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エピローグ、その後

--戴冠式、結婚式から四ヶ月後。

 ラインハルトとナナイは皇帝、皇妃として、そのまま(カイザリヒャー・)(パラスト)に。

 ハリッシュは帝国魔法科学省の長官に任命され、クリシュナと共に(カイザリヒャー・)(パラスト)近くの官舎で暮らしていた。

 ジカイラ、ティナ、ケニー、ヒナの四人は、ラインハルトとティナの実家であるヘーゲル工房で働いていた。

 ジカイラが素っ頓狂な声を上げる。

「はぁ? オレ宛に手紙??」

 ティナがジカイラを諭す。

「ジカさんだけじゃなくて、私達宛にね」

 四人の元に皇帝となったラインハルトからフクロウ便で手紙が届いたのだった。

 ジカイラが封印を切って、羊皮紙の手紙を開いて目を通す。

 ジカイラが口を開く。

「・・・ナナイに子供が生まれたらしい。男の子だそうだ。見に来いってさ!」

 ケニーが驚く。

「そうなんだ。皇太子の誕生だね」

 ジカイラが口を開く。

「・・・なぁ。結婚して四ヶ月で出産って、おかしくないか? アイツら、絶対、結婚前に子種仕込んでいただろ!?」

 ヒナがジカイラを諌める。

「ジカさん、そういうのを『下衆の勘繰り』っていうのよ。あの二人は大人なんだから、余計な詮索はしないの!」

 ジカイラがヒナをからかう。

「・・・お前、段々と口調がナナイに似てきたぞ?」

 ティナが口を開く。

「早速、皇太子を見に行こう!!」

 話を聞いていたオットーも話に混ざってくる。

「おし! お前ら、オレの手紙を持って、ラインハルトの所へ行って来い!」

 ジカイラがオットーに問い質す。

「良いんですか!? 親方??」

 オットーは上機嫌に答える。

「構わん! 構わん!! オレの孫の誕生祝だ!!」 

 ジカイラ、ティナ、ケニー、ヒナの四人は、オットーの飛空艇を借りて(カイザリヒャー・)(パラスト)へ向かう。

 





 
 四人の乗る飛空艇は、(カイザリヒャー・)(パラスト)併設の飛行場に着陸する。

 四人は、侍従によって案内され、皇帝となったラインハルトに謁見する。

 皇帝となったラインハルトは、四人に対して『公人』として振る舞う。

「皇妃と皇太子に会って行くが良い」

 四人は、侍従によって皇妃となったナナイの居る『皇帝の私室』に案内される。

 侍従がノックして声を掛け、ドアを開ける。

「皇妃殿下。ご友人達をお連れ致しました」

 四人は侍従の案内で部屋に入る。

 ナナイは、風通しの良い部屋の日陰で、ゆりかごで子供を寝かしつけていた。

 出産後で胸が張るためか、ゆったりとした白いワンピースを着ており、いつも上げていた金髪は三編みにして一本にまとめて肩から下げており、涼しげに見えた。

 ナナイは笑顔で四人を出迎える。

 ティナはナナイの手を握り、久々の再会を喜ぶ。

「ナナイ! 元気そうね!」 

「みんな、良く来てくれたわね。もうすぐ、ハリッシュとクリシュナも来るわよ」

 ヒナが更に大きくなったナナイの胸を見て驚く。

「ナナイ、胸が凄い大きくなってる」

 ナナイが笑顔で答える。

「ああ、これ? 子供を産むと、ヒナもこうなるわよ」

 ジカイラが愚痴をこぼす。

「ラインハルトの奴、皇帝になった途端に、随分と素っ気ないからな」

 ナナイが諭す。

「彼には『公人』としての立場があるのよ」

 程なくハリッシュとクリシュナが『皇帝の私室』にやって来る。

 ハリッシュが口を開く。

「皆さん! お久しぶりです!!」

 クリシュナも口を開く。

「みんな、元気?」

 ハリッシュが続ける。

「ラインハルトの即位とナナイとの結婚と言い、四ヶ月後の皇太子の誕生と言い、帝国は目出度いことが目白押しです!!」

 ナナイが口を開く。

「皇太子のジークフリートはここよ」

 そう言ってナナイがゆりかごの側に行く。

 皆がナナイの後を付いてゆりかごの元へ行き、赤子の皇太子を覗き込む。

 女の子たちが口を揃える。

「「わ~。かわいい」」

 ジカイラがしたり顔で解説する。

「ふむ。顔のパーツはラインハルト似だが、目の色はナナイ似だな」

 ヒナがジカイラに話し掛ける。

「当たり前でしょ! 二人の子供なんだから!!」

 クリシュナが諭す。

「赤ちゃんの傍で大声出さないの」

 皆であれこれ話しているうちにラインハルトが『皇帝の私室』にやって来る。

 ラインハルトが口を開く。

「皆、久しぶりだね」

「「ラインハルト!!」」

 皆がラインハルトの元に集まる。

「済まないな。『公人』としては、あの場では、ああするしか無いんだ」

 ラインハルトが皆に話し掛ける。

「皆に話がある」

 ハリッシュが口を開く。

「話しとは?」

 ラインハルトが続ける。

「実は、革命政府の秘密警察長官グレインと軍事委員のコンパクが逮捕された」

 ジカイラが驚く。

「彼奴等、生きてたのか!?」

「ああ。革命政府の幹部たちは『テロリスト』として国際指名手配している。革命政府主席のヴォギノも生きている可能性がある。逮捕した二人の取り調べで、奴等が北西部の『港湾自治都市群』に向かっていたことも判明した」

 ハリッシュが呟く。

「港湾自治都市群。帝国から自治を許された港湾都市ですね」

 ラインハルトが続ける。

「そうだ。キナ臭い連中だ」

 ハリッシュが問い質す。

「キナ臭いとは?」

 ラインハルトが続ける。

「ハーヴェルベルクを狙っていたガレアス艦隊は沿岸しか航行できない。ガレアス艦隊は何処で補給した?」

「アスカニア大陸に『ハンガンの実』は自生していない。狼の(ヴォルフス)(シャンツェ)の『ハンガンの実』は何処から持ち込まれた?」

「革命政府の幹部が逃亡先に選んだのも、港湾自治都市群だ」

 ハリッシュが答える。

「なるほど・・・革命政府だけでなく、様々な悪事に裏で一枚噛んでいるのが『港湾自治都市群』だと?」

 ラインハルトが答える。

「そういう事だ。しかし、確たる証拠も無く、表立って帝国が介入する訳にも行かない」
 
 ジカイラが口を開く。

「そこでオレたちの出番って訳か!!」

 ラインハルトが口を開く。

「そうだ。立場上、皇帝の私が表立って動く訳にも行かない。・・・ナナイも子供が生まれたばかりだ。仮にヴォギノが生きていて、逃げ込むとしたら、港湾自治都市群だろう。そこで、ジカイラ達に港湾自治都市群と新大陸を探って来て貰いたい」

 ジカイラが答える。

「勅令だな! 任せろ! サクッと探って来てやる!!」

 ヒナとティナも口を開く。

「「私も行く!」」

 ケニーも追従する。

「僕も行く!」

 ハリッシュが謝罪する。

「申し訳ない。私とクリシュナは行けません。帝国復興という仕事がありますので」

 ジカイラが話す。

「オレ、ティナ、ヒナ、ケニーの四人だな」
 
 ラインハルトが話す。

「ジカイラ。これとこれを持って行け」

 ジカイラはラインハルトから羊皮紙の巻物と妖しげな鈴を受け取る。

 ジカイラは訝しむ。

「なんだこれ??」

 ラインハルトが説明する。

「この巻物は身分証明書だ」

「こっちの鈴は?」

「これはエリシスが作った『次元の(ディメンジョン・)呼び鈴(アラーム)』だ。片方を鳴らすと、どんなに離れていても、もう片方の鈴が鳴り、その位置を示す」

 ラインハルトが右手でジカイラに渡した鈴を鳴らすと、ラインハルトが左手に持つ鈴も鳴る。

 そして、左手に持つ鈴は、右手に持つ鈴の現在位置を空中に地図を描いて示した。

 ジカイラが驚く。

「・・・凄いな」

 ラインハルトが真顔で告げる。

「何かあったら、これを鳴らせ。例え、そこが世界の果てであろうとも、必ず私が迎えに行く。」 

 ラインハルトが続ける。

「バレンシュテット帝国皇帝の名と我が剣にかけて、必ずだ」

 ジカイラは笑顔で答える。

「ま、その時は頼むわ」

 ジカイラは思い出したように、オットーからの手紙を取り出す。

「そうだ。そう言えば、親父さんからコレを預かってきたぞ」

 ラインハルトはジカイラからオットーの手紙を受け取ると、目を通す。

「『孫の顔を見せに来ない、親不孝者に育てた覚えは無い』か・・・養父さんは手厳しいな」

 ラインハルトは苦笑いする。







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-- 一週間後。

 二機の護衛飛空艇を連れて、真紅の単座単翼の前翼型飛空艇が大空を飛ぶ。

 バレンシュテット帝国の紋章が描かれた皇帝専用機である。

 その後ろを四機の護衛機を連れた大型の輸送飛空艇が着いてくる。

 こちらもバレンシュテット帝国の紋章が描かれた帝室用の機体であった。

 これらの飛空艇は、ルードシュタット郊外のヘーゲル工房の傍らに着陸する。

 ラインハルトは、皇帝専用機から降りると護衛機の士官達に指示する。

「お前達は輸送飛空艇で休んで良い」

 護衛の士官達は敬礼して返す。

 輸送飛空艇からは、子供を抱いたナナイが降りてくる。

 ラインハルトと子供を抱いたナナイを、工房の入り口でオットーとティナ、フローラが出迎える。

「おおっ! これがオレの孫か!!」

 オットーは、ラインハルトの子供を見るなり、可愛くて嬉しくてしょうがないのか、ニヤけ続けている。

「二人とも長旅で疲れただろう。さぁ、中に入って休め。今日はフローラが焼いたミートパイがあるんだ」

 ラインハルトとナナイは家の中に入って行く。

 一家は、束の間の休息のひとときを家族の団らんで過ごした。


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 ラインハルトを拾って育てたオットーは周囲に語っている。

「オレの職人人生で二番目に驚いたことは、息子の彼女がここいら一帯を治めるルードシュタット侯爵家のお姫様だったって事だ!」

「そして、オレの職人人生で一番驚いたことは、オレの息子がこの国を統べる皇帝になったっていう事だ!!」

 彼は皇帝の育ての親であるにも関わらず、その人生を一介の職人の親方で通した。

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