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281章 マイナスはプラス

 ミサキは食事を終える。しっかりと食べたこともあって、元気を取り戻すことに成功した。

「孤独の世界を生きてきたからか、仲間の大切さを知りませんでした。仲間というのは、とってもいいですね」

「そうですね。エマエマさんも仲間を作ってみませんか?」

 エマエマは首を小さく横に振った。

「歌手を引退するまでは、仲間はいりません。孤独に強くなければ。いいものを届けることはできないでしょう」

 仲間と遊ぶよりも、自分磨きを優先する。超一流の人に、欠かせないステータスといえる。

「お金を払ってくれる人のために、いいものを届け続けたいです」

「エマエマさん、次の曲を楽しみにしています」

「ミサキさんの心に響くような、音楽をお届けしたいです」

「ありがとうございます」

 エマエマは鞄の中から、一枚目のCDを取り出す。

「エマエマさん、最初のCDを持っているんですね」

「はい。歌手デビューは一番の思い出ですから・・・・・・」

 売れた、売れないではなく、デビューした思い出を大切にする。

「フユコさんのCDはびっくりしました。最初のCDを持っている人は、世界で5人しかいません。
私が一枚、マネージャーが一枚、両親に一枚、他で二枚です。フユコさんは2人のうちの、1人と
いうことになりますね」

 全世界のうちで2人だけが持っている。完全なるプレミア商品といえる。

 エマエマは肩を落とす。

「2枚という現実を突きつけられたとき、歌手をやめようと思いました」

 名前を知られていない人であっても、10枚くらいはCDを売り上げる。2枚はあまりにも少なすぎる。

「エマエマさんは、どうして歌手を続けたんですか?」

「両親からの説得ですね。10年は面倒を見るから、音楽の世界で勝負しろといってくれました」

 両親の存在なくしては、超一流歌手は誕生しなかった。才能も大切だけど、めぐりあわせも非常に重要となる。

「エマエマさんは、どうして売れなかったんですか?」

「声を評価されていなかったんです。あまりに独特すぎるので、不気味がられることもありました」

 エマエマの声は、二代目のドラえもんみたいな特徴のある声。姿は見えなくとも、声だけで誰なのかわかる。

「最初は声を憎みましたけど、途中から考え方を変えました。独特な声を生かして、音楽の世界を駆け上がろうと思いました」

 最大の欠点は、最大の長所になりうる。マイナスをプラスにとらえるのは、非常に重要なやり方である。

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