303章 のどか
ミサキの来店を知らないのか、店の中は平和そのものだった。人数の少なさに対して、安心感をおぼえることとなった。
3人組の女性は、こちらにやってきた。
「ミサキちゃん、CD発売をするとニュースで聞いたけど・・・・・・」
「キイさんとコラボしました。ちょっとだけですけど、一人で歌っているところもあります」
音痴な歌唱力を、全世界に発信する。恥さらしをしているようで、とっても悲しい気分になった。キイのこれまでの実績に、泥を塗らなければいいけど・・・・・・。
「ミサキちゃんのCDを絶対にゲットするね」
「朝一で予約しようとしたけど、初版を買うのは無理だったよ」
「私も同じ。インターネットで購入しようとしたけど、10秒とたたないうちに品切れだった」
10秒で初回生産版完売。CDを購入できた人は、どんな方法を用いたのだろうか。
「エマエマさんともコラボして、CDを発売する予定です」
「エマエマさんは、無期限活動休止といっていたような・・・・・・・」
「コラボだけはします。CDは2カ月後に発売予定です」
3人組の女性の一人は、胸キュンしていた。
「CDを絶対にゲットするぞ」
仲間の一人も小さく頷いた。
「私も絶対に欲しい」
「私も手元に置きたい」
エマエマは3人に頭を下げる。
「最高の商品に仕上げていきますので、大いに期待してくださいね」
「はい。とっても期待しています」
「ミサキちゃんの歌声を聞きたい」
「ミサキちゃん、エマエマさんの声が融合したら、どんな作品になるのかな」
3人組と話をしていると、焼きそばが運ばれてきた。マイはマスク、フェイスガードをしてい
るので、人前に出るのは難しい。お客様に姿を見せたら、変質者と勘違いされかねない。
「焼きそばになります」
3人は焼きそばには目もくれず、ミサキに声をかけてきた。
「ミサキちゃん・・・・・・」
シノブはコホンコホンと咳をする。3人組は意図を察したのか、自分の席に戻っていく。
「ミサキさん、10人前は時間かかりそうです。おなかがすいたときは、遠慮なくいってくださいね」
2人で厨房を担当しているので、すぐに完成させるのは難しい。
「シノブちゃん、ありがとう」
「失礼します」
シノブはていねいに頭を下げる。友達、仕事中は完全に切り替えているのが伝わってきた。