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第九十六話 決戦、死の山(一)

 無事、入城式が終わり、ラインハルトは『皇太子主催晩餐会』を開き、参加した要人達を招待した。

 ユニコーン小隊と帝国四魔将、カマッチ達、冒険者ギルドの面々が(カイザリヒャー・)(パラスト)に集まり晩餐会に参加する。

 晩餐会では、アキックスが州都キズナから持ってきた特産品のエール酒を参加者に振る舞い、エリシスは連れてきた死者の(コープス・)花嫁(ブライド)のメイド達に配膳や給仕をさせていた。

 (カイザリヒャー・)(パラスト)で開催された晩餐会としては珍しい、和やかな雰囲気で行われた。

 ラインハルトは皇太子の礼装で、ナナイは純白のドレスを着て皇太子妃のティアラを付けている。

 ラインハルトは主催者としてナナイを伴い、招待した面々に挨拶して回る。

 エール酒を飲み、アルコールの回ったハリッシュは饒舌になり、帝国魔法科学省での戦いで、死者の魔導師(エルダーリッチ)五体相手に自分が如何に活躍したかをクリシュナに力説していた。

 ジカイラが挨拶に来たラインハルトとナナイに話し掛ける。

「お前ら、何処から見ても皇太子と皇太子妃だよ」

「そうか?」

「そう?」

 ラインハルトの答えにナナイの答えも被る。

「しかし、『革命党討伐』とは、随分、思い切ったな。わざわざ、あのガマガエル一味を討伐しに行くとは」

 ジカイラの言葉にラインハルトは真顔で答える。

「『死の山(ディアトロフ)』に立て籠もる革命党は、アスカニアの癌そのものだ。奴等が存在する限り、大陸に麻薬は流通するし、奴隷市場は地下で開かれ続け、動乱の火種は燻り続けるだろう」

 ラインハルトの答えにナナイも続ける。

「麻薬や奴隷貿易、人身売買といった悪の組織の存在を許すつもりはないわ」

「なるほどな」

 アキックス伯爵が三人の元へやってくる。

「血気盛んだな」

「伯爵」

 ラインハルトは一礼してアキックスを迎える。

死の山(ディアトロフ)は、名前の通り山をくり抜いて作られた要塞だ。大軍で攻めるには不向きだぞ? どう攻めるつもりだ?」

「小隊で乗り込んで、革命党の幹部を討ち取る計画です」

「なるほど。我々、帝国四魔将も協力させて頂こう」

「ありがとうございます」

 ジカイラがラインハルトに話し掛け、右手の掌を上に差し出す。

「いよいよ決戦だな!」

「そうだ!」

 そう言うとラインハルトは自分の右手でジカイラが差し出した掌を叩き、今度は自分の右手の掌を上にジカイラに差し出す。

「いつもどおり、クールに決めろよ!」

「ああ!」

 ジカイラがラインハルトの掌を右手で叩くと、二人は互いに右手で作った拳を合わせる。

 その様子を見たアキックスが笑顔で話す。

「ははは! では、決戦を前に、乾杯しよう! 殿下!!」

 アキックスの言葉で死者の(コープス・)花嫁(ブライド)のメイド達が晩餐会の参加者にシャンパンの入ったグラスを持たせて回る。

 ジカイラにグラスを持ってきたのは、獣人(ビーストマン)三世(クォーター)のメイド、ルナであった。

「どうぞ」

「また会ったな!」

「私のことを覚えていてくれたんですか?」

「まぁな。その可愛い獣耳(けもみみ)と尻尾は忘れないよ」

 ラインハルトの音頭で乾杯が行われる。

「諸君! いよいよ決戦だ! 諸君らの働きに期待する! 帝国に(ジーク・ウーバー・)勝利を(ダス・ライヒ)!!」

「「帝国に(ジーク・ウーバー・)勝利を(ダス・ライヒ)!!」」





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--翌朝。

 皇太子ラインハルト達、ユニコーン小隊が乗る飛行空母ユニコーン・ゼロは、革命政府最後の拠点である死の山(ディアトロフ)へ向けて、(カイザリヒャー・)(パラスト)併設の飛行場から離陸した。

 帝国四魔将が率いる四個方面軍もユニコーン・ゼロに続く。

 エリシス率いる帝国不死兵団は、ほとんどの兵が飛べないため、ヒマジン率いる機甲兵団の輸送飛空艇に乗り込む。

 帝国軍の主力である四個方面軍が揃って陣形を組み、大空を進軍する様は、壮観な眺めである。

 帝都ハーヴェルベルクから南西方向にある要塞死の山(ディアトロフ)まで、飛行空母ユニコーン・ゼロで三日間の行程であった。





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死の山(ディアトロフ) 革命党本部

 要塞死の山(ディアトロフ)に陣取った革命政府は、組織をそのままに籠城していた。

 司令室の席に座るヴォギノの元に革命党軍事委員のコンパクがやって来る。

「ヴォギノ主席。秘密警察から報告が届いております」

 ヴォギノはコンパクから羊皮紙の報告書を受け取ると、封印を切り、目を通す。

 報告書には、『革命軍ユニコーン小隊の指揮官ラインハルト少佐は、革命時に要塞死の山(ディアトロフ)で幽閉する際に、侍女と一緒に馬車ごと谷底へ落ちて行方不明となっていた皇太子である事』、『皇太子が帝国の四個方面軍を率いて要塞死の山(ディアトロフ)に向かっている事』が記されていた。

 ヴォギノは激怒する。

「ぐぬぬぬう。ワシが勲章を授与した、あの金髪の若造が、実は行方不明の皇太子だったというのか!?」

 コンパクは怪訝な顔をする。

「皇太子は、この要塞死の山(ディアトロフ)に幽閉されているはずでは?」

 ヴォギノが怒鳴る。

「党が宣伝(プロパガンダ)した嘘に決まっておるだろう! 皇太子は革命の時に人質として死の山(ディアトロフ)に幽閉するはずだった。しかし、首都からの移送中に侍女と一緒に馬車ごと谷底へ落ちて行方不明となっておったのだ!!」

「で、では、首都に現れた皇太子というのは・・・?」

「化け物のような帝国四魔将を従えているところからも、正真正銘、本物の皇太子だろう。仮に奴等の一個方面軍だけを相手にしたとても、我々には、万に一つも勝ち目は無いというのに!!」

(クソッ! クソッ! どうしてこうなった!?)

 地団駄踏んでいたヴォギノは、また何かを閃いたようにコンパクの方を見る。

「コンパク! 大陸北西部の港湾自治都市群に使いを出すのだ! 『革命党の政治亡命を希望する』と! 港湾自治都市群には、麻薬取引と奴隷貿易で随分と儲けさせてやったのだ! 今こそ、その投資を回収する時だろう!!」

 コンパクは恭しく一礼する。

「判りました」

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