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第3章の第56話 X3 クレメンティーナ スプリング 謎の観察者



【――自身の日頃の行いの悪さに、後悔と未練を募らせるクリスティ】
「………………」
【少年はそんな彼女を見据えて、こう語りかける――】
「……でも……!」
「!」
「その腕は裏切らない……!」
「……」
【見詰め返す女医】
【少年は、真理の言葉をもって問いかける】
「クリスティさんが救った命は、今でも生きている……! 僕はそれが医者の……う~んと……生き方だと思う。仕事のプロフェッショナル精神だよ。そこだけは裏切らない……!」
「……スバルく~ん……」
目に涙を浮かべるクリスティ。
続くスバルの言葉は。
「どちらの言い分も通ると思う。全部が真実なら、どこかにウソツキがいる……! 例えば、その重傷者が仕掛け人だったとしたら……?」
「……」
「……」
「……」
「「「あっ……!」」」
今更ながら、もしかして、と思い浮かぶ。
「僕だから言えるけど、仕掛け人とは言わなくても、そそのかされてとか、利用されてとか……いろいろと考えられる」
「「「……」」」
これには3人とも、なるほど、と考えさせられる。
「クリスティさん!」
「うん」
「その重症人さんを切ったんだよね?」
「ええ……間違いなく……!」
ジロリ
と睨みつけるダイアンにルビーアラさん。
(お前はその人のせいにする気か……!)
(そこまで堕ちたか……!)
そんな目の色をしていた。
「どんな様子だったの……?」
「……」
スバル君に尋ねられて、あたしはあの頃を思い起こす――


★彡
――クレメンティーナ(本名クリスティ)さんの回想シーン
【――確かデート中だったわ……その婚約者(フィアンセ)と……】
【その頃、大学生のあたしは、彼と一緒に外で料理に舌鼓を撃ちながら、医学について聞いていた】
あたしは食べているのは、カルボナーラ。
その彼が食べているのは、フレンチサラダだったわ。
「……軽食なのね?」
「ああ、急に病院から呼び出しがかかる場合もあるからな?
……知ってるか?
あまり重たいものを食べていると消化に悪く、連続で立ち仕事だから、腹持ちはいいが、頭に栄養が回らないんだぜ!」
「えっ? そうなの?」
「ああ」
と頷き得る婚約者(フィアンセ)。
「それが微細程度に手指の震えとなって、術野を狭める……!」
「……」
手術中でそれは、思わぬ医療事故を招く……! 実際、遠隔操作で、ロボットアームを動かし、患者さんの生静脈を切った事例があるぐらいだ……!
また、実際の患者さんを目の前にしての、肉体体験上の手術でも同様の事が言える……!
何より大事なのは、脳(ここ)に糖分を送る事だ!」
私は、頭(ここ)に親指で突いて、それを示す。
あたしは、その話が、値千金だと思い、聞き耳を立てる。その講義を聞く。
だから、私はその様子を察し、こう話を切り出す。
「だから女性の場合は、
小麦粉や生クリームなどを使った、ケーキが好まれる!
飲み物にしてもそうだ!
コーヒー豆を挽いたドリップコーヒーなんかは、その熱が冷めるまで飲み辛い……。
急に呼び出しがかかって、水で済ませました……なんてよく聞く話だ」
パクッ
とそのフィアンセはフレンチサラダのトマトを頬張る。
「おすすめは、適度な糖分摂取と眠気防止にカフェインなどが含まれているもの。そうだな……午後の紅茶レモンティー辺りがいい」
「なるほど……」
とあたしは頷き得る。
「さらにレモンティーには当然ながらビタミンCが7.5~120㎎含まれていて、意外と知られていないが、ポリフェノールが31㎎入っている」
「へぇ~」
「……さあ、問題だ!」
「!」
「眠気覚まし定番のコーヒー! そのコーヒーには100mℓの液体があります」
「ふむふむ」
「さあ、そのカフェインの量は、どれぐらいでしょうか?」
「う~ん……」
「……」
「60mℓでしょ!」
「正解」
「よしっ!」
「……」
クレメンティーナを見据えるフィアンセに。
その視線に気づいて、顔を向けるあたし。
俺はクレメンティーナにこう話す。
「基本、俺たちは冷食よりになる……! 夜間の診療なんて当たり前だ……!」
「……」
「だから、世間からは一般的にブラックと思われている。……だが、言われていないのはなぜだと思う?」
「う~ん……。人を切って、治療しているからでしょう?」
「正解だ!」
うん
とあたしは当たり前だと思う。
「だからそんな俺たちにできる事は、健康体を常に維持する事だ。それが仕事を行う上で、必要な医師の務めだ」
「うん」
(納得のご意見だわ!)
さすが、病院長の御子息様。
「だから、常に健康をキープしなければいけない。特に必要なのは、冷暖房の利いた室内にいるから、こうして外に出ているときは、ひっそりと汗をかくことが必要だ」
「汗……」
「軽いスポーツなどがそうだ。だが、それができない場合はどうすればいい?」
「う~ん……」
あたしは身の回りの物を探すが、それに当たるものが見つからない……。
そこで彼が。
「体の発汗を促すために、ブラックペーパーやトウガラシなどのスパイスが効いたものがおすすめなんだ」
「なるほど」
納得の思いであたしは頷き得る。
「だから、時々、携帯している医師もいる……! まあ、味変だな」
「味変かァ……!」
「だが、スパイスは意外と重要だ!
例えば、大海賊時代でも、長い航海の折、ふと立ち寄った国で、ブラックペーパーを始めて発見した。
味見をしたところ、何だこれ!? と飛び上がるくらい驚いたそうだ。
だが、そこは人間様だ。
その香辛料の真の価値に気づいた。
ブラックペーパーは、当時、金と同等の価値があったくらいだ! それだけ健康は大事だったのさ!
実際、医師がブラックペーパーを患者さんに、処方した事例も、過去にあるぐらいだからな……!」
「はぁ……知らなかったわ……」
初耳だ。
だが、この情報はホントに値千金である。
それだけ健康は重要なのだ。
「フフッ……さあ、栄養学の問題だ! このフレンチサラダの潰したジャガイモには、何の栄養素が含まれている……?」
「えーと……。ジャガイモに含まれる栄養素には、
ビタミンC 35㎎。
ビタミンB2 0.03㎎。
ビタミンB6 0.18㎎。
ナイアシン 1.3㎎。
パントテン酸 0.47㎎。
カリウム 410㎎
マグネシウム 20㎎……でどうよ!?」
「……惜しい!!」
「えっ!?」
「講師のライセンから何を聞いてるんだ!?
食物繊維 1.3㎎。
炭水化物 17.6gが抜けているぜ!!」
「ああ……」
とあたしは凹んでしまう。そう言えば教えられていたわ……。
「80点!! ……惜しかったな……!」
「クソゥ……またか……」
あたしは悔しがる。
でも……。
「……ねえ……」
「うん?」
「あたしがしたいのは……手術なんだけど……?」
「ああ、俺の判断でお前には、全身科医(ジェネラリスト)になってもらう」
「ハアアァッ!?」
「穴があるんだ……うちの大学病院には……」
チラッ
「……?」
俺はクレメンティーナを見据え、こう切り出す。
「全身科医(ジェネラリスト)になってくれ……!」
「……」

「――……」
その様子を誰かがつぶさに観察していた。
男性か女性かは不明。
帽子を深くかぶり、サングラスをかけ、マスクまでしている。着ている服装もとてもカジュアルで、どこにでも売ってるような安物だった。
その辺の市民に溶け込んでいた。
その者は、サングラスをズラし、クレメンティーナ(本名クリスティ)を観察していた。
とても怪しい人物だった。

「……なぜ?」
「ハァ――……。現場の医師が講師連中がやりたがらないからだ」
「……やりたがらない……?」
「基本、医師という生き物は専攻している各科があり、2つ3つ兼用しているのが通例だ」
「……」
「脳神経外科も稼げるが、他にも全体に見れれば、病気の取りこぼしがなくなる」
「……うん」
とあたしは頷き得る。
「が、誰もやりたがらない……! その最たる理由が、各科の間で壁があることだ……!」
「えっ……!?」
「固定観念や固執観念みたいなものだ」
「あぁ……」
何となく察するあたし。
「余所者に荒らされたくない……!
自分たちの科を食い物にされたくない……!
周りからの意見が飛び出せば、いらぬ手間暇、集中力を生み、その精神を大きくかき乱され、医療事故に繋がる……!」
「……」
「結果、新たな医療問題が発生し、俺たちの要らぬ手間が増える……!」
「……」
「ジェネラリスト計画は、実は200年以上も前から推進されていたが、信頼のおける医師がいない……!」
「信頼……!」
「そうだ! この人なら、真剣に患者さんを診れる! すべての科を修め、すべての科の垣根・壁を取り払い、二人三脚で歩めるような大器の持ち主!」
「……」
「マンガみたいな話だが……。そんな医師は、未だ現れていない……! いくつかの科を修めたスペシャリストがいる程度だ……! すべての病院がな!」
「……なるほど」
言い認めるあたし。
「だから基本のベースは、どの病院においても同じだが、病院長や副院長があれこれ指示を出して、現場の医師に判断に委ね、他の周りの者を上手く操作し、全体的にうまく片付けようとしている」
「なるほど……」
「だから、橋渡しを任せられる医師を育てたい!」
「……それがジェネラリスト……!」
「そうだ! ……だが! そのすべての科を修める上で、いったい何万時間の講義と研修と実技経験を得なければならないのかわからない……。人間関係の問題が特にな……!」
「ああ……」
何となくわかるわ、それ……。
「現場の医師たちにしてもそうだが、教える側の講師連中も忙しい。もちろん、俺たちにしてもそうだ……」
「……」
小さく頷くあたし。
「お前たち生徒たちに講義をしながら、外来患者を診て、手術を行っているほどだ! その多忙を極めている……!」
「うん……」
メチャ忙しい……。
「そこで! 俺の妻になってくれ!」
「……何度も言うけど、あたしはOKは出してるけど……」
「いや、お前の意思は尊重している! だが、お前からはまだ、ご家族の方に伝えていないだろ? 自分のホント―の意思を……!」
「それはまぁ……いろいろあって、帰り辛いし……」

ガクッ……
これには、あのクレメンティーナを観察していた怪しい人も、思わずズッコケるほどだ。

「挙式には来賓させたいと思っている……!」
「う~ん……うまくできるかなぁ~あれが……」
「問題の父親か?」
「うん……あたし。かなり素行が悪いし……」
「関係ないさ」
「?」
「俺が年上なんだ。講師が生徒に手を出すのは悪い事だが、病院の経営で困っている御曹司を、一生徒が助けたにすれば、ホラッ、まとまりがいいだろ?」
「うんまぁ……」
上手くはいかない、このままでは……。
その時、ポップアップエアディスプレイが投影された。
「!」
「!」
『本日、午前10時から、某所にてアウトレット製品が販売されています。あの商品がとてもお値打ち価格ですよ!
良い品物を手にするのはあなた!
完売しないうちに、是非ともお立ち寄りください~!』
「……アウトレットか……」


――クレメンティーナたちを観察していた人が、何かあるな、と勘繰る。
席を立ち、動き出すクレメンティーナ達、その後を、観察者が尾行する。


☆彡
「……クリスティ」
「ん?」
「なぜ、アウトレットがあると思う?」
「う~ん……?」
「『まさか我が社が倒産するとは……』、これが多くのフレコミの結果だ……!」
「?」
――その時、向こうに見える道路に、空を飛ぶ一台のトラックが通過していった。
そのトラックの台面には『Flower Foods(フロゥフーズ)』の会社のロゴマークがあった。
それは、アメリカのパン会社だった。
「――どーゆうこと?」
「一番注目に上がるのは、『謎会議』が原因だとされている!!」
「……謎会議……」


――その時、観察者側では。
「……!」
ムッ……あの人は……。
偶然にも、観察していたその人は、この場でヨーシキワーカさんを発見してしまう。
それは、あちらも同じ。
「!!」
これにはずいぶん驚いていた。
そのヨーシキワーカさんも、こっちの様子に気づき、どうしようか迷う。
その様を見て、観察者は。
まさか見えるのか……クッ、分が悪い……。
これには尾行していたその人も、早々に観念したのか、路地裏に回り、消え上せていった……――


――クレメンティーナとスプリング側では。
「速い話が金だ!!
給与にまつわる話だが、アルバイト、パート、正社員など……。
実は取り決めるのは何もその務めている会社だけではなく、『公益代表』『労働者代表』『使用者代表(会社)』などの各同数の委員で構成される審議会の場において、
議論の末、労働局長などが決定している。
決定権は、そう上にある……!!
これは年間を通して、その年の予測的な上下推移を見て、賃上げを行っている!
ただし、下回る場合は、従業員等の意欲低下などに繋がる危険があるので、それ相応の理由等がなければ行ってはならない!!」
「当たり前じゃないの!?」
「そう、当たり前だ……!!
だが、会社の経営者からみれば、財布のヒモはキツク縛りたいものだ。
だが、その年に応じて賃上げをしなけれならないから、それ以上に稼がなければならない。
負担を強いるのは、いつも決まって、そう、下の者たちだ」
「……?」
「……わかるか?」
いいえ、と言わんばかりにあたしは首を振るう。
「医師は高給取りだから、正社員以上だ!! お前には関係ないかもしれないが……。あえて話すなら……そう、しわ寄せが原因だ!」
「しわ寄せ……?」
「あぁ……悪循環だ……!
例えば、会社が人を止めていくような場所を作った場合、そこには正社員は置かない。
いても、自発的に辞めていくように促すのが目的だからな……。
よって、正社員という役職はなく、パート止まりとなる。
10年以上在籍しても、そこだけは昇級の目途はない……。
また、どんなにその人物が優れていても、どうでもいい場所の場合は、誰も見向きもせず、必要だと認知されていない……。
よって、賃上げも行わない。
まあ、せいぜいその従業員が申し出て、良心的な課長連中が行っても、1ドルしか上げないだろう」
「メチャ低ッ!!」
1ドルは、132円相当である。
だが、それはアメリカの場合で、日本の場合はもっと困窮である……それこそ、10円とか……。
「パート(フリーランス)は悲惨だわ……」
「俺もそう思う……」
そんな会社は、人が辞めていくのも頷ける。
納得のご理解だ。


――とその様子を観察している人がいた。
その人がいるのは、ビルの屋上である。
そう、あの路地裏から忽然と消えた人物である。
その頃、ヨーシキワーカさんは、その人物を見失っていた……。
「………………!?」


「――でも何でそれが……?」
「例えばだが、そのどうでもいい場所が、仮に、人体に血液を送る血管だとすれば……?」
「血管……まさか……!?」
「うむ、だいたいその認識で合っている……!」
「……」
呆けてしまうクリスティ。
「脳や神経網が仮に院長や副院長などの私だとするならば、手足などは各科の医師や講師たち。だが仮に、その血液を作る骨髄液に何らかの問題が生じ、ガンが発生してしまったら……?」
「白血病……!?」
「うむ……!」
その推察で合っている。
止まっていた足が歩み出す。
その後ろをクレメンティーナがついていく。
「ガンが生じた場合は?」
「代わりのドナーを探すしかないわね。それか免疫療法か、特効薬のオプシーボかロイコトリエン拮抗薬などが考えられます!!」
「いわゆる自己免疫療法か、外部からの攻撃によって、その原因を取り除くか……」
「はい!!」
「が、それは医師として認識の視点だ!!」
「!?」
「現場は違う……!!
例えばだが、体の中の抗体の種類によって、外部からの特効薬がかえって劇毒と化す場合もある!」
「あっ……」
あたしはその先がわかり、ショックを受けてしまう……。
(医療ミス……!)
脳裏にその言葉が過ぎる。
「自己免疫療法にしても、その原因がわかっても、時間切れで、病院のベッドの上だろうな」
「……」
「……」
俺はクレメンティーナに振り向く。
「代わりのドナーを探すにしても、そう都合よくはいかない……」
「……」
「人材を育てるにも、それ相応の長い年月がいる……!!
人が辞めていくような場所を作った場合は、
その望みは薄い……!!」
「……なぜ?」
「ハァ……。ここで登場するのが謎会議だ!」
「? どーゆう事ですか?」
「仮にだが、各科の医師たちは正社員だろ?」
「ええ」
「当然、病院の経営者としては、その社員たちの意見を尊重し、楽をさせて、売り上げ利益主体になる」
「当たり前じゃないですか!?」
「それが当たり前を見直すに繋がるんだ!」
「!?」
「いったいいくつの会社が、それが原因で倒産した事か……。ハァ……」
「……?」
「そのしわ寄せをすべて被るのは、そのどうでもいい場所だ」
「あっ……」
「悪循環が悪循環を生み、その掛け替えのない人材が抜けた場合、その損失額は計り知れないほど大きい……!!」
「えっ……!?」
「骨髄がやられてみろ? 腰が悪ければ、もうまともに立てないだろう……」
「……」
互いに肩を並べて歩く2人。
「……どうなるんですか?」
「……その後は調整調整して、騙しを効かせても、無駄だろうな……」


☆彡
――連れ歩く2人。その目線の先には、何かを探しているような人がいた。
その人物は、謎の観察者を追ったが、まんまと逃げられてしまったヨーシキワーカだった。
「……あれ? どこ行ったんだ? ……!」
「……」
「……」
目の前をいくつもの空を飛ぶ車が走っていく。
信号機は赤色だった。
「……」
「……」
「……」
待ちの時間……。
歩行者信号機の赤色が青色になり、横断歩道を渡っていく。
クレメンティーナ、スプリング、ヨーシキワーカ、その他の人たちが歩いていく。
「……病院が倒産する場合、どうしたらいいのかしら?」
「縁起でもない事言うな……!! 負債してでも、現場医師たちを雇い続ける……! ……全身科医(ジェネラリスト)を作るまで……!!」
「フゥ……責任重大だわ」
「……」
その双肩にプレッシャーが重くかかる。
その時――

「――必要ないですよ」

「!?」
「!?」
「話の大筋はわかりませんが、なんとなくですが、認識の視点を高く持てば、……やり直せますよ?」
「えっ?」
「えっ?」
「?」
振り返っていくクレメンティーナ、スプリング。
そして、首を傾げるヨーシキワーカ。
歩行者信号機の青色が点滅し、赤色になる。
自分たちは対岸に移っていた。
「……どーゆうこと?」
「えっ!? えーと……どう言えばいいかな? う~ん……例えば、総務課の人たちがいて、会計を預かってますよね?」
「ええ……」
「自分なら、その不備を見直しますね……! ポイントは大きく分けて2つ……!
1つは、火元のどうでもいい場所。
もう1つは、どこかに闇ルートを通じていて、会社のお金が抜き出されていないかどうかです」
「え?」
「自分の病院の人間を疑うのかッ!!? バカバカしい!!」
「いいえ、そうではなく、自分が知る限りでは、火元に皆さんが目が行っていて、その真意に気づいていないだけです」
「?」
「?」
訳の分からない発言を行う青年。
だが、興味を抱いた私は、こう尋ねる――
「――聞くだけ聞いてやる!! 話せ!!」
「……」
コクリ
とヨーシキワーカさんは頷いた。
「1つは火元です!
会社の会計を預かる人ならば、過去10年間分以上はその頭の中にあるはずです!
その良かった年だけではなく……、もっとベース的なものが見えてくるはずです……! その土台ともいえる基礎工事から見つめ直してください」
「基礎から見直す……」
「……」
呟くクリスティに。
考えさせられるスプリング。
「会計を預かる多くの皆さんは、その認識の視点は、数字だけに囚われた消費型だと思います!」
「消費型……」
「現場を預かる人たちはたくさんいて、知っている人も大勢いるはずでしょう。その当時のリポートデータを記し、1つの流れを作るんです。流動型です」
「……」
「……」
「そして、1番大事なのが、各科を赤・緑・青・黄・白に見立てた積木のようなカスタムブロックを作り、1本の線の実行プログラムを敷きます。これを無骨型とします」
「無骨型……」
「消費型、流動型、無骨型、これをひとまとめにして、コマンドラインと説きます!!
後はプログラム通りに、繰り返し繰り返し実行プログラムをかけて、正常に動作するか試していくんです。
でも、必ずと言っていいほどバグが出てきます。
それはアクシデントと言えるもので、許容範囲の内です」
「……」
「……」
「現場の人たちを褒めてください。
それはきっと値打ちものですよ!
どう捉えるかはその人達次第ですが、自分なら上手く取り入れていきますね!」
「……」
「……」
これには納得の思いの2人。
「もう1つは?」
「……」
そう尋ねてきたには、スプリング様だった。
これにはあたしも驚き得る。この気難しい人を、関心を向けさせるだなんて……。
「?」
でも、その首を傾げるヨーシキワーカさん。意外と天然かもしれない……。
ハァ……
と溜息交じりで、俺は、頭を悩ませて、この人に問いかける。
「バカバカしいと言ったやつだ!!」
「ああ……会計の不備ですね?
これは今から200年前、2019年12月に起きた『COVID-19』新型コロナウィルスが原因で、当時、多くの会社が倒産に追いやられました……!
人が大量に辞めていった年でもあり、期間満了の自己都合による退職した人も含みます。
人が1人辞めた程度で、潰れる会社はまず、あり得ませんからね……。
どこかに見落としているポイントが……そう、大きな落とし穴があるはずです。
その会社が気がついていないだけ……。
……自分が言いたい話のポイントとは、
人の認識視点を、もっと高く持ち、多角的視点から、その原因を探っていくことです。
会計、現場、そして、その道に風の通り道ができているかどうか……。
何か大きな塞き止め石のようなもので塞がれていれば、その原因を取り除けばいいですよ。
水が流れますから……。
……。
火元は、これで取り除けられます。
そして、この原因を作った人は、自分たちが認識していないだけで、使えもしないポンコツ社員です。
それは現場の人たちではなく、もっと上の役職の人たちも含みます!
その会社の総取締役、法人株主がキツク𠮟るべきでしょう。
そして、火元の原因を取り除いても、まだ会社の純利益が落ちてるなら、別の要因が考えられます。
それは悪い人です!
……。
……自分が悪い人間なら、そこに誘導させます。
人を使ってでも……!!
その当時、仮にその出来事が起きていて、誰にも知られていない中で、犯行を犯していた人達も、極稀にいます……!
世界中の国、どこかで……――
……。
自分が悪い人間で、技術力があり、そうした現場に立ち会えていたなら、
ちょっとした魔がたち、新型コロナウィルス騒ぎに乗じて、アカウントとパスワードと架空の口座を作ります。
腕時計型携帯端末と会社のパソコンとメモリカードとノートを用意します。
ノートは、アカウント名とパスワードを記録し、
さらにいくつもの架空の場所を通るので、不備がないか、何度も確認を取りながら行うので、必要です。
メモリカードは、そのアカウントとパスワード上のデータを残すもので、なくしてはいけません。
後は簡単だと思いますが……。
腕時計型携帯端末などで、架空のアカウントを作成し、
会社のパソコンを使って、その架空口座に入金、振り込みます。
その当日だけ確認を取ったら、腕時計型携帯端末に残っていたアカウントを消去します。
ただし、メモリーカードは活きている状態なので、架空の口座は当然活きたままです。
仮にもしも、会社の同僚が気づいても、何くわぬ顔をしていて、誰にも気づかれません……!!」
「……」
「……」
「かってのSIMカードのなりすまし詐欺事件の応用ですよ。
そう、スマートフォンのSIMカード、もしくはマイクロSDカードを用いた高度な犯罪です……!
もしくは、
スマートフォンを会社登録用、個人用で2つ持てば、誰にも気づかれませんよね……!?」
「あっ……」
「あっ……」
「後は会社のお金を引きだすだけです。……!?」
首を傾げるヨーシキワーカさん。
「お前、頭いーな?」
「完全犯罪じゃない……?」
「完全犯罪……!? いいえ、この世に完璧なものは何1つとしてありません」
「!」
「!」
「自分が警察ならできますよ! それが……!」
「えっ……」
「警察……」
もしかしたらの登場に、怯えるクレメンティーナ。前科があるため、もしかしたら……と思い、つい怯えてしまう。
怪しむスプリング。
だが――
「――違うけどね……」
「「違うんか――ィ!?」」
乗りツッコミの2人。
「……どうやるんだ? その犯人を特定するためには……!?」
「……」
これにはあたしは、どんな顔をして驚き得ていたんだろう。
その名も知らない人は。
「ヒミツです! ただし、下手に周りから注目の視点を、その会社に向ければ、倒産の危険性があります!!」
「……」
「……」
「周りからは決して騒がない事です!
自分なら、鶴の一声で、法人株主様に連絡を取り次ぎます。
後は、株主様を通じて、警察などに頼むなどして、各個人の給与明細書、クレジットカード、PAYPAY、すべてのアカウントに至るまで徹底的に調べます! メールや通知などもすべてです!
電話会社などにも、協力の打診をお願いしましょう。
また、インターネットのマイクロソフト社やグーグル、ヤフーなどの協力を得なければ、犯人に逃げられてしまうでしょう。
だから、警察の力が必要なんですよ。
……。
もしも仮に、火元が原因で倒産するなら、仕方がない事ですけど……。
それ以外に不備があるなら、もうそこしか考えられません!!
自転車のパンクの修理と同じ理屈です!
タイヤのチューブを取り出して、水の張ったバケツの中に入れれば……。
ホラッ、気泡が出ているはずですよ!
そこが原因なので、修理をお願いしますね。
……じゃ!!」
それだけ言い残し、ヨーシキワーカさんは去っていった――
「……風みたいな人ね」
「ああ……」

――その様子を、ビルの屋上から見ていたのはと、ある観察者だった。
「……」


☆彡
【アウトレット店】
ザワザワ ワイワイ ガヤガヤ
とある企業が倒産し、その負債を少しでも補うために、安価(アウトレット)で販売されていた。
主に、ここに販売されているのは、各企業にあったその会社の備品である。
工具、電動工具、安全帯、フルハーネス、ツールケース。
箸、食器、鍋、フライパン、包丁、砥石、ダイヤモンドシャープナー、パン焼き機、オーブン、電子レンジ、冷蔵庫。
塩、砂糖、コショウ、各種調味料、お菓子、茶菓子、お茶請け、高級銘柄のお茶の葉、コーヒー、アップルティ、ジュース、栄養剤、カップラーメン。
財布、各種銘柄。
刺繡の布、合皮、本革。
靴、長靴、安全靴、スポーツシューズ、ビジネスシューズ、登山靴。
カバン、ビジネスカバン、ウェストポーチ、リュック、バックパック。
自転車の空気入れ等々、実に多彩である。
「……人が多いわね……」
「ああ……ちょっと見ていこうか……」
そう言い、あたしの前を歩いていく彼。
「……」
これにはあたしも嘆息しちゃう。
彼の進む足は、店員さんのいる所だった。
「はい、何でしょうか?」
「病院のものだ」
「……は……?」
「そこにある在庫の品を知りたい。
当病院が欲しいのは、主に塩、砂糖、コショウ、各種調味料に加え、お菓子、茶菓子、高級銘柄のお茶の葉、コーヒー、アップルティ、ジュース、栄養剤、カップラーメンなどだ。
その在庫を調べてくれ!
言い値でこちらが引き取る……!!」
「へ? へ? へ? は、はいっ!! ただいま!!」
これには付添人のあたしも、その彼の後ろで唖然茫然としていた。
ものの数分の出来事だった……。
「……さて、ここからは自分の金だ」
「!」
そう、今のは病院の金だ。
彼は、理事長の御子息なので、病院の入り用なものがわかり、先手を打って、言い値で買い取るよう交渉を持ちかけたのだ。
これにはあたしも。
「……さすがだわ……」
「フッ……」
そして、周りの人たちは、主に女性陣が驚いていた。
ヒソヒソ
と噂が飛び交う。
「なんかすごい人だわ」「ええ」
「ちょっとあれ見てー」「ワオ―結構イケメン」
「隣にいる女誰かしら?」「う~ん……姪じゃない? 親戚の……?」
「あの人の腕時計見て、結構高値よあれ!」「わわっ、凄い人見ちゃった!」
等々、声が上がる。
「………………!」
これには私も、マズいな思いつつ、顔色が曇っていく。
そしてある時、妙案が思い浮かぶ。そう、それは――
「――ここで1つ注意を!」
「!」
「目立たないように……。務めている会社の人間とかな……」
「……」
「「「「「……」」」」」
台無しである……。
これにはこの場にいる一同、何も言えず……である。
スプリング様の、機転を活かした妙案により、この場にいる一同が途端に白けてしまった……。

【――台無しだったの……】
【その場にいるおばさま方が、何かすごい人だわとヒソヒソと噂が飛び交っている中、たったその一言で、その場が一気に白けてしまったの……】
【それってつまり――】
【ええ、周りの注目を集めたくなくて、あたしとのデートを楽しむために、スプリング様が打った機転だと思う】
【妙手だよそれ……――】

「……」
気づかれないように、部屋の隅からクレメンティーナを見詰める人がいた。
あの観察者である。


そのクレメンティーナは、包丁を見ていて、これなんか良さそうと思っていた。
その顔が輝いていた。
だが、観察者は、その包丁を遠くから見ただけで、すぐに偽物だと気づいた。
(ダマスカス鋼か……同じ絵柄のプリントアウトしたものだな……。そのプラケースの裏面を見れば、その刃物に使われている材質も絞られるのだが……。まぁ、それが倒産の理由かな……?)
だが、その事に気づけないクレメンティーナは、彼にねだり、買い物かごの中に入れる。
偽物のダマスカス鋼のプリントアウトしたものを、お買い上げになる気だった。
これを見た観察者は。
(フゥ……やれやれ……)
少しだけ、助け舟を出す気でいた。
その足が歩み出る――
そうとは知らないクレメンティーナは、おもむろに財布コーナーに近寄っていき、いい値の財布を眺める。
「……どれがいいかしら?」
アメリカのブランド物の財布が売られている。どれも銘柄である。
「『AVPEX(エイペックス)』『GUESS(ゲス)』『POTNCO(ポトコ)』『Schott N.Y.C(ショット ニューヨークシティ)』『BEAMZ'SOQUARE(ビームズクオーツ)』『AVIREX(アビレックス)』
『ADPOSION(アダプション)』『BRIEFING((ブリーフィング)』『X-girl(エックスーガール)』
『COACH(コーチ)』『ZONALe(ゾーン)』『BEN DAVIS(ベン・デイビス)』
そして、Michael Kors(マイケルコース)!! アメリカから世界へ進出したトップブランドよね!!
ねっねっ、どれががいいと思う!?」
「………………」
う~ん……
とこれには俺も考えさせられる。
クリスティが欲しいのは、マイケルコースで決定だろう。
「112ドル……か……」
ウキウキ
と俺の隣で期待の目を向けるクリスティ。まだまだ可愛い学生さんだった。
「ふむぅ……」
112ドル。
1ドルは132円であるからして、
112×132=14,784円。
実に約15000円相当である。
俺は顔を上げ、じっくりその場にある財布を眺める。
うむ、これがいい。
俺が選んだのは、『社名不明 パイソン インナーカードケース 蛇革レディース 金運風水 パールゴールドカラー』だった。
Python(パイソン)は神話上の呼称。
現実の呼称では、うわばみのことである、また英語読みではピュトンの名で知られ、ギリシャ神話では、邪蛇である。
「これね! へぇ~いいわねぇ~!」
「……」
俺はクリスティの感想を聞き、自分の目利きが良かった事に、安堵した。


【――知っての通り、あたし達のいる時代では、現金は使わないから、インナーカードケースが主流だったの】
【あぁ、現金の小銭や紙幣などは使わないから、必要ないもんね】
【ええ、そうねスバル君、主にお店のカードと通院にかかる際のカードだものね】
【……そして、お支払いは主に3パターン】
【キャッシュカード決済方式と】
【腕時計型携帯端末によるキャッシュレスアカウント決済方式】
【そして、Aiナビが決済を済ませてくれるパターンね】
【これは、自分の架空口座にアカウントとパスワードを登録し、Aiナビを通じて、やり取りする方式が取られているのよ】
【まぁもっぱら、クーポン券ご利用などもあって、AIナビに任せているんだけどね】

(――これでいい……)
心の中でほくそ笑むスプリング様。……それは闇への手招き。
邪蛇がクレメンティーナを飲み込まんとしていた。

【――あたしは彼が選んでくれた、蛇革のパールゴールドカラーの長財布を手に、喜んでいたのを覚えているわ】
【そこへ、見知らぬ人からの声がかかるの――】

「――インナーカードケースばかりのものはお勧めしませんよ」

「!」
「!」
それは、後ろからの声だった、振り返るあたし達。
あたしの見た、その人の第一印象は――
(――見るからに怪しい人……)
だった。
その人が近寄り、こう告げる。
でも、あたし達の事は見ていなくて、その財布コーナーを眺めていた。

「財布は、縁起物の1つです! パイソン柄のホントにいいものは白蛇です」
「パイソン……?」
「はい。パイソンは、ここアメリカ圏でピュトンの事を言い、日本ではニシキヘビみたいなものです。
蛇は再生の象徴とされ、
それは蛇が成長過程で脱皮する様から、無限の再生の象徴とされているんです。
そうやって大きく成長していく……!
特に、白蛇が珍しく、神の使いとされています」
「……」
「……」
「その様を見て当時の人は、益々の繁栄と健やかなる成長を願い、縁起物の1つと担いでいるのです。
その為、蛇の頭が尾に噛みつき、無限に再生する様から、お金が無限に再生するという『偏った』考え方が生まれたんです。
……。
パイソン柄のものがよろしいんですか?」
「ええ……」
「なら、こちらのメーカーの物が縁起物として、1ランク上です」
「!」
「!」
「濱野本家、日本の皇室御用達の1つ、傳濱野(でんはまの)です!
リッチなRyufka Felice Python(リュフカフェリーチェパイソン)です! 他のどんなパイソン柄よりも、軽いと感じるのが最大の特徴ですよ!」
「……軽い……」
「ええ、軽いです」
「………………」
迷うあたし。手に取りたいと衝動があった。でも……。
「………………」
あたしは隣にいる彼を見て、彼が選んでくれたこの長財布に力を込める。
どっちがいいのかしら?
気を利かせてくれた彼を無下にするわけにもいかない。
「……」
クリスティ(あたし)としても迷うところだ。
(余計な邪魔を……!!)
スプリング(私)は、彼女に気を利かせ、目の前にいるこいつに、こう問いかける。
「えらく詳しいな?」
「……ええ」
こいつに非難の視線を向ける。
声にドスを利かせて、こう言う。
「しかし、日本の皇室の御用達か……? なぜかな?」
「……」
「なぜ、こんなものが、こんなところにある? そんな信じ難い上等なものが……!」
「……」
これにはあたしも確かに思った。
有り得ないからだ、そんな皇室の御用達の財布が、アウトレット店(こんなところ)にあるはずがない。
あたしは思わず、この人にこう問いかける。
「そうよね……。フツーに考えて、考えられないものがあるわね? どうしてあるのかしら?」
「……」
あたしの意を借りるように、睨みつける彼。
この人の反応は。
「……フッ、なんて事ないですよ」
「「!!」」

【――その人は、どこ吹く風だったの】
【彼はごくごく自然体のまま、こう言ったのを覚えてるわ】

「――どこかの会社が倒産した場合、その負債を負うのは誰ですか?
それは法人様です! 法人株主様とも取れますね?
……法人の財産や債務は、法人のものという事になります。
従って、その会社が倒産したとしても、その影響は、法人自身にしか及びません。
法律上、別人となる会社の代表者には、直接の影響はないということです。
……まぁ、法律上はね」
「法律上……?」
「ええ。……ただし、一部の例外もありまして……。
会社の保証人になっている場合など、例外的に法人の債務の責任を負う場合もあります。
その為、法人様からの通達を無視し、独断専行で会社を運営した場合は、この限りではありません」
「どーゆう場合が考えられるんだ?」
「そうですねぇ……例えば、その会社の企業理念に反する事を行った場合、その会社の保証人様は、言い逃れができませんね。
その負債を負う形となります。
まぁ、借金漬けですね」
「……」
「……」
「法律上、要約するとこうなります。
法人破産の場合、例外的に社長や理事がその責任を負う場合がある。
これは代表者が、その損害賠償責任を負う場合(ケース)です。
会社の保証人となっている場合や、会社から借り入れしている場合などは、その借金返済の義務があります。
法人株主様も心が痛みますね……」
同情しますよ……。
「人を見る目を養えばそうはならなかったと思います……。
ご自身の知らないところで、至らないがために、その会社を運営していた人たちの問題なのに……。
気づけば会社は火の車……。
呆れ果てて、掛ける言葉もありませんよね?
私が思うに、もっと現場に顔を出していれば、何かが変わっていたのかもしれませんがね……」
「うん……」
「うん……」
これにはあたしが、彼が、思わず頷いてしまうほどだ。
納得の理由と経緯だ。
「という事はこれは……?」
「多分、法人株主様の奥様の所持品か、代表者様の奥様の所持品かと推察できます」
「な、なるほど……」
「おそらく、こちらで購入できるものの中で、最高峰の品物だと推察できます。……いかがなさいますか!?」
「そうねぇ……」
う~ん……
とこれにはあたしも考えさせられる思いだ。
(おそらく、日本の文化に興味をお持ちだった婦人様の持ち物で間違いない……かも。
この品質の高さ、細部の造り、間違いない。
きっとコレクションとして大切に着飾っていたものなのだろう。
だが、突然、夫の会社が何らかの理由で倒産し、なくなくその負債に当てるために、妻自らの手で手放した…………)
あたしは思考を加速させる。
(うん……この推察で合ってるかも……! でも……)
チラッ
とあたしは隣にいる彼を見て、そんな迷い断ち切るように頭を振って否定する。
やむなく、あたしが出した結論は――
「――やっぱり、彼が選んだものにするわ! ごめんね!」
「……」
「……」
これには安堵する彼。
残念そうな顔の人。
「……」
でもその人は、ムズ痒くて、何だかその真意を聞きたくて、こう尋ねてきた。
「……どうして!? なぜですか!?」
「フッ……そうねぇ……。人の持ち物でしょう?」
「……」
「……」
「これもそうだけど、何より奥様が大事にされていたものをアウトレットで購入するのは、忍びなくてね……ごめんなさいね」
「……」
その怪しい人は、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに顔をしていて、呆けていた。
でもすぐに、納得のいく見解を得たのか、普段通りの顔つきに戻っていく。
その顔立ちが自然体に整っていく。
「フッ……いえ」
それは正しい選択肢だった。
クリスティさんは間違っていない。
「それに……!」
「!」
「いつかは婦人になるかもしれないモノね……。その時に彼に買ってもらうわ。もちろん、病院の金ではなく、自分で稼いでくれた真っ当なお金でね!」
「……」
「……」
……ッ。
これはいったい誰の心の声なのだろうか。それは定かではない――


★彡
――その後、デート中だった2人はこの場を去っていた。
窓辺から顔を覗かせる観察者。
フッ……
とその場から忽然と消えていった……――



TO BE CONTINUD……

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