309章 舞台を見る、舞台に向かう
出演するはずなのに、観客として舞台を見つめてしまっている。柳俳優団の生演技は、迫力があり、見るものを大いに引き付ける。
役者の演技に対して、監督からの厳しい怒号が、舞台に飛んでいた。柳俳優団の看板を背負っているだけに、妥協は許されない。
監督の怒号を聞くたびに、自信をどんどん失っていく。プロでダメだしされる世界で、自分はやっていけるのか。
舞台の演技を見つめていると、真理がやってきた。
「ミサキさん、緊張しているんですね」
「はい。あそこに立つと思うと、とっても緊張します」
真理はリラックスさせるためなのか、満面の笑みを作った。
「ミサキさんは、数々の修羅場をくぐってきました。私たちよりも、心臓に毛は生えていると思います」
「そんなこと・・・・・・」
「素人にもかかわらず水着写真を販売する、キイさんとデュエットするなんて、無謀もいいとこ
ろです。通常の人なら、恐れ多くてできません」
「要望のままに、写真撮影、デュエットしただけです。無謀という認識は持っていません」
「あっさりといってのけるのは、超大物の証ですよ。私は口にできません」
真理は隣に腰掛ける。
「きっちりと演技しないと、出演に反対している人たちから顰蹙を買います。ミサキさんの話が出たとき、95パーセントは反対していました」
団員のほとんどから反対される。素人の出演に対して、良いイメージを持っていないようだ。
すべてが敵に見えたことで、頬の筋肉は硬直することとなった。
「ミサキさん、表情筋が固いです」
「すみません・・・・・・」
「私たちからいえるのは、俳優団に泥を塗らないでほしいということだけです。長年かけたものを、一瞬で壊されてはたまりませんから」
「は、はい・・・・・・」
「そろそろ出番です。舞台に行きましょう」
真理の後ろから、ゆっくりとついていく。うまくできるのだろうかという、不安に押しつぶされそうになっていた。