307章 舞台出演
ミサキは撮影のために、友達駅の近くにあるスタジオにやってきた。
「ミサキさん、今日はお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
ミサキは緊張のあまり、肩はがくがくと震えた。
「ミサキさん、緊張しているんですか?」
「はい。超一流の方ばかりなので、とっても緊張しています」
柳俳優団は1000人近い団員が所属する。その中で認められた人だけ、舞台に立つことを許される。競争に敗れてしまった者はテレビ出演できないまま、こっそりと姿を消していく。日の目を見られるのは、ごくごく一部の団員だけである。
「私たちは、ズービトル、エマエマさん、ルヒカさん、キイさんほどではありません。超有名歌
手からすれば、ひよっこみたいなものです」
「そんなことないですよ。最高の演技は、マネできません」
部門は違っていても、超一流であること同じ。他人を引き付ける魅力を兼ね備えている。
「ミサキさんの歌を聴いていたら、セリフもいけるかなと思いました」
「そんなことはありません。私はずぶの素人です」
「ミサキさんの声は、俳優、歌手にぴったりです。他者を引き付けるためには、声は非常に重要な要素です。柳俳優団を目指す人は、演技力で優劣をつけられることはほとんどありません。ごくごく一部の団員をのぞいては、声は最終判断の材料になります」
アイドル、歌手のときも、声は重要であると聞いた。普段から発する声は、人生を大きく左右する。
ミサキのところに、元上真理がやってきた。超一流ということもあって、風貌を漂わせてい
た。
「ミサキさん、こんにちは」
「真理さん、こんにちは」
元上真理は心の中にある本音を口にする。
「私は素人とは出演したくありません。演技もできないような人では、柳俳優団に泥を塗ってしまいます」
真理の考え方は、至極まっとうである。プロばかりの舞台に、素人の出演は馴染まない。
「真理さん、そんなことをいわないでください」
真理は語気を強める。
「寝る間を惜しんで、特訓をしてきました。私のこれまでの努力を、全否定された気分になってしまいました」
超一流は寝る時間を減らして、道を究めていく。それを怠った時点で、歯医者になるのは確定している。
「あくまで個人の意見であって、柳俳優団の見解ではありません」
真理は舞台に向かった。素人と出演することに対する、不快感を隠すことはなかった。