIナビが口コミを独白する場合がある! だがそれは、始めのうちは小さな波紋であって、企業が倒産するような理由には足りえない」

「……」
これにはあたしも嘆息しちゃう。
(また戻ってきたか……)
心に思うのは、そのわだかまりだ。
「会社が潰れる大きな要因! それは……『社風の変化』だ! ……それは人の人情をなくし、ロボット思考になり、一般からビジネス寄りになる傾向だ!」
「当たり前じゃない……!?」
「いや違う!! ……なんならお前は、社長夫人の場合、離婚届を提出する事になる……!!」
「えっ!?」
(嘘、そんな……ッ!? そんな……ちょっと待って……ッ!?)
これにはあたしも、内心大慌てだ。
「今のご時世、長寿世界だ!!
老化から若返りなんて極々当たり前で、50代の女性が20代の女性と見紛うほど、医療技術水準は飛躍的に向上している……!!」
「うっ……!!」
(確かに、それは言い返せない……ッ)
現実にその人達がいるから。
(120歳のご高齢のおばちゃんがいて、その人の外見年齢は、30代40代と見紛うほどお肌が奇麗なの……ッ。
正直脱帽もの……。
さらに美容整形を施せば、20代後半と見紛うような、裏技だってあるもの……。
もうそこまで行けば、何て言ったらよいのやら……貴婦人ならぬ、造花の貴婦人と声を出して叫びたい……ッ!!)
「……ッ……ッッ」
言わないけどねッ。
「どうした? クレメンティナ?」
「いっいいえ……」
内心傷ついたあたしは、そっぽを向いた。
これを見た彼は、少し言い過ぎかと思い、嘆息す。
「……お前はまだ10代後半だろ? 結婚して20代、社長夫人になって、わがままになる頃は30代か40代の頃か?」
「………………」
これには落ち込みあたし……大変ショック――ゥッ。
「これが『社長夫人の突然のキャンセル』に繋がる!」
「あっ……!」
そう言えば、そう言ってたような……。
「人情を捨て、誠実に働いていた社員たちに対して、悪政を敷くのは、現場にいる社長夫人の場合や、謎会議を行う上の役職の連中どもだ……!
大概、女性を通じて、社長夫人の耳に伝わり、それが謎会議を行う上での役職の連中に繋がる事が、ままある……!!」
「ああ……」
(有り得る……カモ!?)
うん。
「法人株主が立てた会社を潰すのが、社長夫人では、笑いたくても笑えんな!!」
「グッ……!!」
「……今の言葉、良く反芻して覚えておけよクレメンティーナ」
「……はい……ッ」
これにはあたしも反省する思いだ。
と彼が。
「『俺』の妻に……なるならな」
「……うん!!」
それはチャンスだ、まだやり直しがきく。
ダーリンのその言葉を聞いたあたしは、顔を上げて、笑顔と返事をもって、そう答えたの。
「……フッ」
「……次は?」
「……そうだなぁ、順序良くしていこう」
「……そうね」
「大概、ある企業との商談の場で、社長夫人が出てきたがために、誠実性と信頼性を損ない、価格を安く叩き、アウトレット化することが原因だ!!」
「あぁ……いるカモ……そーゆうわがままな人……」
「各企業によっては、品質の高さや価格競争等で、高い品物やお手頃価格(リーズナブル)な商品があるぐらいだ。
そのリーズナブルな商品を、無理に無駄に安く叩き売った場合は……?」
「えーと……。その価格すいたいにしないといけないから、原材料から見直して、部品の点数やらプログラムなども見直さないといけないかも……」
「正解だ!
大概、モーターの不調により騒音や、検品を調べるための新しい機器の導入や、エスカレーターなどの縮小化やプログラム改ざんなどが挙げられる。
その分で浮いた金は、手柄として、自分や旦那さんの懐に入ってくるようになる……。
だが、それは、一時的にみればメリットだが……。
透徹した長い目で見れば、確実に労害として、デメリットが浮き彫りになってくる……!!
それは……! その会社を通して、誠意にきた社員さんたちに対し、暴言を吐き、その品質を損なわせた事だ……!!
安全と信頼を取るか、それとも品質の安さを取るか……、
……今一度、良――く考えて欲しい……!」
「うんうん……」
これにはあたしも、同じ思いだ。
「そして、いらぬところで、その設備の機械等が故障を起こすんだ……! 事故の誘発を招いたのは……」
「あたしみたいになる……その人たちの傲慢さ……というわけね?」
「ああ、そうだ……!」
「……」
あたしもそれを認める。
自分がそうならないように、気をつけよう。
「俺の妻になるなら、そこだけは肝に銘じておけ」
「うん……」
ホントに、ホントに、気をつけよう。
あたしが、もしも、30代40代になった時、今の旦那さんから離婚届を出されたら、この先、お先真っ暗だろうから……。
「フッ……」
(さすがね、マイ・ダーリン……。よく、先の戦局を見ているわ)
あたしは感心を覚えるほどだ。
「……ということは最後の3つ目は?」
「ああ、『人のせいにする』だ!!」
「……」
これにはあたしも呼気を吐いちゃう。
「これは、現場にいる従業員達のせいにする場合や、社長夫人等の判断で、出庫・出荷に来てくれていた運送業者に対する、最大の落ち度だ!!」
「え!? 運送業者……!?」
「ああ、そうだ……! 血液のガンの話を……しただろ?」
「うん……」
「白血病患者を治すには、代わりのドナーを探す必要があるが……。
実は、純利益に欠かせないのが、運送業者や商人たちに対する誠意だったりする!」
「運送業者に商人……」
「今のご時世、運送業者は、それこそグローバルに世界的にどこにでも、どんな品物でも、お届けするのが生業(なりわい)だ!
だが、ここに大きく絡んでくるのが、会社であり、商人たちなんだ!」
「確かに……!」
「もしも、会社側の、手前勝手な判断で、運送業者の取引を、突然キャンセルした場合は……!?」
「そうねぇ……今のご時世、運送業者業界は、喉から手が出るほど人材不足のご時世でしょ? 高給取りの1つだし……!」
「それが、当時既に安く叩き売られていて、お互いに提携している状態で、突然、半分の人がもう運送に来なくていいよ……と言われたら?」
「え……?」
「ロクに何の説明もなしに、突然言われたら? ……どうなる!?」
「ムカつくわね!!! じゃあ、あんたの会社にはこないわよ!!! 他に行くんだから!!! フンッ!!! ……ってなるわね!?」
「……そうだな……」
(ちょっと怖い……クレメンティーナもそんな顔するんだな……)
気をつけよう。
そんな可愛い顔で、やめてくれ……ッ。
「……だから、その運送業者の当事者はこーゆうんだ。
いきなり何の説明もなく、ロクな説明もないままの状態で、半分以上の人が辞めさせられた……。
だから、本社の方針で、その半分を残したまま、
自分たちは、別の会社に行くようになって、以前と比べれば、収入が良くなった……と!」
「あ……あれ……? どうなるのそれ……!?」
「どーもならんだろうな……。運送業者はその商人と繋がっている……だろ?」
「うん」
「その情報がどのように伝わるかは、私にもわからない……」
「あぁ……なんかや嫌な予感が……?」
目に見えないだけで、自分たちが与り知れない不鮮明なところで、何が起きているかもわからない……。
それが情報化社会となれば、顕著であり、尚更だ。
最悪のパターンになるかも……ッ。
「当然、出庫・出荷の運送トラックも半分になれば、売り上げ利益も落ちて当然だな!」
「あぁ、確かに……でもさすがに気づくんじゃ?」
「気づかないほどの、ポンコツの能なし社員もいたりする」
「いるの!? そんな人!?」
「……」
「アンドロイドでもさすがに……それは……」
(有り得ないかも……!?)
あたしはその先の言葉を言うのが怖くて、ためらったのだった……。
現実にいたら、雇う上で怖い……。
これには彼も。
「どうでもいいんだろうな……自分たちが務めている会社が潰れても、それを誰かの責任して、推しつければ……」
「え……!?」
「そーゆう裏技もある。……お金が入ってくる卑怯なやり方がな……」
「……」
(犯罪じゃん……)
あたしはそれを、口に出すことはなかった……。
「ただし、これだけは言える! 誠意に来てくれていた、運送業者や商人を無下にした場合、その手助けを得る事は、頑(かたく)なに難しい……」
「潰れますよね? もうそれ……?」
「……」
段々鋭くなってきたなクレメンティーナ。
続く言葉は。
「バレたら……?」
「……」
それがバレたら、きつい現実が待っているだろう。
だが、私は、こう切り出す。周りに不幸の連鎖を招かないために。
「売り上げの純利益が落ちた場合……。
どうしても会社は、必要経費となるところから削いでいく……。
それは、その未来予知すらできないまま……どうなるのかすらわからないのに……。
……ハァ……。人とは、どうも大局を見据えず、やらかす生き物なのだよ……」
「……」
「大概、総務課などの上の役職の連中の連帯責任だな……!」
「連帯責任かぁ……」
「ウム! ……お前なら、できるだけ安いものを選ぶだろ?」
「そりゃまぁ……」
あたしは心の中で、(それが普通だし……)と思うのだった。
続くスプリング様の御言葉は。
「お前は、『安物買いの銭失い』……という、日本のことわざを知ってるか……!?」
「……?」
「安価なものは、どこかで手を抜いている……。
その商人の会社の当事者本人ではなく、その話を聞いていた他の誰かが、
モーターの部品点数を減らしたり、本来なら逆ネジを使用するところを普通のネジで代用したり、またネジを予め緩めていたり……すれば、
それが……、その取り付けられたモーターの振動が、やがてネジを緩みさせ、脱落し、音を立てて、白煙を上げた後、大音響の騒音となる……!!
そうなればどうなるか!?
それがモーターの周波数の乱れに繋がり、その区画だけではなく、その設備全体が……ッ!!
それまで、安定供給が自慢だった我が社も、突然純利益が落ち、やがては倒産の危険性が増す……!!」
「うわぁ……うわぁ……うわぁ……」
「モーターばかりではなく、電気工事士(Unlimited Electrical Contractor(アンリミテッド・エレクトリカル・コントラクター)等も重要で、
必ず付添人を立て、茶菓子を出すなどの配慮が必要なんだ。
それが人なりの、会社なりの、人情というわけだ。
……わかるか?」
「うん! よくわかったわ!」
「……」
(そうか、それは良かった……!)
俺はこの時とばかりに、クレメンティーナに予め話せて良かったと思う。
クレメンティーナは、将来、俺のお嫁さんになる女だ。
だが、もし、仮にわがまま社長夫人と成り下がった場合、それは親の面汚しになる……。
しかも、クレメンティーナには前科もあるため、俺たちはそれを調整調整して誤魔化している。
万が一があってはいけない。

――その時、当院の館内放送がかかる。
『――救急ホットライン!! HOT発生!! 医療従事者各位は救急に当たってください!!』
「「!」」


☆彡
――その頃、ドクターライセンはというと。
救急車(アンビュランス)から救急車用ストレッチャーが運び出されていた。
寝台に乗せられているのは、件のひったくり犯のバイクマンの姿。
そして、現場対応に当たるのは、4人の姿だ。
救急救命士2人と、ドクターライセンと、医療用アンドロイド。
その医療用アンドロイドの電子頭脳空間にいるには、彼のAIナビ:オーバだ。

【ライセン・ケビンのAIナビ:オーバ】
ドクターライセンと同じく、髪の色を有し、ボディカラーは全体的に医師と同じ、白衣を基調としている。
本人になるべく似せているらしく、ちょっと頭髪の毛量が少ない。
なお、医療用アンドロイドにアクセス中。

救急救命士のこの人を助けたいという声が飛ぶ。
「交通外傷です!! お願いします!!」
「任せてください!! こっちです!!」
――その時、当院の館内放送がかかる。
『――救急ホットライン!! HOT発生!! 医療従事者各位は救急に当たってください!!』
その現場対応に当たっているのは、当然僕たちだ。
「状況は!?」
「モスキートドローンバイク衝突!!! 胸部・腹部を強打模様!! 顔面に裂傷あり!!」
僕は、救急救命士2人に話しかけて、この患者さんの状況確認を行い、その状態を大まかに知ることができた。
次にオーバが患者さんに触れる。
『腹部に拍動が触れます!! 血圧110/95!! 脈拍116!! 呼吸数26!! 意識レベル2!!」
意識レベルは、1から3まで3段階あり、1はハッキリしていて、3は深い昏睡状態であり、2は……今回に限って言えば、本人は無自覚で、呻き声を上げている状態だ。
正直マズイな……これは。
次にドクターライセン(僕)が。
「経口気官挿管します!!」
僕は、次の動作を考えて、患者さんの口の中に経口器官挿管を決定した。
気管挿管とは、何らかの原因で軌道に閉塞が生じている事だ。
この原因を取り除かないと、人工心肺装置を使っても、患者さんは呼吸ができず、死んでしまうからだ。
僕は、人工呼吸管理が必要となった患者さんに対し、器官内にチューブを挿管・留置を決定した。
気道を第一に確保する。
この気管挿管には、大別して二種類あり、それぞれ『経口器官挿管』と『経鼻気管挿管』というんだ。
まぁ、今回のように、救急時の多くは、この『経口器官挿管』が第一選択なんだよね。
当然、学生のみんなは知ってるかな。
『患者さんの衣類を裂きます!! ライン確保!!』
オーバが選択したのは、患者さんが手術室に運ばれる前に、その衣類を裂き、状態確認を行い、次の予備動作をスムーズに行うためだ。
人型アンドロイドのその手が、内部に格納されて、医療用のハサミが出てきた。
それを用いて、一思いに患者さんの衣類を切り裂く。
あらわになるは、硬質プラスチック製の破片が、肉に減り込んでいる事だ。
それを診た僕が、
「状態はそのまま、救急で対応します!!」
コクリ
救急救命士2人が、オーバが頷き得る。
次にオーバが。
『脈診します!!』

【――脈診とは、体の数か所の脈を取る東洋医学の検査法である】
【200年先の未来では、西洋医学と東洋医学の両面で、人型アンドロイドがこうして、手術前に活かしているのだ】
【患者さんを救うために――】
【これは脈拍だけではなく、脈の強さと硬さ、深さの違いや、リズムなどから、体のどこが悪いか、どんな状態かを探り、診ていくものだ】
【だいたい手首付近から、探り当てていく】
【左手手首付近から、寸すん(心臓・小腸)、関かん(肝臓・胆)、尺しゃく(腎臓・膀胱)】
【次に右手手首付近から、寸(肺・大腸)、関(脾臓・胃)、尺(心包・三焦)】
【ただし、ここで要注意したいのは、男性と女性で、気の流れが違う事から、逆になるケースがあることだ】
さらに詳しく知りたい人は、
心包(しんぽう)、三焦(さんしょう)は東洋医学で、気、点穴(ツボ)、脈をはかるところからきている。
心包は、心臓の外面を包んでいる膜で、心臓を保護していますが、実体のない臓器であり、
また心包には、9つのツボがあるのです。
それぞれ、1.「天地」2.「天泉」3.「曲沢」4.「ゲキ門」5.「関使」6.「内関」7.「大綾」8.「労宮」9.「中衝」。
心包に属するツボは少ないですが、色々なツボの特性・特徴があります。
次に三焦は、東洋医学の概念で、現代医学にはないものです。
そのため、三焦が今の臓器の何に当たるか、よくわかっていないのが実情なんです。
ですが、候補として挙げられているのは、1.「リンパ管」2.「腸管膜」3.「間管」4.「脾臓」5.「働きだけあって実体のないもの」等々です。
三焦にも心包のようにツボがあり、23個あります。
それぞれ、1.「関衝」2.「液門」3.「中渚」4.陽地5.「外関」6.「志溝」7.「会宋」8.「四トク」9.「天井(てんせい)」10.「清冷淵(せいれいえん)、
11.「消レキ」12.「禱会(じゅえ)13.「肩リョウ」14.「天リョウ」15.「天ユウ」16.「翳風(えいふう)」17.「ケイ脈」18.「ロ息(ろそく)19.「角孫(かくそん)」20.「耳門(じもん)、
21.「和リョウ」22.「シチ竹空(しちくくう)23.「三陽絡」。
三焦に属するツボはそれほど多くありませんが、様々なツボの特性・特徴があります。
――横須賀市の鍼灸院 山本鍼灸院から引用しました。

『――!! 左寸、右寸反応あり!! そして左関(かん)にも……!?』
「「「!」」」
『おそらく、心臓、肺、そして肝臓が疑われます!! 出血ありです!!』
探り当てるオーバ。
医療用人型アンドロイドの性能を活かしていた。
次にドクターライセンが。
「いや、それだけじゃない!!」
ドクン、ドクン、ドクン
「心臓の鼓動に合わせて、脈を打っている……」
『……』
「「……」」
「おそらくこれは……!! 外傷性の腹部大動脈溜の疑いが……あっ………………」
ドクンッ
と緊急を要する患者さんの身が突然、跳ね上がって……落ちた……。
見る見るうちに、その顔の血色が悪くなっていき……。……まっ、まさか……。
「『……ら、破裂(ラプチャー)……!!』」
これには僕もオーバも驚き得る。
ラプチャーとは、破裂を意味する医学用語だ。
Rupture(ラプチャー)。
血管が裂けて出血することをラプるともいうんだ。
特に大動脈破裂に対して使われることが多いね。
だが、僕たちにとってそれは、タイミング的に最悪だった。
せめて、手術でラプチャーすれば、まだ手の施しようが……ッ。
「クッ」
どうする。
(大動脈が破けて、血が一気に胸・腹クウ内(ふっくうない)に流失……!? 出血性のショック、いや、失血死も……!?)
僕は判断に迷う。焦巡(しょうじゅん)する……。
その時、オーバが。
「局所麻酔します!!」
機転を利かせ、麻酔を打ち込む。
「!!」
(……いいのかこれで!? 僕が医師になったのは……ッ!?)
スプリング様の目論見が崩れていく……。
だがそうとは知らない、患者さんを助けたいという声が上がる。
「「先生(ドクター)!!」」
「……ッ」
やるしかない。
僕は、白衣の中に忍ばせていた『シックルメス』を取り出し、一思いに腹を切り裂いた。
その瞬間、圧迫されていた内部血圧が一気に噴き出したんだ。
僕は構わず、この手を患者さんの腹の中に入れる。
「あああああっ!!」
ブッ
「……」
『……』
「……」
「……」
ストレッチャーが移動する――だがその車輪の回転が弱まっていき――その場で停止する。
その間、僕たちの時間も止まっていた。
患者さんの命を繋ぐ、タイムリミットも。
「「え……」」
『大動脈を、素手で止めた……』
笑みを浮かべる僕。
「……心臓に近い、大動脈を掴んでいるからね。今、この手は……」
「す」
「すげえ……」
「オーバ……今のうちに血管吻合をしてくれ!!」
『……わ、わかった……』
(ここで、大動脈を止める……!! その為には……)
今、ここで、一時しのぎの緊急手術しかなく、ストレッチャーがその場で停まっていた……。
僕は、思考を加速する
(……あくまで一時的な予防だ……スプリング様の力を借りるしかない………………!!)
「ッ」
僕の想像通りなら、心臓もやられているはずだ。
だとしたら、心臓手術の経験が浅い僕よりも、スプリング様が執刀した方が、患者さんは助かる。
『このまま、止血に入ります!! 止血クリップ(ヒーモステイスィスクリップ)!!』
オーバも、患者さんの腹の中に手を入れて、止血クリップをかけたんだった。
患者さんを救うために。
だが、今、自分たちがこの場でできることは、所詮一時しのぎに過ぎなかったんだ……。


☆彡
――その頃、私たちはというと。
「――どうやらHOTがきたみたいだな……!」
「ええ……」
「フッ……」
私たちは、手術の準備に合わせ、気持ちを切り替えていく。
場が忙しなく動き出す。
私は、手術手袋をはめ直し、医療器具の機器点検を行う。
クレメンティーナもそれに習う。
「メス、鉗子よし!」
「『イオンプラズマ パルフォロン マンチスツー モノポーラ』『アルゴンガスプラズマ パルフォート モノポーラ』『キリカンアルザ パルフォルグ バイポーラ』
そして、『ブラッドレイ パルフォシス シャークバイス バイポーラ』……準備良し!!」
私は、呼称だし確認を行う。
機器点検を行うのは、現場の医師に取って当たり前の事だ。
ちなみに、電気メスには、大別して2種類あり、その名を、モノポーラ、バイポーラと呼ばれているのよ。
最大の特徴はね。
モノポーラは組織の切開・剥離に、バイポーラは止血・凝固に利用されているの。
モノポーラは、
組織の切開を目的に利用されていて、
メスの先から反対側に置かれた対極板まで、生体に電流を流して切開する方法が挙げられるの。
この時、電流は体内に流れても、メスの先だけが熱を持つというもので、焼いて固めることができる。
これにより、出血が少なくて済みのよね。
それに対して、バイポーラは、
組織の凝固(止血)を目的に利用されていてね。
先端がまるでピンセットのようになっていて、一方の先からもう一方の先へと電流を流すことで、病巣をつまんだ時、その間、止血・凝固できる優れモノなのよ。
わかった?
そして、『アルゴンガスプラズマ パルフォート モノポーラ』と『キリカンアルザ パルフォルグ バイポーラ』。
実は、この2つのモデルは、200年前の時代を生きるあなた達のところにもあるの。
その名を、アルゴンプラズマ凝固装置APC2と、キリカン電気メス alsa ADC 160 PULSE(アルザ)と呼ばれていてね。
まず、アルゴンプラズマ凝固装置APC2の説明からしましょうか。
アルゴンプラズマ凝固装置APC2は、
この医療機器の特徴はね、非接触式で、広い面を浅く凝固できることにあるの。
一番の特徴は、広範囲の出血を、素早く浅く焼灼(しょうしゃく)することにあり、止血が可能となっている事よ。
実際の医療の現場では、術部の違いや、術式の違いにより、上手く現場のお医者様が使い分けているの。
そして次に、キリカン電気メス alsa ADC 160 PULSE(アルザ)の特徴はね。
高周波電流をパルス状(断続的)に出力されることで、組織に対する不要な効果を低減する新技術「パルスモード」搭載してことにあるの。
実際、凄くない?
この特徴的な出力波形により、繊細な出力効果を実現して、有害とされる組織炭化や煙の発生を最小化に実現しているの。
ハァ……患者さんにとっては、早期退院が望めそうな夢のある医療機器ね。
だから、実際の医療現場では、術部の違いや、術式の違いにより、上手く現場のお医者様が使い分けているのよ。
――だが、その時、また館内放送がかかる。
『HOTにドクターライセンが当たっています!!」
「「!」」
『現在、救急対応で胸部切開下を切り開き、大動脈破裂の血管吻合を行っています!!』
「大動脈血管吻合……!?」
「……」
あたしは驚き、彼と顔を見合わせる。
いったい現場で何が……。
『ドクターライセンのAIナビ:オーバも現場に加わり、救急に当たっています! 手術室にいる医師は、HOTに備えてください!』
………………。
そして、場に静寂の時が訪れる……――
あたし達は、私たちは、お互いに顔を見合わせ頷き合う。
進言したのは、私(スプリング)からだ。
「どうやら、心臓近くの大動脈が破裂したらしいな……」
「破裂……ラプチャーですか……!?」
「ああ……」
「……ッ」
これにはあたしも衝撃を受ける。
とんでもないことが起きている、それだけはわかった。
「おそらく、胸部下の部分切開をして、ドクターライセンが止血したんだろう」
「……じゃあ、これは……?」
あたしは、初めて人を切ることができる事から、『シックルメス』をその手に持っていた。
それに対し、スプリング様は――
「――メスは2回入れる事になる」
「!」
「胸部切開の仕方は覚えてるな?」
「ええ、胸のシワに沿って横に切り開き、筋膜は縦に切り開くことで、術後、縫合抜糸した時、傷が目立たなくなるんですよね?」
「そうだ。さらに肋骨(ろっこつ)を上手く避けながら手術を行い、なおかつ骨が折れている以上、人口の骨で新しく整形しなければならない」
「……」
「当然、大幅に手術時間も伸びる……」
「……」
「……今回ばかりは、スピードが何よりも求められる……!!」
「……」
(スピード……。それはまさに未知の領域……!)
緊張の一瞬が走る。まだか……まだか……と。
「………………」
「………………」
手術室に静寂が訪れる……。

「――クレメンティーナ」
「はい」
「今のうちに機器点検の仕方を教える。ちょっとついてこい」
「……」
あたしはスプリング様に指示されて、その後ろについていく。

「――これから行うのは、医療機器の前準備点検だ」
コクリ
「……」
とあたしは頷き得る。
「基本的に声出し確認と指さし確認を行っていく。この時、動作チェックも臨床工学技士が執り行う。今回は、私がそれを行おう!」
コクリ
「……はい」
とあたしは頷き得て、そう答えた。
今から行われるのは、医療機器の事前準備、機器点検の仕方だ。
(クレメンティーナには、こうした実戦の手術現場の経験がない……。貴重なチャンスだ……!)
私は指導医として、こうしてクレメンティーナに教えていた。
「今から教えるのは、人工心肺用回路システムなどの点検方法だ!」
「……うんうん、なるほど……」
あたしは、ドクタースプリング指導の下、こうして実戦形式で学んでいた。
「大事なのは、このチューブが裂けて空気が漏れがないことかだ! こう言うんだ!」
後日、クレメンティーナがたった1人でも機器点検を行えるよう、こうして指導に当たる。
指差し確認と、呼称確認を適時行う。
「チューブ漏れなし! 全自動増減圧力チャンパーも問題ありません!」
と。
「うんうん……」
と頷き得るあたし。
次に。
「血管カテーテル(リザーバー)のプライミング液、泡立ちなし、良し!
人工心肺、機械側のプライミングも良し!
続いて、動脈フィルターと機器のサーバーも正常範囲です!」
「うんうん」
ドクタースプリング(彼)は、あたしに教えるために、わかりやすく導いてくれる。
機器点検を伝えるのは、大事な事だからだ。
それは医療機器操作と管理を行う臨床工学技士だけではなく、こうして医師の立ち合いの元行えば、医療ミスはいくらか改善できるからだ。
その為、二重チェックは欠かせないの。
「と、クレメンティーナ!?」
「はい」
「プライミングはわかるか?」
「イエス、スプリング!
プライミングとは、医療機器の始動に備えて行う、前準備のことです!
今回の例のように、リザーバー、血液タンク、それを通じた血管カテーテルなどに、空気混入などの泡立ちがないかどうか、事前確認をすることです!」
「うむ正解だ!」
と告げる私。
「……」
私はワザとらしく機器に向かって指差し確認だけ行い、その目線をクレメンティーナに飛ばす。
「!」
彼女の反応は。
「オールグリーンです! ドクタースプリング!!」
「……よしっ!」
指差し確認、呼称確認はできてるな。
「……」
「……」
一息つくあたしたち。

――そして、静寂を、沈黙を打ち破るように、私は、クレメンティーナにこう語りかける。
「――……クレメンティーナ」
「はい」
「……病院とは何だ!? 医者とは何だ!?」
「!?」
「病院とは、私が思うに、名だけの器のようなものだ。
そこに不変の価値はない……!
それを決めるのは、その水たる、自分たち……医者の在り方次第で、薬にも毒にも、ホワイトにもブラックにも様変わりしてくる……!!」
「……」
「そして、それは決めるのは、私たち、現場の医師の問題ではなく……外から見た患者さんたちの見解だ!!」
「……」
あたしは心の中でこう思う。
(外から見た、見解……)
深い、なんて深い哲学だろう。スプリング様の御言葉が紡がられる。
「問題を犯した人を辞めさせた後、どう処分を検討するか、ただ辞めさせるか、それとも更生させるかで、
外から見た、その人たちの認識の見解が大きく違ってくる……!!」
「……」
「これだけは言える……! 本当の勝負は、倒産を免れた後だ……!!
このピンチをどう乗り越え、どう行先を指し示していくか……!
……俺は、クレメンティーナ!」
「!」
「お前をジェネラリストに育てる! ……この試練を乗り越えていけ!」
試練……。
それはきっと、これから訪れるものだろう。
「……はい!」
「よしっ! やるぞ!!」
「はい、偉大なる大学病院長!!!
Yes Great University Director Of a Hospital(イエス グランド ユニバーシティー ドクター オブ ア ホスピタル)!!!」

【――緊張の一瞬……! 待ち望むあたし達……!】
【その間、あたし達、ホットラインで駆け込む、ドクターライセンの到着を待っていたの】
【すぐに手術が行えるように……】
【ちょっと待って!? 救急に手助けに誰もいかなかったの!? 日本じゃ考えられないんだけど……!?】
【残念ながら、医療用アンドロイドも、看護師たちも、病棟にいる患者さんたちの対応に追われていたし……】
【人材不足だったのよ……たまたまその日は……】
【平日なら、それができたんだけどね……。
【非番の医師、出張に出かけている医師、学会に出払っている医師と重なったのよ……】
【なんて間の悪い……】

☆彡
ウィ――ン
「――済みません!! 遅れました!!」
『血圧100/85!! 脈拍100!! 呼吸数20!! に低下!! 意識レベル3!! 深い昏睡状態です!!』
「わかった急ごう!!」
ドクターライセンが、医療用アンドロイドと共に入室してくる。
私は、その者等に声をかけた。
その医療用アンドロイドを操作しているのは、彼、ドクターライセンのAIナビ:オーバだ。

【ライセン・ケビンのAIナビ:オーバ】
ドクターライセンと同じく、髪の色を有し、ボディカラーは全体的に医師と同じ、白衣を基調としている。
本人になるべく似せているらしく、ちょっと頭髪の毛量が少ない。

ストレッチャーに乗せられた救急患者さんが運ばれてくる。
口元には酸素マスクが付けられていた。
あたしはこの人を見て、ビクッとした。
「!?」
あの時の恐怖が蘇る。
「……ッ」
あのひったくり犯が、あたしの近くにいる。
そう思うだけで、この身が強張っちゃう。
「……」
「……」
ドクタースプリングとドクターライセンが立ち止まり、クレメンティーナの今の様子を認めて、アイコンタクトで指示を交わし合う。
(わかってるな……!?)
(イエス……!)
すれ違う2人。
その患者さんは、良くも悪くも利用されたのだ。
ドクタースプリング、ドクターイリヤマ、ドクターライセンの共謀によって……。
救急救命士の方からドクターライセンに託された際、担架から患者移送(ストレッチャー)に乗せられていた。
その患者移送(ストレッチャー)を運んできたのは、ドクターライセンとそのAIナビ:オーバだ。
AIナビたちも、この事件に絡んでいる。
そして、遅れて入ってきたドクターライセンは、ドクタースプリングこう話しかけてきた。
「執刀お願いします!!」
「わかった!!」
そして、執刀医の位置に就いたのは、なんとクレメンティーナであった。
「ッ!! ……お願いします!! 術式は、『救命措置気胸血管吻合術』に入ります!! ――メス」
そして、助手に就いたドクタースプリングから、クレメンティーナの手にシックルメスが渡されたのだった――


☆彡
おまけ
――その頃、ドクターイリヤマは、救急救命士2人と事件当時の状況を話し合っていた。
「私たちが駆けつけた時には、凄惨な現場でしたよ……!」
「いったい何mph(マイルパーアワー)出てたんだ……あのモスキートドローンバイクは!?」
「フツーあり得ませんよね?」
「あぁ……」
「こっちでも警察の方に問い合わせて、その患者さんのAIナビの行方を追っているところです!」
「なるほど……」
ドクターイリヤマ(俺)は、心の中で気づかれないように悪い笑みを浮かべる。
それは、俺たちが仕掛けたどうしようもない問題が功を奏し、犯人をこいつだと断定させ、
なおかつ、その当時の状況を知る患者さんが、このまま死んでくれれば、証拠の隠滅に繋がるからだ。


TO BE CONTINUD……

しおり