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第六十話 帝国軍編入

 アキックス伯爵は、城塞の応接室のドアを開け、中に入った。

「失礼。お待たせしました」

「お久しぶりね。アキックス伯爵」

 ナナイがアキックスを出迎える。

「なんと!?」

 アキックスは驚く。

 応接室で待っていたのは、首都ハーヴェルベルクの路地裏で自分と斬りあった騎士二人とその従者の老執事であった。

 ラインハルトもアキックスの竜紋の篭手or籠手を見て、気が付く。

「貴方は! あの時の!!」

「何という運命のイタズラだ! まさか、ハーヴェルベルクの路地裏で斬りあった相手が、ナナイ様達であったとは!!」

 アキックスは歩み寄り、両手でナナイの両手を握る。

「そのエメラルドの瞳、昔のままですな。お父上は息災か?」

「父上は病で伏せております。」

 ナナイは俯いてアキックスに答える。また、革命軍に仕官した経緯などをアキックスに話した。

「左様であったか。随分と苦労されているようだ。そなたのお父上は、我が『心の友』。そなたは『我が娘』と同様だ。ルードシュタットの宮殿に比べ、此処はむさ苦しいところだが、家に居ると思って寛がれよ」

「お心遣い、感謝します」

 アキックスは握っていたナナイの両手を離し、パーシヴァルの方を向く。

「ご老体、息災で何よりだ」

「はっはっは。まだまだ若い者には負けん!! 先程も敵飛行船を撃沈してきたばかりじゃ!!」

 パーシヴァルの武勇伝自慢にアキックスは追従する。

「ほう?それはそれは。またご老体の武勇伝に箔が付きますな」

「はーっはっはっは!」

 アキックスはラインハルトに歩み寄る。

「帝国騎士の筆頭たる緋色の肩章(レッド・ショルダー)のそなたが、何故、革命軍などに?」

 ラインハルトは、徴兵で革命軍の士官学校に入学し上級騎士(パラディン)になったこと。敵艦隊を撃滅し、緋色の肩章(レッド・ショルダー)を授与されたことなど、正直に経緯を話した。

「ふぅむ・・・」

 アキックスは考え込む。 

「まぁ、上級騎士(パラディン)緋色の肩章(レッド・ショルダー)のそなたがナナイ様の傍にいるなら、安心だろう」

「恐れ入ります」

「後で、話がある。同行して来た者たちも居るだろう。此処は安全だ。まずは、ゆっくりと休んでくれ」

「ありがとうございます」

 ラインハルト達一行は、アキックス伯爵のマナー・ハウスに宿泊し、長旅の疲れを癒やす事にした。





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 --夕刻。

 マナー・ハウスの広いパンケットホールで、ユニコーン小隊を歓迎する晩餐会が催された。

 女性陣はアキックス伯爵からドレスを貸して貰い、着飾ってご機嫌であった。

 中でもナナイの純白のイブニングドレス姿は、『本物の貴族』だけに、見事な着こなしで際立っていた。

 ラインハルトがナナイをエスコートしてホールに入ると、周囲から歓声が沸く。

 アキックスは微笑ましい光景に目を細めて眺めていた。

(あの二人は恋人同士か。本来なら、ああやって着飾って舞踏会に行ったり、日々、友人達と恋花の話でもしている年頃だろうに)

 久々の豪華な食事と、メオス軍による包囲網からの脱出成功を祝い、晩餐会は大いに盛り上がる。

 アキックスが昔話を始めた。

「幼い頃のナナイ様は大変な『おてんば娘』でな。よく馬代わりに私の背に乗り「もっと早く走れ!」と息巻いていたのだよ」

 アキックスの話にジカイラが呆れる。

「ナナイは『大陸最強の竜騎士』を馬代わりにして、遊んでいたのか!?」

「そんな昔のこと。恥ずかしいわ。伯爵」

 その場にいる一同が笑う。

 宴もたけなわの頃、アキックスが小隊のメンバー全員に話しを切り出した。

「実は、諸君らの力を貸して欲しい」

「私達に出来ることであれば」

 ラインハルトの答えにアキックスは素直に喜ぶ。

「革命政府に皇太子殿下が捕らわれ、何処かに幽閉されている事は御存知かな?」

「はい。話だけは、聞いたことがあります」

「諸君らには、皇太子殿下を探し出して救出して貰いたい。国境の守りのため、私は表立って動けないのだ」

「皇太子殿下の救出・・・」

 ラインハルトは言葉に詰まる。

 皇太子はナナイの婚約者であった。 

 アキックスが補足する。

「これは革命政府への叛逆になるだろう。よって、諸君らには、階級はそのままで帝国軍に編入して貰おうと思っている。」

 ハリッシュが質問する。

「所属は何処になるのですか?」

「私が預かる。正式には『帝国北部方面軍所属ユニコーン独立戦隊』となる」

「おお!なんか、カッコいいな!!」

アキックスの答えにジカイラが喜ぶ。

「ちょうど、革命政府には、メオスの包囲戦で烈兵団共々、我々も全滅したと思われているようです。今後の補給などを考えると、帝国軍にお世話になったほうが良いと思います」

 ハリッシュの状況説明にジカイラも同意する。

「革命政府に義理は無い。帝国軍のほうが待遇が良いからな。革命軍で野宿はしたが、晩餐会なんて無かったぞ?」

 ジカイラの言葉に一同は笑う。

 賛同するジカイラには思うところがあった。

(皇太子を探し出して、ナナイとの婚約を破棄させる絶好の機会だ!破棄しなければ、殺るまでだ!!)

 ラインハルトもアキックスの申し出を前向きに考えていた。

(ナナイが抱えている使命を、堂々と小隊で肩代わりできる訳か)

 ラインハルトはナナイに賛同するように促す。

「君の使命を、我々全員で取り組むことにしよう」

 ナナイは悩んでいたようだが、ラインハルトに促され賛同する。

「判ったわ」

 ラインハルトがアキックスに返答する。

「判りました。お引き受け致します」

 アキックスは大きく頷くと、再びラインハルトに話した。

「私が諸君らを預かる以上、何も心配する事はない。独立戦隊としての他の方面軍との兼ね合いから、ラインハルト君には帝国軍大佐になって貰う」

「「おお!!」」

 アキックスの言葉にその場にいる一同が驚く。

「帝国軍の制服は、明日、用意させる。私の友人も紹介しよう」

「お心遣い、感謝します」

 ラインハルトはアキックスにお礼を述べた。

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