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第六十二話 州都キズナ

 古代(エンシェント)(ドラゴン)シュタインベルガーを紹介されたユニコーン小隊の面々は通路を戻り、城塞へ帰ってきた。

 城塞のホールで一息つく。

 相手が相手だけに、誰もが流石に緊張し、多少なりとも疲労を感じていた。

 衛兵が応接で休憩する事を勧めてくれたので、ラインハルト達はその好意に甘えることにした。

 応接室のソファーに腰を掛け、冷たいお茶を飲みながらジカイラが口を開く。

「まさか、おとぎ話に出てくる古代(エンシェント)(ドラゴン)に実際に会えるとはな!」

 未だに興奮が冷めやらない様子で感想を述べる。 

「私も驚きました。まさに『生きた伝説』そのものですからね」

 ハリッシュも興奮気味であった。

「ラインさんもナナイも凄いね! 古代(エンシェント)(ドラゴン)相手に堂々と話せるなんて!! 僕なんて冷や汗流して、緊張して固まっていたよ」

 ケニーも同様であった。

「いや、私も緊張したよ」

 ラインハルトが苦笑いしながらケニーに答える。

「私もよ」

 ナナイも両手でお茶を口にしながらラインハルトに追従した。

「『神殺しの竜王』と言われているだけあって、存在感、威圧感が凄かったわ」

 両手を広げてヒナが感想を口にする。

「何というか、とてつもなく強大な魔力を感じたわ。火、水、氷、土、雷、風、毒、聖、闇。どの属性にも耐性がありそう。水の精霊(ウンディーネ)たちも水筒の中で怯えていたわ」

 クリシュナも感想を述べる。

「あの古代(エンシェント)(ドラゴン)って、どれくらい生きているの?」

 ティナが疑問を口にする。

「世界創生から・・・と言い伝えられてますね」

 ハリッシュが答える。

「何千年ってところか・・・?」

 ジカイラが補足する。

「何千年・・・」

 ティナがジカイラが補足した説明を繰り返して呟く。







 小隊のメンバーが応接室で、それぞれ古代(エンシェント)(ドラゴン)に会った感想を話していると、アキックスが噴火口跡から戻ってきた。

「おお、諸君。此処に居たか。実はもう一人紹介したい友人がいるのだが、まだこちらに着いていなくてな。もう数日掛かるようだ。それまで城内や街を案内しよう」

「ありがとうございます」

 ラインハルトはアキックスに礼を述べた。

 アキックス伯爵の領地は、帝国最北部に位置し、ナナイの実家のルードシュタット侯爵家ほど広くはないが、それでも帝国貴族の領地では上位に入る領地面積である。
 
 その領地は、丘陵や高地で農業が行われており、山岳地帯に鉱山や工房都市が数多く存在する反面、海には面していなかった。

 城塞のある州都キズナを始め、アスカニア大陸を貫く交易公路が伯爵領を南北に縦貫していることもあり、隊商が行き交い、交易は盛んに行われていた。

 また、革命政府が解禁した人身売買や麻薬取引、奴隷貿易などは厳しく禁止されており、極めて強力な帝国竜騎兵団、帝国北部方面軍が駐屯しているため、伯爵領の治安は非常に良く、経済的にも発展していた。

 ユニコーン小隊の面々は、アキックス伯爵に州都キズナを案内して貰う。

 市街地の大通りを各地の交易品を積んだ隊商が行き交い、街や市場には活気があった。

 案内されているラインハルトは、ふと気付く。

 街で見掛ける人々に結構な数の『亜人』が混じっている。

 全体を10とするなら、人間8:エルフ1:ドワーフ1くらいの比率だろうか。

 僅かだがリザードマンもいる。

 ラインハルトが驚いているとアキックスが話し掛けてくる。

「んん? 彼等が珍しいか? ・・・まぁ、首都近郊では、あまり見掛けないだろうから珍しいだろうな。この街の住民の概ね二割弱は亜人達なのだよ。この街と彼等の本国との貿易のため、この街に駐在で居る者が多いのだ。主に工業製品や鉱石、木材といった原材料、農産品、酒類などが取引されている。」

「なるほど・・・」

 ラインハルトに亜人達の説明しながら、アキックスは街角の売店に立ち寄る。

「そして、この街の名産品のひとつがこの『エール酒』だ。どうだ? ひとつ?」

 そう言うとアキックスは、小隊のメンバーに一杯ずつエール酒を振る舞う。

「頂きます」

 ラインハルトがグラスから一口飲むと、ホップの苦味と麦芽の甘味、芳醇な柑橘系のようなフルーティーな鼻に抜ける香りも心地よく、喉越しも爽やかであった。

「伯爵ったら、昼間からお酒飲んで・・・」

 ナナイに咎められると、アキックスは苦笑いしながら答えた。

「まぁ、そう、堅い事は抜きにしてだ。この街の名産だからな」 

 そう言って言葉を濁していた。

 しかし、そう言うナナイもグラスのエール酒を飲んでいた。

「これ、旨いな」

「だろう?」

 ジカイラの言葉にアキックスが嬉しそうに相槌を打つ。

 アキックスと小隊一同はアルコールが入ったこともあり、饒舌かつ楽しく州都キズナの観光を行い城塞へ戻った。
 





 城塞では、竜騎士が乗る飛竜(ワイバーン)が飼育されている建屋に案内される。

 建屋の中に入ると、竜騎士が自分の乗る飛竜(ワイバーン)の世話をしていた。

 飛竜(ワイバーン)は知能が高く、人語は話せないものの人語を理解していた。

 個体それぞれに名前があるらしく、竜騎士は飛竜(ワイバーン)を名前で読んでいた。

 一行は、飛竜(ワイバーン)の飼育建屋を抜け、飛竜(ワイバーン)の子供が飼育されている小屋に進む。

 そこにはまだ成鳥として一人前になる前の飛竜(ワイバーン)がいた。

「わぁ~! 可愛い!!」

 ティナやヒナ、クリシュナは飛竜(ワイバーン)の子供を見て、大喜びであった。 

「餌をあげてみるか?」

「うん!」

 アキックスから言われてティナとヒナ、クリシュナが楽しそうに飛竜(ワイバーン)の子供に餌をあげる。

 餌をくれる三人に鳴きながら飛竜(ワイバーン)の子供達が群がる。

 微笑ましい光景にその場の一同が目を細めて、餌をやる様子を眺めていた。

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